2-夕食時の爆弾発言
「ん~、美味しい~」
夕食時──。
お母さんは満面の笑みで、カレーライスを頬張っていた。
頬に手を添えて、「ほっぺたが落ちそうだ」とも言いたげだが、まるで外国のノリだ。
でも、日本ではあまりオーバーなリアクションをすると、逆に嘘くさくなると、私は思うんだよ?
それでも、私が作った料理でこれだけ喜んでもらえるのならそれは嬉しいことだし、手間をかけて作った甲斐があるというものだ。
まあ、お母さんは私が何を作っても喜ぶので、私が作った物ならなんでもいいのではないかという疑惑が拭いきれないのだけどね……。
それに、実力でお母さんに勝てているとは、まだ思えなかった。
「……お母さんが作ったオムライスの方が美味しいよ?」
そう、最近は私が料理を担当しているので、お母さんが料理をすることは減ったけど、実は料理も得意な人なのだ。
普段はだらけているけど、本気を出すと何気に完璧超人なんだよなぁ、この人……。
「綺美ちゃんはオムライスが好きだもんねぇ。
今度の休みの日に作ってあげるね」
「うん、ありがと」
お母さんの申し出は素直に嬉しいが、これから切り出す話題のことを思うと、笑顔にはなれなかった。
やがて私は、お母さんが夕食を食べ終わるタイミングを見計らい、思いきって質問をぶつけてみる。
「……お母さん、ちょっと聞いてもいい?」
「ん? な~に?」
「お母さんって、再婚しないの?」
「ごふっ!?」
あ、お母さんが飲みかけていた水を吹いた。
ちょっと聞くタイミングを間違えたかも。
……お母さんがむせているので、落ち着くまで待つ。
そして、ようやく呼吸を整えたお母さんは、酷く狼狽した様子で椅子から立ち上がり、私の質問の真意を問いただしてきた。
「な、なに突然!?
どうしてそんなことを!?」
まあ、いきなりあんなことを聞いたら、驚くよね。
でも私は、お母さんの本音を聞かずにはいられなかったのだ。
「……だってお母さんってば、いつも私にベタベタし過ぎるし、もしかしてお父さんがいない寂しさを、私で紛らわせているんじゃないのかなぁ……って。
だから、お母さんさえ良ければ、再婚とか考えても……いいと思うんだよ?」
これは私の偽らざる気持ちだった。
女手1つで私を育てているお母さんは、色々と大変な想いをしているのだろうし、子供でまだ頼りない私よりも、支えてくれる人が居た方がいいと思う。
まあ、新しいお父さんというのは、ちょっと想像できないし、不安が無い訳でもないけれど、正直言って本当のお父さんの記憶も殆ど無いので、絶対に受け入れられないというほどじゃないよ?
しかし私の提案に対して、お母さんの反応は予想外の物だった。
「そんな……ちょっと待って、綺美ちゃん!
あなたが誰かの代わりだなんてことは、絶対に無いわ!
私は心の底から綺美ちゃんが大好きで、お父さんと同じかそれ以上に大切なんだから!」
真剣に訴えてくるお母さんの様子に、私はちょっと感動した。
そんなに私のことを、大切に想っていてくれたのか……と。
まあ、あの過剰なスキンシップに裏表が無いという事実には、少し困──
「というか、むしろ綺美ちゃんが本命だわ!」
…………はい?
「いつか再婚するのなら、綺美ちゃんとしたいと思っているくらいなんだからねっ!!」
……………………はい?
お母さんの衝撃の告白に、私は脳が停止するかと思った。
これはなんの冗談なのだろうか?
「……だから、この際もう結婚する?」
あ、これマジなやつだ。
照れたように身もだえながら、とんでもないことを聞いてくるお母さんの目は、どう見ても正常じゃなかった。
熱に浮かされているというか、酔っ払っているというか……。
おそらく興奮状態の所為で、自分が何を口走っているのか分かっていないのだと思う。
でもそれだけに、その言葉は深層心理の本音が出ている可能性が高い。
……これは一体なんなのだろうな。
そんなに私に対する愛情の本気度を疑われたのが、看過できなかったのかな?
そして、自分がどれだけ私のことを好きなのか、それを表明せずにはいられなかった……と?
お母さん……どんだけ私のことが好きなのさ……。
思っていたよりもはるかに愛が重いよ……。
ともかく私は、どう反応していいのか大いに迷ったのだけど、取りあえずこれだけは指摘しておく。
「……母親としての自覚と、一般常識を持って?」
それは、かすれた声だった。
衝撃が大きすぎて、声が上手く出なかったのだ。
だけど、心のそこから絞り出した、全力の懇願だった。
この国ではまだ、同性婚は認められていない。
……が、それ以上に母娘での結婚を認めている国なんて、この世界にあるの?
ねえ、誰か教えて?
というか、これから私は、お母さんに対してどう接すればいいの?




