72 スキーを滑る前に
翌日、私達は宿泊施設のすぐ隣にあるスキー場へ行き、スキーを習うことになっていた。
スキー一式はレンタルで、宿泊施設でも貸し出しをしている。
普通に買ったら、諸々を含めて数万円になるから、買うという選択肢は有り得ない。
仮に自前で持っていたとしても、北海道まで自前のを持ってくるのはもっと有り得ないし……。
ただ、あくまでも団体客向けのレンタルなので、好みのデザインとかは選べない。
サイズがあっているかどうかが最優先事項で、安価な量産型か中古の傷だらけの物の中から、自分の身体に合うのを選ぶことになる。
「うわ~、スキー靴って、大きくて重っ……。
歩きにくいねぇ」
私は初めてスキー靴を履いたけど、足首を保護する為なのか、硬くてゴツゴツとしていて、しかも重い。
歩くだけでも苦労する。
しかし──、
「はーい、そこ!
組み手をしないっ!!」
隣のクラスでは、こぶしちゃんと久遠さんが、回し蹴りの打ち合いをして怒られていた。
あんな重い靴で、よく足が上がるなぁ……。
というか、その硬い靴で蹴られたら、常人なら骨折とかするよ?
まあそれはさておき、問題なのはここからだ。
「次にスキー板を選びます。
自分の身長より、ちょっと短いくらいのがいいです」
スキー板は靴よりも更に重い。
なんだこれ……。
こんなものを運ぶとか、ちょっとした苦行じゃないか……。
足に装着しても、動ける気がしない……。
「それでは、ここからスキーを履いて、スキー場まで歩いて行きます」
「えっ、無理!?」
私はお母さんの言葉を聞いて、そう思った。
……そう思ったんだけど、スキー靴に装着して、雪の上を滑らせると、案外歩きやすかった。
これならばスキー靴だけで歩くよりは、楽なのかもしれない。
でもこれ、平地だからいいけど、上り坂だったら無理だな……。
確か坂に対して横向きになって、一歩一歩スキー板を持ち上げながら歩くんだよね……。
うん、私には重くて無理。
ともかく私達は、遊歩道のような道を通ってスキー場へと向かう。
そしてスキー場へ辿り着くと、簡単な講習を受けて実際に滑ることになる。
「はい、リフト券を受け取ったら、上まで行きますよ」
お母さんからリフト券を受け取り、それを腕章のように腕に付けて、これを係員に提示することでリフトの利用ができる。
ちなみにこの券は半日券で、今回の場合は午前中ならば何回でもリフトに乗れるそうだ。
だがこのリフトが1つのハードルだった。
海外でこれが暴走して、振り落とされる人の動画を見たことがある。
それはレアケースにしても……、
「こ、これ、どのタイミングで乗ればいいの!?」
たぶん背後から来る席に座ればいいだけなんだろうけど、タイミングを間違うと転んだりしそう……。
スキーが重くて、動きにくいし……。
「珠戸さん、手を繋いでいきましょう。
私がタイミングを計ります」
「あ、ありがとう」
福井さんが私のフォローをしてくれるらしい。
リフトは2人乗りだから、彼女に頼らせてもらおうかな。
で、私達の順番が来たら、所定の位置まで移動して待機。
お……おお……後ろから座席が来る。
「今です、座って」
「はい」
なんとか無事に乗れた。
しかし、本番はこれからだ。
「うわ……高い……っ!!」
5mくらいあるのかな……?
そんな高所なのに、足の下に何も無い状態で運ばれていくのは、なかなか怖い。
しかも──、
「ひいっ!?」
何故かリフトが止まって、席が前後に揺れた。
幸い何も無かったけど、一瞬落ちるかと思った……。
「な、何っ?」
「た、たぶん乗る時か、降りる時に、失敗した人がいるのだと思います。
そういう時はリフトを緊急停止させて、その人を安全な場所に運ぶんだとか……」
ええぇ……そういうこともあるのぉ……?
私は失敗しなくて、良かったよ……。
いや……降りることにはまだ成功していないので、油断はできないな……。
「降りる時は、何も無ければいいねぇ……」
「そうですね。
昔は降りられずに、そのまま下まで行っちゃう人もいたらしいですからね……。
今は対策をされているそうですが……」
うわぁ……さらし者だぁ……。
結局その後は何事も無く、リフトから無事に降りることができたけど、スキーの本番はこれからなんだよね……。
事故ると最悪の場合は死ぬから、緊張するよ……。
このスキー場もモデルはあるけど、フィクションです。




