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5-逆転する母娘

 ブックマークありがとうございました。

 お母さんをお風呂場に残して部屋に戻ってきた私は、ベッドの上に転がっていた。

 なんとなく何もする気になれなかった所為だけど、さすがにまだ10時前だし、眠たくもない。

 歯は食後に磨いているけど、このまま眠るという訳にはいかないだろうな。


 ……数十年前の小学生は、9時には就寝させられたという話を聞いたことがあるけど、本当?


 ともかく、ベッドの上で何もしないでいると、頭に浮かんでくるのは、やっぱりお母さんのことだ。

 どうしてこんなことに、なってしまったのだろう……。

 もう、目を覆いたくなるような惨状だよ。


 ……でもお母さんって、今までもベタベタしてきたけど、あそこまでおかしな言動をしたことは無かったよね……。

 今まで我慢して、隠していたってことなのかな……。


 そんな秘めた想いを、何年も何年も隠し続けてきたのだろうか。

 やっぱり娘である私にも……いや、娘だからこそ言えなかったんだろうな。

 誰かに相談でもできれば、少しは気も紛れたのだろうけれど、それもできなかったのだろうし……。


 それってどんな気持ちだったのだろうか?

 ……やっぱり辛かったのかな?


 そう想うと、なんとも言えない気持ちになる。

 正直言って、お母さんの趣味……というか性癖については理解が及ばないけれど、だからと言って、私が安易に否定していいものなのかどうかは、よく分からない。

 なんとか上手く付き合っていければ、いいんだけどね……。


 そんな風に私が頭を悩ませていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 そして、ドアを開けて入ってきたのは──、


「綺美ちゃん……一緒に寝よ?」


 パジャマ姿で、枕を抱えたお母さんだった。

 私がまだ怒っていないか──と、顔色を窺っているのか、少し遠慮がちだけど、この期に及んでその台詞が言えるメンタルは凄いと思う。

 勿論、悪い意味で!


「あのお風呂の後で、なんで許可されると思ってるの!?」


 これは懲りないってレベルじゃ無いでしょ、もう……。

 さすがに呆れ果てた私だったけど、


「でも……明日は始業式だし、不安じゃない……?」


「!」


 ああ……そういうことか。

 お母さんの狙いは、一緒に寝ることで不安を紛らわせよう……ということなのだろう。


 明日から私は6年生になり、新しいクラスでの生活が始まることになる。

 新しいクラスの中には、全く知らない子もいるだろうし、その中で上手くやっていけるのか、確かに不安だ。


 お母さんは、そんな私に気をつかっているのだ。

 そして同時に、お母さん自身も不安なのだろう。

 もしかしたらそれは、私よりも何倍も強い物として感じているのかもしれない。


 確かに、私よりも大変なのかもしれないけどさぁ……。

 …………仕方が無いなぁ。

 私は大きく溜め息を吐く。


「……ベッドのスペースを貸すだけだからね?」


 私はベッドの空いている場所を、ポンポンと叩く。

 これがベッドに入ってもいいという、許可の合図。


「だから綺美ちゃんしゅきー!」


 私の許可を受けて、お母さんは舞い上がった様子で、ベッドに入ってきた。

 ……三十路(みそじ)が幼児言葉を使うのはやめて欲しい。

 いや、他にもやめて欲しいことなら、いくらでもあるけれど。


「私に抱きつくのは禁止だからね?」


「うん」


「匂いを嗅いだりするのもだよ?」


「うん」

 

 返事だけはいい。

 本当に分かっているのか、逆に不安になってくる。

 でも──、


「それから──ん?」


 お母さんの方を見ると、もう寝息をたてて眠っていた。

 はやっ!?

 でも、そんなに疲れていたのかな……?

 やっぱり仕事が大変だったのだろうし、今日の出来事もなんだかんだで心労になっていたのかもしれない。


 だけどそんなお母さんは今、安心しきった顔で眠っている。

 まるで子供みたいに無邪気な寝顔だ。

 なんだよぉ、そんなに私に許されたことが嬉しかったの?


 はぁ……これじゃあ、どっちが親か分からないよ。

 いや……さすがに小学生で、こんな大きな娘はいらないなぁ……。

 せめて妹にして欲しい。


 ホント、手のかかる大きな妹。

 私は、そんなお母さんの寝顔を見ながら──複雑な想いを抱えながら、そのまま眠りについた。



 朝、目覚まし時計の音で目が覚めると、いつの間にかお母さんはいなくなっていた。

 どうやらもう出勤しちゃったみたいで、テーブルの上に書き置きが残されていた。


『お仕事へ行って参ります。

 愛しの綺美ちゃんと、離ればなれになるのが寂しいよぉ』


 ……余計なことは、書かなくてよろしい。

「離ればなれ」とは言っても、ほんのちょっとの間だけだし。

 

 しかしいつもなら、一緒に朝食を食べるくらいの余裕を持って家を出ているお母さんだけど、今日は色々と準備があるようだ。

 やっぱり、忙しいんだな……。


 私も朝食を食べてから準備を整えて、登校することにする。

 一通りやることをやり終えたら、最後にお父さんの写真に手を合わせて、


「行ってきます」


 挨拶をしてから私は家を出る。

 

 今日から6年生だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] てぇてぇです!(語彙力なくてすみませんw)
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