21-5年生の恵
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私、紗藤恵が小学5年生になった頃、生活自体には何も変化は無かったのだけど、私自身は何か違和感を覚えていた。
私は……他の子達とは、何か違うんじゃないか──と。
いや、これは中二病的なアレではなくて、そのなんというか……とにかく、当時はまだよく分かっていなかったんだ。
ただ、恋愛には興味が無かったし、気になる男子もいなかった。
友達とそういう話になっても、内心ではついていけなかったんだ。
あの頃は女の子の友達と遊んでいた時が、1番楽しかったなぁ。
例えば、鬼ごっこで私が鬼になった際には、捕まえた友達の身体に抱きついた時が至福だった。
細いけど柔らかい身体の感触とか、なんかいい匂いとか、密着すると凄く幸せになれたんだよね。
ただ、そんな自分に、やっぱり違和感を持っていたんだ。
その違和感の正体がハッキリとした切っ掛けは、担任の先生だった。
5年生から私達の担任を受け持つことになったのは、久城先生という、30代の眼鏡で痩せた体格の、普通の先生だった。
なんだか真面目さだけが取り柄って感じの、何の面白みも無い──一見そうとしか思えない先生だった。
そんな久城先生と学校の外で出会ったのは、5月の初め頃だっただろうか。
ああ、ゴールデンウィークの頃だったから間違い無い。
当時、隣の市に両親の友人がいて、連休を利用して泊まりがけで遊びにいっていたんだ。
その時、街中をなんとなく探検していたら、何故か久城先生を見かけた。
こんなところで何をしているのだろう?──そう思い、気まぐれで尾行してみる。
すると先生は、大きな本屋さんに入っていった。
どうやら先生は、本を買うようだ。
こんな隣の市の本屋で?
ふ~ん、これは怪しいですなぁ……。
私達が住む百合ヶ島市にだって、大きな本屋くらいはある。
わざわざ隣の市にまで、本を買いに来る必要はないはずだ。
もしかして、先生……?
ああ……予想通り、エッチな本のコーナーに行ってますねぇ。
まあ、男の人としては仕方が無いのだろうけれど、先生としてはちょっと体裁が悪い買い物だから、隠すのも分かる。
しかし、どんな本を買うつもりなのだろう?
さすがに小学校の教師が、ロリ系だったら引くけど……。
ん? あれは……レ●? 女の子同士のエッチな本?
そ う い う の も あ る の か !
この時になってようやく私は、感じ続けていた違和感の正体が分かったような気がした。
それから私は、先生の後を追った。
そして一応配慮して、人気の無い場所で声をかけることにする。
昨今では大人の男性と子供が一緒にいるだけでも、通報されかねないからねぇ……。
「せ~んせぇ!」
「え……」
突然声をかけられて、先生はギクリとした顔をしていた。
私にはその理由が、手に取るように分かる。
「さ……紗藤さん……。
どうしてここに……?」
「この町の知り合いのところに、遊びに来ていたんですよ。
それで……散歩していたら、先生を見かけたので……」
「そう……なのですか……」
「本屋に入る前から、見ていましたよ♪」
「!?」
私の言葉に、先生は一瞬目を見開いたが、すぐに顔から表情が無くなった。
たぶん、必死で平静を取り繕うとしているのだろう。
その証拠に、身体が少し震えている。
人間って、本気で追い込まれるとこういう反応になるんだなぁ……。
「ねえ、先生……。
さっき買った本を見せてよ」
「え……
なんのことかな……」
「全部見ていたから、誤魔化しはきかないよ?」
「!」
先生はまた焦った顔をした。
そして、どうすればいいのか、迷っているようだ。
そんな先生が出した答えは──、
「これは……未成年に見せたら駄目な決まりになっているから……」
正直に話すことにしたようだ。
「ふ~ん、じゃあ今日のこと、みんなに話しちゃおうかなぁ」
たぶん、本当に噂を広めたら、先生の立場は少なからず悪くなるだろう。
私は男の人がそういう本を買うのは、そんなに変なことではないという話を聞いたことがあるので、偏見はそんなに無いと思う。
でも、PTAとかは、凄くうるさいとも聞く。
男の人と結婚したお母さん達が、男の人の習性に理解が無いというのも、不思議な話だねぇ……。
ともかく、先生は凄く困ることになるだろう。
でも、先生は──、
「それでも、駄目なものは駄目だ。
これは子供達の為の決まりでもあるのだから」
きっぱりと拒否した。
私はこの時、この先生は信用できる人だと確信した。
だから私も、正直に話すことにした。
「そっか……じゃあ、仕方が無いね。
でも、ただの好奇心で、その本を見せて欲しいって言っているんじゃないんだよ?
だって私、たぶん女の人が好きだから。
だから、そういうのを知りたいと思ったの」
「え……!?」
私の予想外の告白に、先生は酷く驚いた顔をした。
完全にどう対応したらいいのか、分からないという顔だ。
それでも──、
「えっと……この本は見せられないけど、その……相談には乗るから」
真摯に私の問題に向き合ってくれた。
地震のあった地域の方々は大丈夫だったのでしょうか……。




