表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/91

52 お宅訪問

 ブックマーク、ありがとうございました。

 まだまだ暑さが続いている夏休みのある日、私はいつものように、作った料理をゆりさんへと差し入れに行った。


「いつもありがとうね、綺美ちゃん」


「まあ、ゆりさんのを余分に作るのは、大した手間じゃないから」

 

 実際に多く作るよりも、少なく作ることの方が面倒臭いこともある。

 材料費だって、1人分ならば誤差の範囲だ。


「あれ?」


 その時、私は気付いた。

 玄関に見慣れない靴があることを。

 身体が大きなさくらちゃんの靴にしては、サイズが小さい。


 これは子供の……しかも女の子の靴?


「誰か来ているの?」


「えっ!?」


 ゆりさんが明らかな動揺を見せた。

 まるでその靴の持ち主の正体を、隠したいかのように。


「まさかゆりさん……。

 女の子を連れ込んで……さくらちゃんの代わりに、何かいかがわしいことを……!?」

 

「ちっ、違う違うっ!!

 実は綺美ちゃんの知っている子が来ていて……」


 ゆりさんは何か酷く後ろめたいような顔をして、打ち明けた。

 私の知り合い? なんで?

 

「え、誰?」


「あ……あの……私です」


「福井さん!?」


 部屋の奥から、福井さんが現れた。

 え、なんで彼女がゆりさんの部屋にいるの!?


「え……どうして福井さんが、ここに……?」


 私にはゆりさんと福井さんの繋がりが、よく分からない。

 キャンプで知り合いになってたけど、そんなに仲良くなっていたっけ……?


「あの……先生に、物語の作り方とかを、教えてほしくって……」


 あ、そういえば前に福井さんは、作家になりたいというようなことを言っていたような気がする。

 それで現役小説家のゆりさんに、アドバイスを求めにきたのか?


「なんだ……そういうことなら、私にも教えてくれれば良かったのに……」


「それだと珠戸さんの家に行く時に、先生のついで……みたいな印象になりそうだったので、それでは失礼かと……。

 珠戸さんの家には、予定を聞いた上で改めて訪問しようかと思っていたのです」


 ああ、そうか……。

 確かにこんなすぐ近所に福井さんがいることを知ったら、私だって「この後、うちにも招待した方がいいかな?」……って、少しは思うだろうしね。

 でもそれだと、客を出迎える準備が整っていない場合もあるし、それでは迷惑だと福井さんは思っているんだね。


「あ~……でも今日なら、遊びに来てもいいけど?」


 丁度お母さんもいないしね。

 いる時なら、何が何でも却下だ。


「本当ですか!?」


「うわっ!?」


 私の言葉に、福井さんは物凄い勢いで食いついてきた。

 そんなに私の家に来たかったのかな……?


「まあ、今日ならお母さんもいないし、気兼ねしなくていいと思うよ」


「そう……ですか」


 何故(なぜ)、急にがっかりした感じに!?


「じゃあ……私もちょっとお邪魔するかな?」


「ゆりさん?

 なんかうちに用事があった?」


「いや……なんか、間違いが起きないように、念の為ね……」


「?」


 よく分からないことを言うな……。


「いや、たまには、お父さんの遺影にお参りさせてもらおうかな?

 お盆も近いし」


 ゆりさんは取り繕うように言った。

 うちは何故かお墓参りすらしないから、我が家にある遺影がお父さんのお墓みたいなものだ。

 お墓には行かないから、手を合わせるのはいつもここということになる。


 でも、ゆりさんがお参りに来るのは、かなり珍しいと思う。

 お父さんには、何か思うところがあるらしいんだよね……。


 ともかく、私達は我が家へと移動した。


「わぁ、緑が多いですねぇ!」


「私がサボテンとか好きだからね」


 鉢植えやエアープランツが、あちこちに置いてある。


「じゃあ、全部珠戸さんが世話しているんですか?」


「20鉢くらいだから、大したことないよ。

 愛好家だと、100鉢とか持っているらしいし」


 私だって資金と暇があればもっと欲しいけど、現状ではこれが限界だろう。

 今の数でも日当たりのいい場所に鉢を移動させたり、水をやったりしたら、

 1時間くらいは簡単に消える。

 これ以上数が増えたら、たぶん手が回らなくなると思う。


 盆栽って、よく老人がしているというイメージだけど、あれって定年退職して、それだけ時間に余裕があるからこそなんだと実感するよ……。


「あ」


 その時、福井さんが何かに気付いたように、小さく声を上げた。

 そんな彼女の視線の先を辿って見ると──、


 うわ、洗濯物の下着が干しっぱなしだった。

 前もって人が来るのが分かっていたら、片付けておいたのに……!


「あ、あの、ゴメンね。

 見苦しい物を……!」


「あ、いえ、え~と……。

 凄く……大きいですねぇ」


 ん?

 ああ、お母さんのブラジャーのことか。


「ああ……どうしたら、こんな風になれるのでしょうか……?」


「そうだね……」

 

 福井さんは、憧れの目でお母さんのブラを見ていた。

 私はどちらかというと絶望の目でだ。

 私達にはまだ成長する余地があるとはいえ、私があんな風に育つ未来が想像できない。


「先輩は中学生の頃から、もうこのくらいのサイズがあったからなぁ……」


 と、ゆりさんが言う。

 ゆりさんもあまり大きい方ではないので、なんとなく悔しげだ。


 そしてお母さん自身からも、小学生の頃には既にそこそこ大きかった──とも聞いている。


 どう考えても、今の私が追いつける気がしないよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ