58 封印するよ
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夏休みの間に、私の霊感を封じる儀式が行われることになった。
久遠さんのお母さんはなにかと忙しい身なので、こんなに早く予約が取れたのは奇跡的なことらしい。
場所はさくらちゃんの家の神社──そこの一室を借りることになった。
この神社では、ガチめのお祓いは久遠さんの除霊事務所に依頼しているらしいので、その関係で取り次ぎをお願いした結果、東京にいる久遠さんのお母さんが来てくれることになった。
もしかしたら、娘の顔を見に来るついでだったのかもしれない。
「じゃあ綺美、ガンバレよー」
「見学したいけど、私達は手伝いがあるから、また後で」
巫女姿のさくらちゃんとこぶしちゃんが部屋まで案内してくれたけれど、すぐに家の手伝いがある──と、戻っていった。
彼女達は家業の神社が忙しい時に手伝いをしているけど、美人双子巫女ということで一部の参拝者には人気がある。
こういう時は2人とも同じ髪型にして見分けが付かないようにしているので、神秘性も上がっているし、この神社を守護する狛犬のような存在だと言う人もいるらしい。
実際に彼女達を目当てにして来る、参拝客もいるようだ。
……まあ、2人を神聖な存在として見に来る人はいいんだけど、中にはアイドルか何かだと勘違いしているような人もいるらしいんだよね……。
見えないかもしれないけれど、一応さくらちゃん達は小学生なんだし、警察に相談とかしておいた方が良くない?
ともかく案内された部屋に入ると、久遠さんと、真っ直ぐな黒髪を腰まで伸ばした綺麗な人がいた。
高校生から大学生くらいに見えるけれど、久遠さんのお姉さん……?
「お久しぶりです久遠さん。
その節はお世話になりました。
この度もお忙しい中、ご足労いただきありがとうございます」
「こちらこそ理沙がお世話になっています、先生」
と、お母さんとお姉さんが挨拶を交わした。
あれ? 面識があるんだ?
「綺美ちゃんもお久しぶりね。
でも前に会ったのはもう10年近く前だから、覚えていないかな?」
えっ!?
私とも会ったことあるの!?
「あの……ちょっと分からないです」
私が戸惑っていると、久遠さんが誰なのかを教えてくれた。
「私のお母さんだよ」
「母っ!?」
久遠さんの言葉に、私は驚愕した。
ええぇ……うちや羽田さんのお母さんも見た目は若いけれど、久遠さんのお母さんはそれ以上かも……。
外見だけではなく、肌の瑞々しさとかまで違う。
何か特別な秘術でも使っているのだろうか……。
で、その久遠さんのお母さんによって、これから封印の儀式とやらが行われる訳だけど、
「まあ、そんなに特別なことはしないから、リラックスして。
綺美ちゃんも何十年後かに経験するかもしれないけど、厄除けのそれとそんなに変わらないから」
──とのことだ。
実際に行われた儀式も、私の周囲を歩き回りながらお経のようなものを唱えるだけで、想像していたよりもあっさりと終わってしまい、ちょっと拍子抜けしている。
「はい、これで大丈夫だと思うけれど、何かあったら理沙に言ってね。
理沙でもある程度は対応できるから」
「あ、ありがとうございます。
あの……これって、副作用とか無いのですか?」
私がそう聞くと、久遠さんのお母さんはこう答えた。
「基本的には無いはずだけど……。
ただ、あなたから少しだけ生命力を吸収して維持している封印だから、ほんのちょっとだけ人よりも疲れやすいということはあるかもしれないわ。
でも普通は日常生活に支障は無いはずよ」
あれっ!?
私の体力の無さって、これが原因なのでは!?
もしかして背が伸びないのも、これの所為……?
そのことを話すと、久遠さんのお母さんは首を捻った。
「う~ん、普通はそこまで影響は無いはずだけど、人それぞれの体質もあるから分からないわね……。
改善する保証は無いけれど、封印を解いてみる?」
「いえ……それはちょっと……」
たとえこれから身体が成長するようになったとしても、幽霊が常に見えるのは困る……。
今回は諦めることにした。
だけど──、
「2~3年後に霊感が残っているかどうか調べてみて、封印を続けるかを考えてみましょう」
ということになった。
そんな訳で封印の儀式は終わったけれど、私の霊感が根本的に消えた訳ではないのだから、ちょっと不安は残る。
大人になったら消えていくことが多いと聞くけど、消えなかったらどうしよう……。
そんな私の不安を久遠さんは見抜いたのか、とんでもない話を持ちかけてくる。
「まあ、今後も能力が残っていたら、私と除霊師でもやろうよ。
少女ゴーストバスターズって格好良くない?」
「あ、遠慮しておきます」
さすがに幽霊を相手にするようなことを、仕事したいとは思わない。
でも同じ立場になって、久遠さんの大変さが少しだけ理解できたような気がした。
私が墓地で見た光景が、彼女がいつも見ている世界なんだよね……。
「あの……久遠さんも何かあったら言ってね。
幽霊関係とかじゃなければ、私のできる範囲で協力するから」
「……うん!」
久遠さんが笑顔で頷いた。
なんだか彼女の素の顔を、初めて見たような気がする。
いつも飄々としているけど、自身の特殊な事情を誤魔化す為に、強がっていた部分もあるのかな……。
それから久遠さんのお母さんにお礼をして、さくらちゃん達の両親に挨拶をしてから帰ることにした。
その帰路で私は、お母さんになんとなく聞いてみる。
「久遠さんのお母さんに、お礼を渡していたけれど、いくらくらいかかったの?」
「子供が気にしなくてもいいのよ?」
お母さんは、金額についてはぐらかそうとした。
でもそれでは困る。
「私のことなんだし、将来またこういうことがあった時の参考にしたいんだけど?」
そう言うとお母さんは、暫く迷った末に折れた。
「……30万円くらい?」
「たっか!?」
「いえ、これでも安いのよ!?
お葬式でお坊さんにお経を上げてもらったら、20万円とかかかるし、戒名だって100万円くらいになる場合もあるのよ!?
あんな効果があるかどうかもよく分からないものに!!
でも、今回のはちゃんと効果があるから、適正なのよ!」
う~ん、確かに言われてみると、効果が不確かなものに使うよりはいいかもしれないけれど、やっぱり30万円もあれば「あれが買える」「これも買える」「あそこに行けた」とか、別の使い道をつい考えてしまうなぁ……。
だから私は、再び久遠さんのお世話になるようなことは、二度と無ければいいと切実に思った。
……でも2~3年後に、もう一度診てもらうことになっているんだよなぁ……。
その時は安く済むのだろうか……。




