55 もうひとつのお母さんがいつも一緒
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丹治易さんの家のトイレは、割と普通だった。
いくらお金持ちでも、さすがにトイレが必要以上に広いとか、壁に金メッキを施すとかいうのはやらなかったようだ。
まあ、普通の方が落ち着くので、これがいいのだけどね。
で、用を足して、勉強会が行われている部屋に戻ろうとすると、前から大人の女の人が歩いてきた。
丹治易さんのお母さんは、キャンプの時に会ったから、この人は違うな……。
頭映さんに似ているから、彼女のお母さんかな?
女の人にしては背が高くて、ストレートの髪も長い。
頭映さんも将来こんな感じになるんだろうなぁ……と、容易に想像できた。
「こんにちはー。
いつもお世話になっています」
私が挨拶するとその人は、
「ああ、あなたが綺美ちゃんね。
本当にちっちゃいのねぇ。
いつも鮎と智ちゃんが、楽しそうにあなたのことを話していたわよ」
「そ、そうですか」
ちっちゃいは、余計なんだよなぁ……。
でもあの2人が、家で私のことを話していたというのは、少し意外だな……。
そこまで仲良くしていたつもりは、なかったんだけど……。
……これからはもうちょっと親しく付き合ってみようかな……?
「こちらこそキャンプの時とかにはお世話になったようで、ありがとうね。
これからもあの子達のことを、よろしくお願いするわ」
「は、はい、こちらこそよろしくお願いします」
「それじゃあ、先生にもよろしく言っておいてね」
そう言い残して、頭映さんのお母さんは去っていた。
それから部屋に戻った私は、今あったことを話した。
「頭映さんのお母さんって、優しそうな人だね」
そう言った途端、頭映さんと丹治易さんの顔が強ばる。
それはもう、劇的な変わりようだった。
「あれ? 違った?
もしかしてお姉さんだった?」
「ちょっと委員長!
一体何を言っていますの!?」
丹治易さんが、物凄い剣幕で私に迫ってきた。
え? え? 一体なんなの?
「え、でも今、そこで女の人に会って……。
丹治易さんのお母さんじゃないし、てっきり……」
「委員長、悪い冗談はおよしなさい!
今日この家には、私達しかいません!」
「え──!?」
どういうこと!?
不審者が入り込んでいたってこと!?
でも、二人のことを知っていたし……。
その時、頭映さんが衝撃的な事実を告げた。
「私のお母さんは、3年前に病気で……」
「え……?」
頭映さんのお母さんって、亡くなっていたの!?
じゃあ、さっき見たのはなんだったの!?
「そんな……でも私は確かに……。
2人がいつも私のことを話している……って。
そして2人のことをよろしく……って」
「委員長、いい加減になさい!
鮎ちゃんの気持ちを考えて──」
「ジイちゃん」
「ジイちゃんですって!?」
その時、さくらちゃんが割り込んだ。
ジイ……って、ああ、ニジイのジイか。
「綺美だって、お父さんを亡くしているんだ。
そういうことで、冗談なんか言わない」
「あ……」
さくらちゃんの言葉で、丹治易さんはハッとした顔になった。
うん……そうだね。
亡くなった人を使って、茶化すようなことなんて、私にはできないよ……。
だから私がさっき見たことは、全部本当のことだ……と思うのだけど、もう自分でもよく分からなくなっていた。
もしかしたら、暑さで頭がやられていた可能性だってある。
だけど──、
「じゃあ……本当にお母さんが……?
ずっと私達のことを、見守っていて……?」
頭映さんは、私の話を信じてくれたようだ。
そして頭映さんは涙を浮かべ、すすり泣きを始めた。
彼女は悲しんでいるのか、それとも喜んでいるのかよく分からない。
だから私達は、それを呆然と見ている。
今の彼女にどう言葉をかけてやればいいのか、分からなかったからだ。
ただ暫くして、福井さんが、
「そういえば丁度今、お盆の時期ですね……」
──って、ぽつりとつぶやいた。
「──ってことが、今日あったんだけど……」
「あ~~……」
あの後、私達は解散して、家に帰ることになった。
さすがに勉強会って空気では、なくなってしまったしね……。
そして夕食の時に、ことのあらましをお母さんに話したら、この反応である。
なんで「ついにきたか」っていうような顔をしているのさ……?
鮎の母親が幽霊となって娘を見守っていることについては、実は本作のオチ案の1つを流用したものです。さすがにこのオチだとキツイということで却下したが……。




