57 初めてのお別れ
「ここがお父さんのお墓……」
初めて見るそのお墓は、小さいけれど綺麗だった。
ここに来るまでに見て来た他の家のお墓の中には、汚れていたり苔や雑草が生えていたりするものさえあったから、それから比べればよく手入れがされている印象だ。
最近になって、誰かによって掃除をされたのだということが分かる。
お父さんの方のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは既に亡くなっているらしいし、兄弟もいなかったはずだから、お母さんがこっそり来て掃除をしたのかな?
お母さんの方の祖父母は、わざわざ来ないよねぇ……。
今はお母さんとすら、殆ど会っていないみたいだし、私もここ数年は顔を見ていないなぁ……。
うちの祖父母とお母さんは、凄く仲が悪いらしい。
さすがに私の前で、罵り合いはしないけれど、前に会った時も険悪な雰囲気だった。
まあ……フリーダムなお母さんの性格を考えると、たぶんお母さんが仲違いの原因なのだろうけれど、祖父母も頑固過ぎるんんじゃないかなぁ……とは思っている。
どのみち面倒臭いので、私が関わろうとは思わないけれどね。
あえて和解を促すようなつもりも無い。
たとえ親兄妹でも、フィーリングが合わない人間には、近寄らないのが1番だ。
あ……幽霊についても同じだね。
関わらなければ実害は無いし、やっぱり本来は見えない方がいいんだ。
となると、私の霊感に封印をかけたお母さんの判断は、正解だったということなのだろう。
「……お母さんが、お墓の手入れをしたの?」
「え?
ええ、そうね」
お母さんが線香やお供え物の準備をしつつ答えた。
「……ゴメンね、いつも手伝えなくて……」
「いいのよ、綺美ちゃんには事情があるのだから。
それよりもお父さんに、お参りしてあげてね」
「う……うん」
私は目を瞑り、お墓に向かって手を合わせた。
お経はよく知らないので、取りあえず心の中で「南無阿弥陀仏」と唱えておく。
意味も宗派も分からないし、ただ言葉として知っているだけなのだけど、いざお墓参りとなると、どんなことを想いながらすればいいのか分からないので、間を持たせる為には便利な言葉なのかもしれない。
実際のところ、私はお父さんの記憶がほぼ無いので、お父さんに対して何か伝えたいことがあるのかというと、すぐには思いつかなかった。
むしろお父さんの方に、何か伝えたいことはなかったのかな?……と思う。
お父さんは、私のことをどう想っていたのだろう?
可愛がってくれていたのかさえ、私にはよく分からないんだ……。
そう思うと、寂しい……というよりは、残念な気持ちになる。
そんなことを考えていると、誰かに頭を撫でられたような感覚がした。
「あ……!」
目を開けると、写真で見慣れたお父さんの顔が、一瞬だけ見えたような気がした。
だけどその後は、周囲を見渡してもお父さんの姿は見えない。
なんで他の幽霊とは違って、お父さんの姿だけハッキリと見えないのかはよく分からないけれど、たぶん本来はもうこの世にいないからなんだ……と、思うことにした。
きっとお父さんは、もう思い残すことがないから、成仏しちゃっているんだろう。
今だって天国から無理をして、一瞬だけ顔を見せてくれたのかもしれない。
私は今までお父さんがいないことで、泣いたという記憶が無かった。
だけど私は今、涙を流している。
悲しい訳じゃないはずだけど……いや、今の自分の感情は、よく分からないや……。
人間って、よく分からなくても、涙が出るんだ……。
私は人間の心が、思っていた以上に複雑なのだということを、この時初めて実感した。
そしてこの涙は、なかなか止まりそうになかった。
それなのに──、
「綺美ちゃん……」
今度はお母さんが私の頭を撫でてくれた。
もう、そんなことをされたら、余計に涙が止まらなくなっちゃうじゃないか!
「お母さぁん……」
それから私は、お母さんにすがりついて、暫く泣き続けた。
今日くらいは素直にお母さんに、甘えよう……。
そしてお参りが終わり、私は──、
「さよなら、お父さん。
またいつか、必ず来るね」
たぶん初めて、お父さんにお別れを言った。
そして帰り道では、お母さんにお父さんの思い出を沢山話してもらった。
家に帰って、自分の部屋で一人になった時、ふと思った。
私の霊感が封印されたら、もうお父さんの姿を見ることは二度とできない──。
そう思うと、また少し泣けてしまった。
以前は、「母方の祖父母も亡くなっている」という風に書いたと思いますが、設定が変更されました。まあ、生きているからと言って、登場する予定があるかというと話は別ですが……。




