62 文化祭の準備
ブックマークありがとうございました。
文化祭が近づくと、全校的にその準備で慌ただしくなる。
うちのクラスの出し物は劇なので、劇の練習の他に、衣装や小道具などの製作もあり、時として授業の時間もそれにあてられる。
一方私は、クラス委員長としての仕事でも忙しい。
文化祭ではクラス毎の出し物の他に、全児童による合唱の発表もある。
校歌と今回の文化祭のテーマに合った曲だ。
その曲やテーマを決めるのも、各クラスの委員長が集まってすることの1つだ。
まあテーマとは言っても、「文化祭の期間中、健康に過ごそう」とかその程度のものなので、それにイメージがピッタリ合った曲なんてそうそうあるはずも無く、割と強引かつ適当に決めるんだけどね。
それでもいちいち委員会を開いて、それに出席するのは面倒臭いんだよなぁ……。
あ……理解したくないけど、お母さんが私と密着することでエネルギーを充填しようとする気持ちが、少しだけ理解できたような気がする。
疲れた時は癒やしが必要だね……。
「大丈夫ですか、珠戸さん……。
私が負担を減らせれば、いいんですけど……」
私が教室の席でぐったりしていると、福井さんが声をかけてきた。
彼女は副委員長なので、委員会に出席する資格はあるのだけど、人見知りが激しいので、他のクラス委員が集まる委員会への出席は厳しいらしい。
その一方で、
「福井さんは、クラスの方をやってくれているからいいよ」
福井さんにはクラスでの仕事を、かなり肩代わりしてもらっている。
以前は頼りない感じだったけど、最近では大分クラスにも馴染んで、頼れるようになってきた。
……まあ、私の負担を増やしている劇に一枚噛んでいる、元凶でもあるんだけどね。
でも主犯はお母さんだろうから、あまり責められないかな……。
「珠戸さん、次は体育ですから、そろそろ移動しないと」
「ああ……そうだね。
でも疲れたから、福井さんが私を背負ってくれるかな?
……な~んて」
「やりますっ!!」
被り気味に福井さんは答えた。
えっ、冗談だったんだけど!?
「む、無茶だよ……。
いくら私でも重いって」
「大丈夫です、鍛えたので!」
「えっ!」
「遠足の時、不甲斐ない結果になったのが悔しくて……!」
ああ……遠足の時は、福井さんが体力が無い私の手を引いて、山道を登ってくれたんだよね。
その代償で福井さんも、死にそうになっていたけど……。
だからって身体を鍛える?
いや……私も運動が苦手だなんて言ってないで、少しは鍛えた方がいいのかな……?
「凄いなぁ……福井さんは……。
私も見習わなくちゃ」
「いえいえ、とにかく私は大丈夫なので、どうぞ!
あ、私の体操着は珠戸さんが持ってください」
と、福井さんは跪いて背中を向けた。
「じゃ……じゃあ遠慮無く……」
私は福井さんの背に身体を預けた。
その瞬間、
「おふっ……!」
福井さんが変な声を上げた。
「あれっ、やっぱり重い!?」
「いえっ、大丈夫です。
思っていたよりも、柔らかかったもので……」
「やわ……?」
「な、なんでもないです。
大丈夫ですよ!」
と、福井さんは私を背負ったまま立ち上がり、更衣室に向かって歩き始めた。
本当に大丈夫みたい。
しかし廊下では、すれ違う人が好奇の視線を向けてくる。
ちょっと恥ずかしいけれど、まあ遊んでいると思われるだけかな……?
それよりも、目の前の福井さんの髪から、凄くいい匂いがするんだけど……。
これ……高いシャンプーを使っているのかなぁ……?
それにこうして密着していると、不思議と安心感があるね……。
あ……福井さんの体温が温い……。
私、福井蝶胡は珠戸さんを背負って、更衣室へ向かっています。
背中に感じる珠戸さんは、柔く温かくて……その幸せな感触に意識が持っていかれそう……。
落ち着け……落ち着くのです!
ここでまた鼻血を出して倒れでもしたら、この至福の時間が終わってしまいますし、珠戸さんに怪我をさせてしまうかもしれません。
なんとしても冷静さを保ったまま、更衣室に辿り着くのです!
そして更衣室に辿り着くと、
「おー、遅かったなー。
……って、なにやっているんだ、お前達?」
啓内さんが話しかけてきました。
「あ……珠戸さんが疲れたというので、背負ってきました」
「ふ~ん、最近忙しそうだったしな。
って綺美、寝てるじゃん?」
「え?」
確かに意識してみると、珠戸さんの寝息が聞こえてきます。
彼女の感触を楽しむのと、冷静さを維持することに必死で、気付きませんでした。
本当に疲れていたのですね……。
でもそれを抜きにしても、私の背中で無防備に眠っているということは、警戒心が完全に無くなったということですよね!?
これはもう、親友と言っても良いのでは!?
「おい、お前……。
鼻血出しているぞ……」
「え?」
しまった!
嬉しくてつい油断してしまいました。
「あの、珠戸さんのことをお願いします!」
私は啓内さんに珠戸さんを託して、あわてて鼻血を拭くのでした。




