52 お宅訪問
ブックマーク、ありがとうございました。
まだまだ暑さが続いている夏休みのある日、私はいつものように、作った料理をゆりさんへと差し入れに行った。
「いつもありがとうね、綺美ちゃん」
「まあ、ゆりさんのを余分に作るのは、大した手間じゃないから」
実際に多く作るよりも、少なく作ることの方が面倒臭いこともある。
材料費だって、1人分ならば誤差の範囲だ。
「あれ?」
その時、私は気付いた。
玄関に見慣れない靴があることを。
身体が大きなさくらちゃんの靴にしては、サイズが小さい。
これは子供の……しかも女の子の靴?
「誰か来ているの?」
「えっ!?」
ゆりさんが明らかな動揺を見せた。
まるでその靴の持ち主の正体を、隠したいかのように。
「まさかゆりさん……。
女の子を連れ込んで……さくらちゃんの代わりに、何かいかがわしいことを……!?」
「ちっ、違う違うっ!!
実は綺美ちゃんの知っている子が来ていて……」
ゆりさんは何か酷く後ろめたいような顔をして、打ち明けた。
私の知り合い? なんで?
「え、誰?」
「あ……あの……私です」
「福井さん!?」
部屋の奥から、福井さんが現れた。
え、なんで彼女がゆりさんの部屋にいるの!?
「え……どうして福井さんが、ここに……?」
私にはゆりさんと福井さんの繋がりが、よく分からない。
キャンプで知り合いになってたけど、そんなに仲良くなっていたっけ……?
「あの……先生に、物語の作り方とかを、教えてほしくって……」
あ、そういえば前に福井さんは、作家になりたいというようなことを言っていたような気がする。
それで現役小説家のゆりさんに、アドバイスを求めにきたのか?
「なんだ……そういうことなら、私にも教えてくれれば良かったのに……」
「それだと珠戸さんの家に行く時に、先生のついで……みたいな印象になりそうだったので、それでは失礼かと……。
珠戸さんの家には、予定を聞いた上で改めて訪問しようかと思っていたのです」
ああ、そうか……。
確かにこんなすぐ近所に福井さんがいることを知ったら、私だって「この後、うちにも招待した方がいいかな?」……って、少しは思うだろうしね。
でもそれだと、客を出迎える準備が整っていない場合もあるし、それでは迷惑だと福井さんは思っているんだね。
「あ~……でも今日なら、遊びに来てもいいけど?」
丁度お母さんもいないしね。
いる時なら、何が何でも却下だ。
「本当ですか!?」
「うわっ!?」
私の言葉に、福井さんは物凄い勢いで食いついてきた。
そんなに私の家に来たかったのかな……?
「まあ、今日ならお母さんもいないし、気兼ねしなくていいと思うよ」
「そう……ですか」
何故、急にがっかりした感じに!?
「じゃあ……私もちょっとお邪魔するかな?」
「ゆりさん?
なんかうちに用事があった?」
「いや……なんか、間違いが起きないように、念の為ね……」
「?」
よく分からないことを言うな……。
「いや、たまには、お父さんの遺影にお参りさせてもらおうかな?
お盆も近いし」
ゆりさんは取り繕うように言った。
うちは何故かお墓参りすらしないから、我が家にある遺影がお父さんのお墓みたいなものだ。
お墓には行かないから、手を合わせるのはいつもここということになる。
でも、ゆりさんがお参りに来るのは、かなり珍しいと思う。
お父さんには、何か思うところがあるらしいんだよね……。
ともかく、私達は我が家へと移動した。
「わぁ、緑が多いですねぇ!」
「私がサボテンとか好きだからね」
鉢植えやエアープランツが、あちこちに置いてある。
「じゃあ、全部珠戸さんが世話しているんですか?」
「20鉢くらいだから、大したことないよ。
愛好家だと、100鉢とか持っているらしいし」
私だって資金と暇があればもっと欲しいけど、現状ではこれが限界だろう。
今の数でも日当たりのいい場所に鉢を移動させたり、水をやったりしたら、
1時間くらいは簡単に消える。
これ以上数が増えたら、たぶん手が回らなくなると思う。
盆栽って、よく老人がしているというイメージだけど、あれって定年退職して、それだけ時間に余裕があるからこそなんだと実感するよ……。
「あ」
その時、福井さんが何かに気付いたように、小さく声を上げた。
そんな彼女の視線の先を辿って見ると──、
うわ、洗濯物の下着が干しっぱなしだった。
前もって人が来るのが分かっていたら、片付けておいたのに……!
「あ、あの、ゴメンね。
見苦しい物を……!」
「あ、いえ、え~と……。
凄く……大きいですねぇ」
ん?
ああ、お母さんのブラジャーのことか。
「ああ……どうしたら、こんな風になれるのでしょうか……?」
「そうだね……」
福井さんは、憧れの目でお母さんのブラを見ていた。
私はどちらかというと絶望の目でだ。
私達にはまだ成長する余地があるとはいえ、私があんな風に育つ未来が想像できない。
「先輩は中学生の頃から、もうこのくらいのサイズがあったからなぁ……」
と、ゆりさんが言う。
ゆりさんもあまり大きい方ではないので、なんとなく悔しげだ。
そしてお母さん自身からも、小学生の頃には既にそこそこ大きかった──とも聞いている。
どう考えても、今の私が追いつける気がしないよ……。




