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【コミカライズ】苛烈な聖女様 ~聖女召喚?!これは拐かしだし、其方達は全員罪人じゃ!!~  作者: 千椛
第三章

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七十七話

「聖獣様、ありがとうございました」


 周王に王城まで送ってもらったラウルだが、森へ向かった時とは桁違いの速さで駆ける背上では、恐怖しか感じられず、地面に足が着いた時には安堵で座り込みそうになっていた。近くの柱で身体を支え、なんとか体裁を整えて周王に礼を述べる。

 しかし、軽く頷くと同時に飛び立った周王を見送るうちに、気が緩んだのだろう。ずるずるとへたり込んでしまった。 


(怖かった……)


 何度も振り落とされるのではないかと思い、必死でしがみついていたせいで、腕も脚も限界に近い。それでも、まだすべき事があるのだと自分に言い聞かせ、腕を擦り、カクカクと震える脚を叩いてなんとか立ち上がると、ランチャの待つ執務室へと向かった。



 ラウルから渡された信長からの指示書を見た途端に、蘭丸は頭を抱え込んだ。

 そこには、とんでもない数の焙烙火矢の準備と、それを飛ばすための()を作るよう書かれていた。それ以外にも、『金紗丸』と同じ種の馬を、千頭用意しろだの、一ヶ月以内に南側の帝国との国境に、五万の兵を配備しろなどと、無理な要求が書き連ねてある。


「私は一人しか居ないというのに、無茶ばかり仰っしゃる。せめて羽柴様の様な方が居られたら……」


 信長が贔屓にしていた、武将を思い出す。この様な無茶な要求が出された時に、機転の効いた策を思いつき、実行する男だ。しかし無い物ねだりをしていても、物事は解決しない。蘭丸は取り敢えず、手の打てる事から始めることにした。


「直ぐに王都内の陶器職人に招集をかけろ。それと火薬だが、どれぐらいの量があるのか、確認を。足りなければ増産しなければならないから、その準備もだ。あと、『金紗丸』や『曇天丸』のような馬は、どこに行けば手に入る?」


 矢継ぎ早に、ラウルに命じる。


「職人と火薬については、直ぐに手配を。ただ、馬に関しては、手に入れるのは難しいかと。あの馬はガニリテケと呼ばれる種で、ガニラ自治区にしか生息しておりませんし、我が国とガニラ自治区はここ数年、交易をしておりませんので……」


「では、あの二頭はどうやって手に入れたのだ?」


「あれは確か王女の十五歳の祝の品として……そうだ、馬の事ならば、王女にお願いしてみてはどうでしょう?」


「王女に?」


「はい。サリア王女は幼い頃、ガニラ自治区で過ごされた事がおありだと、伺っています。その縁もあって、あのニ頭が贈られたのです」


「判った。後で王女に面会を求める。それと、王城の武具職人を今すぐここへ」


 この国に弩に似た武具があるか、聞くところから始めなければならない。もし設置型の弓が有れば、それを少し改良すれば済むからだ。


(無ければ一から作るか……)


 五万の兵に関しては、取り敢えず国境近くの領主達に手紙を書く事にするが、皆が皆、素直に兵を出すとは思えなかった。

 貴族と呼ばれるこの国の領主の大半は、勇者としての信長を認めてはいるものの、それ以上に恐れていた。それ故に是迄は、表立った反対意見等は出て来なかった。

 しかし今回の戦に関しては、信長が独断で決めた事だけに、反感を持っている者が無いとは言えない。


(殿が直に交渉されれば、話は早いと思われるが、いつ戻られるのなさえ、判らないのでは……)



 ***



 それから四日後。 

 香菜姫を乗せた華王は、フェンリルの森の南側に、降り立った。土魔法が得意な者達と魔術師団長、そして信長を乗せた周王が、その横に並び降りる。

 既にムーンとトゥルーを含む先発隊は、四日前に出立しており、姫達は少し前に、その上を追い越していた。


「ここらで良いのか」


 横穴堀りの監督役であるヘンリーに聞く。敵方の見張りの目には、森へ向う道を確保するための部隊だと映るよう、横穴を掘る場所からは少し離れた所に、天幕を設営する事になっていた。

 もちろん道の確保も行なわれる。それも又、策の一つだからだ。


 香菜姫は不思議収納箱の中から、天幕や簡易(かまど)等を取り出し積み上げていき、その横には当座の食料や、貯蔵箱を出す。


 それを魔術師達が手際よく組み上げたり、移動させて行く。先発隊も直に到着したので、残りはその者達に任せて、ヘンリーはムーンやトゥルー達と共に、横穴を掘る場所へと向かった。


 香菜姫と信長も、後に続く。目的地に着くと、今度は土を運び出すための道具や荷車を出していく。その間に、風魔法使いが邪魔になる木々や藪を切り払い、脇に除けていった。


「ここから向こう側まで、おおよそ二千八百フィルト (2.8キロ)ある。その距離の横穴を掘るのに我々にある時間は、三週間だ」


「任せてくれ」


 ヘンリーの言葉に頷いたムーンは、瞬く間に大きくなると、ガシリッ。前足の爪を山肌に突き立て、穴を掘り始めた。


 ガッ、バン、ガシッ、ドン! 


 勢いよく掘り進めるムーンに、魔術師達が慌てて、掘り出された土を荷車に積み込み始めた。既にムーンの姿は掘り進めた穴の中へとはいりこみ、そこから石混じりの土が、勢いよく吹き出している。


(先程、肉を降ろしたのを見ておったせいか、張り切っておるの)


 魔術師達に混じり、トゥルーが土を運んでいるのを暫く眺めた香菜姫は、信長に声をかけた。


「では、我等は次の目的地へ参ろうか」


「待ちかねたぞ。奴らが何を企んでいるのか、この目で然と見てやる」


 二人はそれぞれに隠形の札を貼った白狐に跨り、帝国側へと向った。上空から眺めると、帝国側では既にかなりの土地が更地となり、今は多くの兵達によって、何かが埋められていた。

 ただ、こちら側から向こう側まで、幅二間程の通路も又、作られていた。それは蛇行するように縄が張られており、こちら側をこの場所迄誘導した者達が、安全に逃げ切る為の策だと思われた。


「おそらく『埋め火』のような物でも、埋めてるのだろう。あの縄の間は逃げ道だな。当日は逃げると同時に、目印は回収する筈だ。あとは、アレか」


 直ぐ側で組立てられている、大型の仕掛けに視線を移す。


「妾は物を飛ばすための、道具だと思うておる。飛ばすのは、恐らくは火薬玉じゃと」


「だろうな。あれで大量に飛ばすつもりだろう」


 言いながら、信長は作業する兵達を睨んでいたが、


「なぁ、香菜姫。ここを征くのは、わしに任せてくれぬか。罠にかかった振りをして、奴等のド肝を抜いてやろうと思う」


 悪い顔で笑う信長を見て、何やら策を思い付いたのが察せられた。


(どのような策かは判らぬが、この様子じゃと、容赦は無いじゃろうな。まぁ、魔王殿を怒らせたのじゃから、仕方あるまい)


「詳しい話は、戻ってからビートン辺りにしたほうが良いかと。クリントの策との兼ね合いも、あるじゃろうし」


「クリントか。隻眼の副大将だな」


 現在軍はビートンを総大将として、バーリーとクリント・エジャートンを、副大将に据えていた。


「あれは面白い男よの。頭も回るし、度胸もある。では、いったん戻って其処らと話をしたら、わしも国元に帰り、準備にかかるとしよう」


 蘭ちゃんが待ちくたびれておるだろうしと、笑う。


「では、急ぎの知らせがある時は、こちらを使われよ。ここに妾の名を書けば、届くようになっておる」


 鳥型の式を数枚、信長に手渡す。これも今回新しく創った物の一つだ。届け先は香菜姫に限られる上に、その名を漢字で書かなければならないが、その手間をかけるだけの価値はあった。

 どんな通信手段より早いのだ。その為、オルドリッジは努力して、漢字で姫の名を書けるようになっていた。


「ほう、これは有り難い。では急いで戻ろう。周王殿、頼むぞ」


 式を懐に仕舞った信長は周王に跨ると、姫と共に王都へと向かった。


 その後、ビートン達との話を終えた信長は、ラウルが来る時に乗ってきた『金紗丸』の背に跨ると、風のように疾走り去って行った。

 



「それにしても、ロウェイ王国の勇者殿は、随分と大胆な方ですね」


 クリントが、先程迄信長が座っていた箇所を見ながら

、向かいに座るビートンに言う。バーリーとオルドリッジは勇者を見送るために出ており、今この場には二人だけだ。


「お前にそう言わせるとは、余程だな」


「いくら俺でも、流石にあの様な策は立てませんよ。俺はどちらかと言うと、もっとこっそりと動く方が性に合ってますし」


 今回香菜姫の札を用いて、山越えの奇襲を計画している者の言葉に、ビートンが呆れた顔をする。


「どうせお前の事だ。計画しているのは、奇襲だけではあるまい」


「そりゃ、そうです。あんな便利な札があるんですから、そこは有効に使わないと、勿体ないですからね」


 笑いながら、片方しか無い目を瞑ってみせる。

 その計画の為だろう。クリントからは、魔術師を二人ほど同行したいと要望が出されている。しかも、どうやら聖女から依頼された、新たな実験に協力する見返りに、その術を優先して使用出来るよう交渉したと聞く。


「何を計画してるのかは知らんが、実行前に報告だけはしてくれ。現場で慌てふためくのだけは、避けたいからな」


「勿論です。もう少し進んだ時点で、ご報告差し上げますよ」


 既にクリントの腹心五人が、山越えの奇襲に最適な道筋を探りに、山へと入っている。精密な地図の作製と、敵がどの程度付近の山々に見張りを置いているか、調べるためだ。


(それと後、もう一つ。アレが上手く行けば、それこそ帝国軍の慌てふためく様が、見られるだろう)


 その時の事を想像した隻眼の副大将は、静かに笑った。



 **



 その頃山中では、声には出さずに呪文を唱え続けている一行がいた。馬と自身の身体に聖女特製の札を貼り付けた彼らは、クリントから密命を受けた者達だ。

 互いに小声で話す時と、交代で睡眠を取る間以外は、ずっと呪文を唱えるようにと言われており、律儀に守っているのは、そうするよう命じた主を、それだけ信頼しているからだろう。


 『オンマリ シェイ ソワカ』。その呪文がどの様な意味を持つのかは、皆目判らないが、彼等はその言葉を唱えながら、己の使命を果たすために進んでいた。


『焙烙火矢』と『埋め火』は、どちらも忍びの武器で、 『焙烙火矢』は手榴弾のような物で、『埋め火』は地雷の様な物です。

また、帝国側が造っている投石機はカタパルトと呼ばれる物で、信長が蘭ちゃんに作るように言った弩は、バリスタに近い武器です。日本ではあまり普及しませんでしたが、平成8年〜9年の鳥取県で行われた発掘調査で出土しており、それを題材とした小説も書かれています。


あと、作中に出てくる馬のガニリテケは、アハルテケという品種をモデルとしています。トルクメニスタン原産で、その毛並みから『黄金の馬』と称され、素晴らしいスピードと持久力で知られています。日本でも青森県八戸市の長谷川牧場で、飼育されています。

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