68 名物を食べる
水族館の見学が終わった後は、昼食の時間だ。
食事の場所は、団体客向けの大きなドライブインらしい。
1度に数百人単位の客を受け入れることができるそうなので、かなり大きな規模だ。
「凄い……!!
こんなに大量の料理を見たの、初めてだ!」
さくらちゃんが、はしゃいでいる。
大ホールの中に並んだテーブルの上には、100人前以上の料理が並んでいた。
確かにこれだけの量の料理は、初めて見たな……。
「でも、さくらちゃんが食べられるのは、一人前だけだよ?」
「え~っ!?
こんなに一杯あるのにぃ?」
いやいや、「え~!?」じゃないでしょ。
でも私も、少しはテンションが上がったかも。
私が調理師なら、どうやってこの量を調理するのか、それを考えてみる。
ふむ……メインはジンギスカンという羊肉の鉄板焼きだから、切り分けた材料を並べればいいだけか。
肉を焼くのはカセットコンロで客に任せる方式なので、調理の手間がかなり減らせる。
あとはルイベ……凍らせた鮭……それともマスかな?
それを刺身にしたものだから、あらかじめ切っておいて並べればいいだけ……。
それと他の惣菜は業務用っぽいな。
これも器に盛り付ければいいだけだ。
なるほど……極力面倒な調理は避けて、かなり効率化されている感じだね。
それでも1日に何百人分も用意するのは大変だろうし、そもそも食器洗いが膨大な数になるだろうけれど……。
これを限られた人員でこなすのだとしたら、気の遠くなりそうな話だ。
だから料理を用意してくれた人に感謝しなきゃ、罰が当たる。
「いただきます」
さて……味の方だけど、ジンギスカンは羊の肉だよね。
クセが強いと聞くけど……確かラムとマトンでもかなり違うんだよね?
どれどれ……。
ん、そんなに気にならないかな。
クセの強さで言えば、牛肉とそんなに変わらないレベルな気がする。
つまりこれはクセが少ないというラム肉?
あと、ジンギスカンのタレは、ショウガがかなり利いているっぽいので、それが肉の臭みを消しているというのもあるのかもしれない。
「うう……私はちょっと苦手かもです」
あ、福井さんは駄目か。
そもそも肉自体が苦手という人もいるだろうし、万人受けはしないのだろうね。
「マジ!? 食べないのならあたしがもらうよ!」
「さくらちゃん……さすがに意地汚いので駄目」
「え~っ!?」
たぶん、これを許したら他の人が残した物も、さくらちゃんは食べかねない。
そんな残飯処理みたいなことはさせられないよ。
「福井さんも、どうしても無理なら仕方がないけど、こういう機会じゃないと食べないんだし、貴重な体験だと思って食べればいいと思うんだよ。
いつか良い思い出になるかもしれないし」
「そ、そうですね」
私の言葉で福井さんも、頑張って食べてみるつもりになったようだ。
そして次はルイベだけど……。
うん、半解凍のお刺身だな。
それ以上でもそれ以下でもない気がする。
確か元々は、寄生虫を殺す為に凍らせたんだっけ?
主目的が美味しくする為の調理法じゃないから、まあこんなものなんだろうな。
いや、これが正式な調理方法で作られた「本物」なのかは、よく分からないけれど。
もしかしたらもっと美味しいのが食べられる店が、他にもあるのかもしれない。
う~ん、いっそジンギスカンと一緒に、鉄板の上で焼いていいですか?
味噌だれさえあれば、「ちゃんちゃん焼き」という北海道名物になるのだが……。
……あれ? 他の団体客の方をよく見たら、「ちゃんちゃん焼き」っぽいのをやっているな……。
普通にメニューにあったのか!?
ただ、本来は鉄板の上で鮭や野菜を味噌だれと一緒に焼く料理だけど、ここでは取り皿に注いだ味噌だれに焼いた具材を付けて食べる方式のようだ。
……なるほど、鉄板で味噌だれを直接焼くと、こびりついて洗いにくくなるからなんだろうな。
いずれにしても、たかだか数枚のルイベを焼くのに、味噌だれを注文する訳にもいかないし……。
そもそも追加注文の支払いは自腹だよね……。
ああ、いっそジンギスカンのタレで食べればいいのか。
「お、綺美、面白いことやっているね。
魚を焼くの?」
「味への探究心が抑えられなくて……」
普段食べない食材に出会うと、色々と試してみたくなるのは料理人の性だなぁ……。
こういうのも旅行の醍醐味だね。
ただ、刺身のような薄い身を焼いても、バラバラにほぐれて食べにくいだけだった。
もっと分厚く切ったものじゃないと駄目だな、これは……。
今回出てきたドライブインにもモデルはありますが、店がある地域は違いますし、現在も同じような営業形態なのかは分からないので、あくまでもモデルです。なお、アルバイトが3日で逃げだすほど重労働でした。
あと、新作『潜夜鬼族狩り(https://book1.adouzi.eu.org/n7378hl/)』の投稿を始めました。本作とはジャンルが違うバトル物ですが、よろしければ読んでみてください。本作に登場している久遠理沙の姉が主役です。




