表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/91

64 勇者と魔王

「いざ()かん、魔王城へ!」


 と、台詞(せりふ)を読み上げるのは、勇者役の綺美ちゃんだった。

 勇者の衣装には鎧などの装備品はなく、小学生でも作れるような簡単なものだった。

 モチーフは某『トラクエ』3作目の勇者かな?


 しかし勇者、ちっちゃいな。

 魔法使い役のさくらや、戦士役の羽田さんって子から比べると、まるで親子のようだ……(ちなみに僧侶役は名も知らない子だった)。

 あと、胸部装甲の問題で、ナチュラルに男の子に見えなくもない……。

 

 そして綺美ちゃんが、最初の一歩を踏み出す。

 これは町の外に出て、冒険の旅が始まった瞬間のシーンだ。

 しかし──、


「ふははははっ、待っていたぞ勇者よ!」


「なっ、何者!?」


「我は魔王。

 新たな勇者が生まれたと聞いて、将来の強敵の芽を摘みに来たぞ」


「魔王!?」

 

 先輩──魔王の登場である。

 自分で脚本に関与しておいてなんだけど、担任教師がこんな目立つ形で登場する劇なんて、聞いたことがないな……。

 だが本人の希望なので、仕方がない。


 しかし最初の町を出た瞬間に魔王に遭遇するとか、クソゲーにもほどがある……。

 まあ敗北前提のイベント戦なら有りなのかもしれないが……。


「くっ……このっ!」


 勇者は剣を抜き、魔王に斬りかかった。

 しかしその攻撃は、あっさりと魔王に(かわ)されてしまう。


「ふははははは、あまりにも未熟!

 貴様ごときに、この魔王を倒すことなどできぬ!」


 先輩、ノリノリだなぁ……。

 しかし先輩の真骨頂はここからだ。


「そもそも、このような可愛らしい者を勇者にすること自体が間違っている。

 ……いや、本当に可愛いな……?

 気に入ったぞ、そなたを我が妻に迎えよう!」


「えっ……?

 わぁっ!?」


「勇者様っ!?」

 

 魔王が勇者を抱えて走り去った。

 完全に事案である。

 劇とは言え実の母親でなければ、クレームが来そうな展開だ……。


『このような事態に備えて、防犯ブザーは常備しましょう』


 ナレーションが教訓めいたことを言っているが、こうなってしまうと後の祭りだねぇ……。

 ともかくここから、残ったパーティーメンバーによる勇者を取り戻す為の旅が始まるのだった。


 それからの勇者奪還の旅だが、まあその辺はダイジェストだ。

 尺の都合があるしね。

 まあそれでも、魔王の手下として私の知らない子達が顔見せ程度に登場し、勇者パーティーに襲いかかっては返り討ちに遭うという、雑な処理がなされている。


 ……まあ、モブの宿命だね……。

 ただ、福井さんのように完全に裏方に回っている子もいるし、顔出しがあるだけでも観劇をしている保護者としてはありがたいのかもしれない。


 そして、あっという間に魔王城に到達する。

 ──が、


「勇者様と、魔王はどこだ!?」


 さくらがそう呼びかけたのは、丹治易(にじい)頭映(かしらば)って子だな。

 このシーンに登場するのは、魔王軍の幹部だったはずだから、その役なのだろう。

 そしてその2人は──、


「よく来たな光の戦士達よ!

 ……どうか魔王様を捜す為に、力を貸してくださいまし!」


 と、頭を下げた。


「は……?

 え……魔王はどうした?」


「勇者と一緒に暮らす……と、姿をくらまして以来、帰ってこないんですよ……。

 こんなんじゃ、世界征服とか無理だし……」


「…………」


『戦士達は、このまま勇者と魔王が見つからない方が、世界は平和なのではないかと思いましたが、さすがに口には出せませんでした。

 そして魔王軍と一緒に2人を捜すことになり、この協力が人類と魔族が和解する切っ掛けになったのです。

 結果的に勇者の犠牲で、世界は救われたのでした。

 

 一方、行方不明の勇者と魔王はというと──』


 そんなナレーションと共に照明が消え、そして再びステージが明るく照らされると、場面が変わっていた。

 そこでは魔王との生活の中で、少しずつ心を開いていく勇者の姿があった。

 最初は魔王を敵視していた勇者も、魔王からの献身的な愛に、認識を改めざるを得なかったのだ。


 ただ──、


「勇者よ……我はあなたを愛している。

 どうかこれからも、私と一緒に愛を(はぐく)んでいこうではないか」


「くっ……!」

 

 と、差し出された魔王の手を、勇者は握ろうとしたが、その手は途中で止まった。

 ん? ここでお互いに手を取り合ってハッピーエンドの流れだったはずだけど、勇者は葛藤しているようだ。

 いやまあ……自分を(さら)った相手を受け入れたら、見ようによってはバッドエンドかもしれないけれど、この展開は先輩の希望だし……。


 そして勇者は魔王の手を振り払う。


「私は勇者だっ!!

 勇者は魔王を倒すのが役目だっ!!」


「なっ……!?」

 

 と、ここで勇者がアドリブを入れた。

 勇者は──いや、綺美ちゃんは、この勇者と魔王の関係を、自身と先輩の関係に重ね合わせてしまったのかもしれない。

 そして意地でも先輩の好きなようにはさせないぞ──という、鋼鉄の意志を感じる。


 勇者の拒絶を受けて、魔王は愕然としたように床へと膝をついた。


「くっ……!!

 我が魔王でさえなければ……!!」

 

『魔王が過去に行った所業の数々が、勇者の心を魔王から遠ざけていました。

 勇者が魔王に心を開く為には、魔王は背負った罪を償っていかなければなりません。

 だけどその想いがいつか勇者に届くと信じて、魔王は努力を続けていくのです』


 うん、先輩とナレーションもアドリブで対応した。

 なかなかナイスな判断だね。

 ちなみにナレーションは福井さんだけど、人見知りの彼女も注目されていなければ、案外ちゃんと喋ることができるようだ。


 そして幕が下りていく。

 会場から拍手が上がるけど、内容に困惑しているのか、ちょっと勢いが弱いような気がするな……。

 最初もちょっと(まば)らな感じで、拍手が始まったし……。


 そんな訳で私が初めて関わった劇は、成功したのかどうかちょっと微妙な感じで終わったのだった。

 まあ、いい経験になったよ。


 なお、観客の中からは、「勇者の子と、魔王の演技は迫真だったわね」なんて声が聞こえてきたが、うん……あの2人、ほぼ素だったし……。

 特に先輩には「演技をして」って突っ込みたかった……。

 先週はお正月だったので、お休みさせていただきました。予告なく休む場合は、作者マイページの活動報告にて告知している場合もあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ