36 家族について語ろう
ブックマークをありがとうございました。
「今日の国語の宿題は、『家族』について作文を書くことです。
家族の誰でも──それこそペットでもいいので、最低でも400字詰め原稿用紙2枚以上書いてきてください」
国語の時間、お母さんからそんな宿題を出されたその日、帰宅後の私は悩んでいた。
なんて書こうかな……。
「綺美ちゃーん、遊びましょー!」
「今、お母さんから出された宿題に、頭を悩ませているんですけどぉ!?」
「え~、そんなことよりも私と遊ぼうよ~」
「いや、じゃあなんで、こんな宿題を出した!?」
「仕事だから?
そんなのテキトーでいいのよ?」
「……」
自分で出した宿題を妨害するとは、それでいいのか、教師……。
「じゃあ、お母さんの普段の姿について書くね?
確か次の国語の時間で、発表するんだよね?」
「え……綺美ちゃんは、私を社会的に死なせたいの?」
お母さんが、本気で戦いた顔をする。
「その自覚があるのなら、ちゃんとして欲しいんだけどなぁ……。
とにかく今、何を書くのか考えているんだから、邪魔しないでよ」
「くぅ……仕方がないわね……」
お母さんはすごすごと退散して行った。
素の自分のことを暴露されるのは、さすがに嫌みたい。
……しかし、本当に何について書こうかなぁ……。
お母さんはあんなんだし、お父さんの記憶は無いし……。
あ……ペットでもいいって言っていたな。
ペットじゃないけど、あのことなら……。
あれは私が5~6才の頃だったかな?
お母さんと、近所のホームセンターへ行った時のことだった。
私は園芸コーナーで、奇妙な姿をした物体に心を奪われていた。
「変なのいる!」
丸くてトゲトゲした物体──それが棚には無数に並んでいた。
「クリ?
ウニ?
でも色が違う……」
「ああ、サボテンね。
それでも植物なのよ。
トゲは葉っぱが変化したものなんだって
危ないから、触っちゃ駄目よ?」
と、お母さんが教えてくれた。
「サボテン……?
これ、欲しい!」
「えっ、綺美ちゃん、そういうのが好きなの!?
どちらかというとマニア向けだと思うの……」
どうやら私は、こういうのが好きらしい。
そしてこれは、私がお母さんに物をねだった一番古い記憶だ。
「う~ん、トゲがあるものを子供に与えるのはなぁ……。
あら……?
これはトゲが筆の毛みたいに柔らかいわね……?」
「お母さん、触っちゃ駄目なんだよ?」
「ああ……そうよね。
綺美ちゃん、これならいいわよ?
他のは、綺美ちゃんがもっと大きくなってからね?」
「う……う~ん?」
お母さんが指し示したのは、でこぼことした石のような形で、トゲというよりは毛のようなものがあちこちから生えているサボテンだった。
「丸くない……」
そこは不満だったが、高さが3~4cmくらいの小ささで、可愛いと言えば可愛い。
……が、どちらかというと奇妙な印象の方が強い。
名前は「金獅子」という品種だった。
「他のはまた今度ね?
これを育ててみたら、面倒臭くなって欲しくなくなるかもしれないし、まずはこれで試して見ましょ?」
「分かった……」
そんな訳で、後に「金ちゃん」と名付けられるサボテンを、我が家に迎入れることとなった。
家に帰ったら、お母さんがインターネットでサボテンの育て方を調べてくれた。
「水は土が完全に乾いてからだから……2~3週間に1回くらいでいいんじゃないかしら?
やる時には鉢の底から、水が出てくるくらいたっぷりね。
ただ、冬の寒い時は眠っているから、もっと少なくていいみたい」
「……意外と水いるんだね」
砂漠のイメージが強かったから、それは意外だった。
霧吹きでシュッシュするくらいで十分なのかと……。
あと日光は好きなクセに、暑い日に直射日光を浴びると、日焼け……というか火傷をしてしまうこともあるらしい。
かといって、日光が足りないと、縦に伸びてもやしみたいに貧弱になってしまうんだとか。
風通しのいい網戸のところに置いておけばいいのかな……。
他にも害虫や病気の危険性もあるし、種類によっては割とすぐ大きくなるので1年ごとに植え替えた方がいいようだ。
意外と手間がかかるみたいだぞ、これ……。
だけど手間がかかるからこそ愛着も湧く。
折角一生懸命育てたのに、枯れてしまったら悲しいしねぇ……。
結局、あれからいくつかサボテンやその仲間多肉植物を買ったけれど、最初に買った「金ちゃん」が1番のお気に入りだ。
今では高さが15cm以上になって、結構立派になったよ。
火山の噴火の時の噴煙というか、海の岩礁というか……。
とにかく面白い形になった。
これからも大事に育てていこう。
ああ……!
お母さんが私を育てている時の気持ちって、これに近いのかな?
そう思うと感謝の念も湧いてくる。
今まで私の事を育ててくれてありがとう、お母さん。
これからもよろしくね。
……そんなことを書いて、国語の授業の時に発表した。
するとお母さんの目が、感動からか潤んでいる。
でもさすがに皆の前では泣けないようで、必死にこらえているのが分かった。
ふふ……可愛いところもあるじゃない。
まあ、家に帰ったら、凄くべったりされたけどね……。
もうデレデレで私にくっついてくるんだから、鬱陶しいったらありゃしない。
やっぱりお母さんのことは、書かなければ良かったかなぁ……。




