25 鉄拳の正体
ブックマークありがとうございました。
このエピソードは前回からの続きですが、綺美視点から始まります。
「おはよー、綺美」
朝、教室へ向かう廊下で声をかけられて、私はその方に振り返った。
「うん、おはよう、さくらちゃ──んじゃない!?
こぶしちゃん、どうしたの!?」
そこには、さくらちゃんの双子の姉の、こぶしちゃんがいた。
サイドアップテールがいつもと逆の位置だから、一瞬さくらちゃんと見間違えた。
「あ~、綺美にはすぐ分かっちゃうかぁ。
さくらは風邪を引いて、家で寝ているんだ。
だから代わりにあたしが出席して、皆勤賞を死守しようかと……」
「いやいや、こぶしちゃんは2組の授業に出なよ。
さくらちゃんも、お姉ちゃんの犠牲で皆勤賞を貰っても、喜ばないと思うよ?
むしろお姉ちゃんが皆勤賞をとった方が、誇らしいと思うし」
実際さくらちゃんは、食べること以外にはさほど執着が無いし。
「う~ん、そう?
まあ、綺美がそう言うなら……」
と、こぶしちゃんは髪型を元に戻し始めた。
これまでの言動を見れば、誰でも察しはつくと思うけど、彼女は重度のシスコンだ。
妹のさくらちゃんのことを溺愛している。
つまり、私にとってのお母さんみたいなものだね……。
ゆりさんもいるし、さくらちゃんも大変だなぁ……。
そして、そんなこぶしちゃんのシスコンぶりが、「百合ヶ島の鉄拳」を誕生させる要因となっていた。
こぶしちゃんは、生まれつき何故か力が強いそうだ。
双子のさくらちゃんがそうでもないところを見ると、突然変異と言ってもいいのかも……。
で、神社の娘ということもあって、一部では「神の子」として信仰を集めているらしいけれど、詳しくは知らないし、知らない方がいいのかもしれない。
それはともかく、最初の切っ掛けは、さくらちゃんを守る為の行動だったようだ。
それは数年前、小さな子供にとって双子は珍しくて、奇異の目で見られることも多かったらしい。
とくに男の子は遠慮が無く、意地悪をしてくる者もいたようだ。
あと、さくらちゃん達は発育が良いから、小学生だとは思わないで、ナンパみたいなことをしてくる人もいたみたい。
そんな人達から妹を守る為に、こぶしちゃんは暴力を振るった。
結果としてそれが報復の連鎖を生み、最終的には高校生の不良グループが出てくるまでの騒ぎになったという。
うん……最初の対応を間違ってはいけないという好例だね……。
結局、こぶしちゃんはその高校生の不良グループも倒してしまい、周囲から恐れられるようになってしまった。
そしてさくらちゃんも、こぶしちゃんと混同されて恐れられている。
私は髪型が同じでも分かるけど、他人にはあまり見分けが付かないみたいだからなぁ……。
こぶしちゃんの方がちょっと目が鋭くて、そしてクールなんだよね(※さくらちゃんと関わりが無い時のみ)。
そんな訳で、この百合ヶ島小の近隣では、啓内の双子姉妹は畏怖の象徴になってしまった。
さくらちゃんはいい子なのに、自分のことではないことで恐れられているのは、ちょっと可哀想……。
まあ、こぶしちゃんも妹を守る為にやったことだから、それは全部否定できるものではないけれどね……。
実際、イジメやナンパをしてくる人はいなくなったという面もあるし、さくらちゃん本人もさほど気にしている様子はない。
それにさくらちゃんさえ関わらなければ、こぶしちゃんも基本的にはいい子なんだよねぇ……。
しかし妹のことになると盲目的で、さっきの身代わり出席みたいなことだって平気でやろうとしてしまう。
特に妹の危機の時には、すぐ手が出てしまうというのが大いに問題だ。
……うちのお母さんといい、ちょっと好きな人との距離感を考えた方がいい人が、身の回りに多い気がする……。
「じゃあ、あたしは2組に行くから……。
あ、綺美のおばさんに、さくらは休むって言っておいて」
「ええぇ……」
自分が1組に出席するつもりだったから、2組の先生には自分で「こぶしは休む」って言うつもりだったのかな……。
大抵の人は入れ替わっていても見破れないとはいえ、なんて大胆な……。
その行動力は見習いた……くないな、うん。
※ここからはこぶし視点。
学校が終わったので、あたしはすぐに下校した。
本当はさくらの看病をする為に早退したかったけれど、皆勤賞を狙うと決めた以上、そういう訳にもいかない。
あれ……? 早退は皆勤賞に影響するんだっけ?
……まあいいや。
とにかく可愛い妹の為に、お姉ちゃんは頑張ったからね!
「さくら~、ただいま~!
ゼリーを買ってきたけど、食べる?」
「あ~うん、食べる~。
ありがとう、お姉ちゃん」
家に帰ると、さくらはまだベッドの上だった。
まだ日常生活に戻れるほどには、回復していないらしい。
でも、食欲はある……と。
実際、買って来た5つのゼリーをペロリと全部食べてしまったので、これなら完全回復もそう遠くはなさそうだ。
だけど、油断は禁物だ。
「どれどれ……」
あたしはさくらとおでこを合わせて、熱を測る。
うん、ほぼ平熱かな?
「お姉ちゃん、あまりくっつくと風邪が伝染るよ?」
「いいよ、いいよ。
風邪は伝染すと早く治るなんて言うし。
さくらの為なら、お姉ちゃんは喜んで風邪になるよ
なんなら伝染しやすいように、口と口でキスしてみる?」
「も~、お姉ちゃんったら、冗談ばかり言ってぇ」
ちっ、かわされたか。
でも本当に、さくらの身体の中で育った風邪なら、喜んでこの身に受け入れるよ。
そうすれば、さくらとの一体化を実感できると思うんだぁ。
「お姉ちゃんどうしたの?
ニヤニヤして……」
「あ、いや、なんでもないよ。
それよりもさくらは、まだゆっくり休んでいなさい。
眠っている間に、おかゆを沢山作っておくから」
「うん、ありがとう」
それからあたしは、さくらの寝顔を眺めていた。
まるで天使のような愛らしさだ。
氏子の中には、あたしのことを「神の子」だと言う人もいるようだけど、実際にはさくらの方が神の子だと思う。
実際、さくらの周囲だと、悪い気が浄化されていくのを感じるし。
綺美とかは気付いていないけど、さくらと一緒にいることで、結構恩恵をうけているんじゃないかなぁ……。
とにかく、さくらは凄い。
だからあたしは、さくらを守る為にこの力を持って生まれてきたと思うんだよね。
さくらの為なら、なんだってできる。
「……お姉ちゃん、がんばるからね」
あたしは眠っているさくらの頬にキスをして、部屋を出た。
お腹を空かせたさくらの為にも、美味しいおかゆを作らなきゃ!
「……お姉ちゃん、相変わらずだなぁ。
もっと肩の力を抜けばいいのに」
まあ、いざという時は、あたしがお姉ちゃんを支えるけどさ。
あたし達は、2人で1人だからね。
そんな訳で、「15-体育とTシャツ」の冒頭にいたのはさくらではなくこぶしです。他にもこぶしについて匂わせている部分がいくつかあるので、暇な人はさがしてみましょう。
あと、啓内の血筋の女性は、花の名前で統一されています。ちなみにさくら達の母親の名前は「あおい」だけど、今のところ登場予定はありません。




