20-飲み会の中で
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今、私は居酒屋の宴会場にいる。
今年度から着任した新任教師達の歓迎会の為だが、ここは私にとって戦場だ。
「いやぁ~、珠戸先生は飲んでも全く変わりませんねぇ。
いや、顔は赤いですけど」
「ええ……よく言われます」
2組の壬山先生が、陽気に語りかけてくる。
この人は楽しくお酒が飲めるタイプなのだろう。
ちょっと羨ましい。
だけど私は違う。
私は万が一にも泥酔して、本性を出したら社会的に死にかねないのだ。
実の娘に対する歪んだ愛を暴露しようものなら、周囲からどんな目で見られることか。
最悪の場合、自主退職コースだ……。
だから必死の思いで、酔いを精神力で抑え込んでいるんだよっっ!!
あ~っ、早く家に帰って、綺美ちゃんイチャイチャした~い!
……っと、気を抜くと暴走しそうだ。
私は思わず、こめかみを押さえた。
「あれ? 珠戸先生、大丈夫ですか?」
「ええ……私はあまり酔わないように見えて、すぐ頭が痛くなるタイプみたいで……」
これは本当。
でもこれを目安にするおかげで、酒量をセーブして飲めるし、誰かから酒を勧められても断る理由になるから、結構助かっている。
まあ、飲みたくもない酒なのに、ビールジョッキ5杯くらい付き合っているので、この辺でいいだろう。
もう……ゴールしてもいいよね?
「じゃあ、部屋の隅で休んだらどうです?」
「ええ……そうさせてもらいますね」
と、壬山先生の提案に甘えて、私は宴会場の隅に移動して座る。
本当はもう帰りたいけど、さすがに最後までいないとなぁ……。
だが、二次会だけは断固派拒否する!
ともかく私が休んでいると、校長先生が歩み寄ってきた。
うわ、なんでこっちに来るの?
「珠戸先生、大丈夫ですかね?」
「いや……見ての通りですが、何か?」
ぶっちゃけ、今は人と関わりたくないので、放っておいてくれませんかねぇ……。
嫌々飲んだ酒だから、機嫌が良くないのよ。
それが表情に出たのか、校長先生に指摘された。
「はっはっは……仮面が外れかけていますよ」
「…………まあ、校長先生が相手なら、見られてもいいです」
「そうですか。
……よっと」
何故、隣に座る!?
「……どういうことです?」
「睨まないでくださいよ。
私もちょっと休憩ですよ」
「……私達の関係が疑われようなことは、やめてくださいよ?」
別に意味深なことは一切無いけどさぁ……。
でも、校長と若い女教師の2人組って、傍目にはなんかエロく見えない?
いらぬ疑いは招きたくないのだ。
「はっはっは、でもあなたが小学生の頃からの顔見知りですし、こういう機会に思い出話をするのもいいではないですか」
「ええぇ……」
確かに校長先生は、私が小5の頃の担任だったから、その関係で今も色々と配慮してもらっているというのもあるんだけど、多少は迷惑をかけている自覚もあるので、ちょっと仕返しが怖い。
「そういえば、先日娘さんと廊下ですれ違った時に、丁寧に謝罪されましたよ。
娘さんにあまり気苦労をかけるのも、どうかと思いますがね?」
「Oh……」
綺美ちゃんなにしてるの……。
いいんだよ……この人、私に恩があるだから。
だから多少は恩返しを要求しても、バチは当たらないんだから……。
「それにしても娘さんは、あの頃のあなたには全然似ていませんねぇ」
「ふふ……自慢の娘ですからね。
鳶が鷹を生んだってやつですよ」
「確かに……あなたは成績優秀ではありましたが、問題児でしたからねぇ」
「……問題教師が何を言いますか」
この私の発言は、おそらくブーメランになるものだった。
だから校長先生には、皮肉で返されると思っていたのだが……、
「その節は、黙っていてくれて感謝しています」
彼は苦笑しつつ、軽く頭を下げた。
そう素直に言われると、私も悪態で返すような余地は無い。
「まあ……同好の士のよしみなので」
そう、あの時の私と先生は仲間だった。
そして2人だけの秘密を抱えていたけど、別に色恋沙汰とかは無い──念の為。
でもちょっと間違えば、私が犯罪に巻き込まれた可能性はあったんだろうね。
今にして思うと、教師を脅すとか、随分と怖い物知らずなことをしたと思うけど、先生が紳士で良かったよ……。
自暴自棄になって口封じとか、有り得たもんね……。
あれは、先生が私の担任になってから、間もない頃のことだった。




