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【コミカライズ】苛烈な聖女様 ~聖女召喚?!これは拐かしだし、其方達は全員罪人じゃ!!~  作者: 千椛
第三章

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六十四話

 香菜姫が、領主から是非にと誘われた茶席の場に、その一報はもたらされた。


「領主様、大変です。バビジ護送の一団が、魔獣の群れに襲われました!」


「なんと!それで、皆の安否は!?全員、無事なのか?」


「それが、その……」


 伝令の兵士は、ちらりと香菜姫の方を向くと、言いにくそうにする。しかし、直ぐに当の護衛の一員らしき兵士が走り現れたため、そこからは、その兵士が説明をする事になった。


「護送途中で魔獣の群れに遭遇し、五名では到底対抗出来ないと判断し、恥ずかしながら逃げる事に致しました」


「では、護送していた者はどうした?共に戻ったのだろうな」


「……申しわけありません。護送馬車を護りながらでは、逃げ切れないと思いました。かと言って、囚人を檻から出して馬に乗せるわけにも行かず、結局、その場に置いたままに……」


「なんと、置き去りにしたのか?!」


 眉をしかめて報告を聞いている領主を、香菜姫は向いの席に腰掛けたまま、見ていた。


「申し訳ありません!」


 頭を下げる兵士に対して、領主は大きなため息を一つ、ついただけで責めることなく頷くと、


「起きてしまった事は、致し方ない。陛下には、わしからお詫びと、事情を説明する手紙を送っておく。明日、捜索隊を出すから、詳しい場所をサイモンに伝えておくように」


 そう言って下がらせようとした。だから。


「最後に一つだけ、聞いて良いか?馬車を引いていた馬達は、どうしたのじゃ?」


「そのままでは、生きたまま魔獣に喰われてしまいますので、馬車から外してやりました。その後は我らの後を付いて走り、こちらに戻っております」


「あい判った。もう、下がって良いぞ」


(なるほどの。馬は助かり、囚人は喰われたか……)


 先程の領主と兵士のやり取りが、姫の目には、どこか芝居じみて見えていた。それどころか、この場に報告がもたらされた事自体が、予め、決められていた事のように思える。


(観客は、さしずめ妾か。じゃとすると、敢えてバビジが生きたまま魔獣に喰われるよう、仕組んだ、とも考えられるの)


「聖女様。今回の事は非常に申し訳なく思う。ただ、兵士達には常日頃から、魔獣相手の場合は無理な戦闘はせず、先ずは命を大事にするよう言っておりまして……」


「かまわぬ。あの者を捕えた事実が、変わるわけではない。手配書にも、生死は問わぬとあったしの」


 言いながらも、香菜姫は昨日の時点で、この様な事態になるのではという予感があった。昨夜、捕えた商人を前に、殆んど言葉を発しなかった領主の姿は、そう予感させるものを、多分に含んでいたからだ。


 平静を装ってはいたが、歯を食いしばっているのだろう、顎は酷く強張り、腰掛けに付いた肘置きを掴んでいた手の先は、白くなっていた。あまりにきつく握っているので、木の肘置きが砕けるのではと、思う程に。


(どれ程の想いを、堪えておったのか……今回の事は領主が、何らかの指示を与えた結果と考えてよかろう。あの男も、延々と謝罪と反省の言葉を言い続ければ、少しは温情を掛けてもらえたかもしれぬが、あのように、露骨に保身に走ればの……)


 もっとも、散々悪事を働いた悪党の末路としては、相応しい物だと結論付けた姫は、己の予感や仮説の全てを、忘れる事にした。



 それから二日間は、アベケット領地の各地を周りながら、大きめの魔素溜まりの浄化を行ったが、大量の魔獣の氷漬けをもたらしてくれる聖女一行は、何処へ行っても歓迎を受けていた。

 どうやらカエルに似た魔獣からは、保存食が作れるらしく、付近の住民総出で解体作業にあたるという。

 これで作られる干し肉や燻製は、これから寒さが厳しい季節の大事な食料となるのだろう。皆、張り切って作業していた。


「少し、味見してみますか?」


 その様子を眺めていた香菜姫に、バーリーが笑いを含んだ顔で聞いてきたが、姫は無言のまま、酷く嫌そうな顔を向ける。


「意外と美味しいですよ!」


 燻製された肉を手にエリアナが寄ってくるが、すかさず華王に跨り、先に戻ると言うと、その場を離れた。


(流石に、あれを食する気には、なれぬ……)

 



 香菜姫が領主屋敷に戻ると、留守役をしていたガレリアから、訓練場の隅で、ソフィーナが手持ちの硝石を使って試作した、火薬の実験をしていると聞いた為、連れ立って様子を見に行くことに。


 すると、そこでは火薬が気に入ったらしいサイモンが、ソフィーナの実験を手伝っているようだった。しかし。


「ソフィーナ、これ少し、もらって良いか?」


「良いけど、何に使うの」


「ちょっと試したい事があって」


 言いながらサイモンは、ソフィーナが毒袋を採る為に、常温に戻していた魔獣数体のうち、一番端の魔獣の口をこじ開けると、火をつけた試薬玉をその中に放り込んだ。


 ブバンッ!ベチャッ!


 破裂音と同時に、細切れになった魔獣の肉や内蔵等が辺り一面に飛び散り、悲惨な状態を作り上げた。


 身体中に肉片を浴びたソフィーナが、顔に張り付いた眼玉の欠片を払い落としながら、同じく肉片だらけで、千切れた舌を頭に乗せたサイモンの襟首を掴み、詰め寄る。


「サイモン。言い訳があるなら、少しだけ聞いてあげます。何で、こんな馬鹿な事をしたんです?」


「いやぁ、上手く行けば、顔だけがポンと飛ぶかと」


「それはそれで、怖いです!というか、二度としないと約束して下さい!でないとその口に、火をつけた試薬を放り込みますよ!」


「判った。もう口に入れたりはしない!絶対だ。約束する!」


「それと、今すぐ掃除して!」


「判った!」


 そんな二人のやり取りを、遠目に見ていた姫は、 


「のう、ガレリア。嫁は、あれで良いのではないか?」


「そうですね。身分的なものも、今回の功績を考えれば問題ないですし。残る問題は、領地の管理でしょうか。

どちらも、やりたい事が多すぎて、したがらない気がします」


「誰ぞ、優秀な者を雇えば良かろう」


「確かに。そういえば、ソフィーナの従兄に、計算に強いものがいると聞いた事があります。一度、会ってみても良いかもしれません」


 今度は魔獣の尻の穴に試薬玉を入れようとして、叱られている兄を見ながら、ガレリアは答えた。




 バビジと一緒に捕えた者たちの取り調べは、順調に進んでいた。特にバビジが護送中に死んだと聞かされた後は、全員、驚くほど口が軽くなったらしい。


 既に硝石の材料を運んだ場所も特定され、今は姫の式が見張りを務めている。ロウェイ王国の兵を模した者が二人ほど常に居るが、特に何かをする様子もないので、今のところは放ってあった。


 討伐隊のアベケット領地の滞在も六日目となり、大方の魔素溜まりの浄化を終えた香菜姫達は、王都ウィルソルに戻る事にした。



   ***



 王宮へと戻った香菜姫は、早々にウィリアムとオルドリッチに、バビジの死と、勇者と火薬について伝える為に、オルドリッチの執務室へと向かった。幸い、ウィリアムもその場にいた為、アベケット伯爵から預かった手紙を渡しながら、事の次第を説明した。


 バビジに関しては、恐らく生きたまま喰われただろうと言う姫の言葉に、二人して溜息をついたものの、どこかホッとしたようにも見えた。


 しかし、勇者と火薬については、大きな衝撃を与えたようで、特にオルドリッチは深刻な顔をしている。


「二年も前に、勇者を召喚していたとは。しかも、蠱毒の材料提供に、火薬の製造まで行っていたとすると、既に帝国と手を結んだと考えたほうが、良いかもしれませんな」


「その事じゃが、決めつけるのは、些か早計じゃ。実は、勇者は妾と同じ世界の御仁のようでの。当人が火薬の製造に詳しく、独自に作っていた可能性があるのじゃ」


「それはそれで、問題ですね」


 オルドリッチが眉をしかめる。この国では、ようやく研究が始まった火薬が、帝国だけでなく、ロウェイ王国でも既に存在するのだ。それどころか、量産されている可能性まである。


「じゃから、そこらを確認するためにも、妾が正式に訪ねようと思うてな」


 ウィリアムに、何か必要な手続き等あるなら、早急に取って欲しいと言うと、ここ二年ほどは、殆ど交流が無かったものの、一応、友好国のため、正式な訪問を伝える書類を送れば問題はないとの事で、直ぐに親書を送る事が、決まった。


 その後、シャイラも交えて話し合った結果、訪問は三日後、そして香菜姫の同行者として、ガレリアとデラノ・エジャートン、そしてクラレンス翁の三人が選ばれた。



  ***



 ロウェイ王国。


「ノブナガ殿、ランチャ殿。レストウィック王国からの、正式な訪問を知らせる親書が届きました!」


 手紙を手にしたラウルが、小走りで信長の執務室へと入って来た。


「ようやく来たか!それで、いつだ?」


「三日後、と書かれています」


「しかし、隣国の使者が到着したという知らせは、受けていませんが。いったい誰が、それを受け取ったんです?」


 蘭丸の疑問はもっともな物だ。通常は、親書を携えた使者が、謁見を求めて来るからだ。その後、王、もしくは国務に携わる者が受け取る運びとなる。


「あー、実は紙で出来た鳥によって、運ばれて来まして。こういう物は初めて見ましたが、聖女様の魔法ですかね?でも、正式な封蝋がされていたので、間違いない筈です」


 ラウルが封筒をヒラヒラさせながら、答える。


「それにしても、変わった紙ですね。材料は、植物みたいですが。それに、何か書いてあるけど、絵か文字かさえ、私には判りませんし」


 信長がそれを取り上げ、広げて見ると、そこには流麗な文字で急急(きゅうきゅう)如律令(にょりつりょう)望配届達(ぼうはいかいたつ)と、書かれててある。


(やはり陰陽術か……)


 あの後、慎重に調べた結果、小屋では何らかの呪物が作られていたことがわかった。爆発で吹き飛んだ物の中に、その仕様書の一部がみつかったのだ。

 そして、火薬の保管倉庫からは、持ち出された形跡はなかった。結果として、信長達は、火薬はあの聖女が持っていたと結論づけていた。


「なぁ、蘭ちゃん。奴ら、どうやって来ると思う?」


「そりゃあ、飛んで来られる、でしょうね」


 蘭丸には、それ以外、考えられなかった。そしてそれは正しい事が証明された。それから三日後、聖女とその一行は、空を駆ける白狐に乗って、王宮に現れたからだ。


(しばら)くぶりじゃの。信長殿に蘭丸殿!」

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>今度は魔獣の尻の穴に試薬玉を入れようとして、叱られている兄 昭和の小学生かよw
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