61 文化祭に向けて
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二学期が始まって少し経つと、クラスは10月にある文化祭に向けて動き出す。
で、クラスで何をやるのか決める訳だけど、漫画やアニメの文化祭や学校祭のように、喫茶店やお化け屋敷をやるようなことは無い。
そもそも喫茶店のようなものは、保健所がうるさいから手作りの料理を出すのは難しいし、お化け屋敷も小学生がセットや衣装を作るのは無理だろう。
だから基本的に我が学園の文化祭は発表会だ。
演劇・朗読劇・合唱・楽器演奏・ダンス等々……それらをクラス毎に選択して、発表するということになる。
たぶん合唱が1番楽……というか、特殊な才能が必要なさそうだな……。
演劇とかだと主役が必要で、そういう目立つ人にはどうしても演技力などの技術が求められる。
楽器演奏も何種類もの楽器毎にパートが分かれ、その担当パートに従事する人数が限られるので、失敗すると目立つ為に責任が生じるはずだ。
でも合唱ならば、高音と低音のパートに分かれるくらいで、クラスの半数の人が同じことをやる為、下手な人が混じっていてもさほど目立たない。
そういう意味では、合唱がたぶん1番気が楽だ。
まあ……コンクールで競うくらい、本気でやるつもりなら事情は違ってくるのだろうけれど、そこまでガチなのはクラスの中でも求めている人はいないでしょ……?
そんな訳で、私の希望は合唱だったのだが……。
他者にこの気持ちが分かってもらえるだろうか?
やりたくないことなのに、自らが司会する学級会の中で、それが決まっていく過程──それを為す術なく見続けなければならない、この私の気持ちを……。
「……それでは多数決の結果、文化祭の出し物は劇になりました」
この時点ではまだいい。
「他薦の結果、主人公が私ということになりそうなのですが、本当にいいのですか?」
「「「「「いいでーす!」」」」」
ぐっ……!?
私、立候補とか一切していないのに、主役をやらされそうなんですけどぉ!?
……これというのも、お母さんが持ち込んだ脚本の所為だ。
それをクラスの皆に読ませた結果、劇にしようということになった。
それはまあいいんだけど、主人公のイメージが私に合っているということで、殆ど強制的に私が主役をやる流れになっている。
本当はやりたくないけれど、何人もの推薦を受けている為、数の暴力には抵抗できそうに無い……。
まあ、主役なのに出番がそんなに多くないという、謎のポジションなのが救いではあるが……。
あと、お母さんの出演枠があるって、どういうことなの……?
嫌な予感しかしないんだけど……。
これというのも、この劇の脚本が悪いんだ……!
「ゆりさん、何これっ!?」
私は帰宅してからすぐに、ゆりさんの部屋へと向かった。
あの劇の脚本を書いたのが、ゆりさんだったからだ。
現役作家の書き下ろしという点も、クラスの皆が劇を選択した一因になっている。
「何……って、先輩に頼まれたから書いただけだけど……」
「プロなんだから、そんな安請け合いしないでよ!」
そんな私の抗議に対して、ゆりさんは──、
「いや、プロだから受けたんだけどね……」
と、答えた。
「まさか原稿料が発生しているの!?
お母さんには無駄遣いはしないでって、言っているのにぃ!」
お金が支払われるのなら、仕事は選ばない──そういうプロの人もいるという。
そしてゆりさんは、まだ新人の部類なので、そんなに仕事を選んでいられる余裕は無いらしい。
だからって、お母さんからの依頼は受けないでほしかった……。
「まあまあ、そんなに高額じゃないから心配しなくてもいいよ。
先輩が出した案を、福井さんがまとめて、私が手直しして清書した……って感じだから、そんなに多くはもらえないよ」
「え……?」
なんでそこで福井さんが出てくるの?
確かに彼女はゆりさんの弟子みたいなものだけど、お母さんとはいつの間にそんな繋がりが……!?
「作家になりたいって言う、福井さんの初めての仕事だよ。
綺美ちゃんも、応援してやりなよ」
「ぐっ……!?」
そう言われると反対しにくい。
だけど私は、劇には出たくなかったんだよぉ……。




