番外編7 向かうところに敵はない
新大陸、アメリカ。
その西海岸で原住民を次々と舎弟に納め、大陸に大勢力を築きつつある山田正道と織田信長は、必然的に大洋の覇者イスパニアとぶつかる。
というより、山田正道が勝手にぶつかりに行った。
土地のインディアンを迫害し、労働力として攫っていくイスパニア人たちの非道を聞いた正道は、インディアンや舎弟たちを従え特攻み、イスパニア人たちを追い払ったのだ。
――これは、大事になるぞ。
本国イスパニアが動けば、大戦になる。
それが見える織田信長は、大慌てで戦の準備に取り掛かった。
新大陸まで共に来た武士は、数十程度。あとは工人職人の類と山田党だ。
鉄砲の数も百に満たず、どうしてもインディアンを戦力として頼りにせざるを得ない。
だが。
「おい! どこへゆくのだ! まっすぐに歩け!」
「なんで座りこむ!? ちゃんと足並みを揃えんか!」
「そっぽをむくなぁーっ! 貴様ら眼前に迫った危機を理解しておるのかーっ!」
インディアンを兵士として鍛えようとした信長だが、彼らはまったく言うことを聞かない。
自由を尊ぶインディアンの性質やその精神風土が、戦士としてはともかく、兵隊として決定的に向いていないのだ。
加えて、彼らには元天下人の威光も通じない。彼らが信服している山田正道が率いて勢い任せに特攻んだほうがマシというものだ。
「イスパニア軍と戦うことを考えれば、鉄砲隊を増やしたいが……こやつらに使わすのは玉薬の無駄遣い。ええい、頭の痛い! いっそ船の大砲を陸揚げするか?」
「はっはぁ! 織田のォ、血が滾ってきたぜェっ!」
「山田のぉっ! お主も少しは考えんかぁっ!」
と、信長が孤軍奮闘していた、そんな時、助けは現れた。
浅井長政率いる日本軍が西海岸に到着したのだ。
顔ぶれは、浅井長政を筆頭にした江北衆、九鬼嘉隆率いる九鬼、北条、里見水軍より特に選抜した精鋭。
他に伊達政宗らの乗る一隻があったが、嵐の中ではぐれている。その他柴田勝家ほか多数も手をあげていたが、船の数が足りず、参陣叶わなかった。
信長は顔を輝かせた。
「お主ら! ちょうどいい! 戦だ! 手伝え!」
「さ、さ、さ前右府様!?」
これまで、織田家中枢以外は、信長の生存は秘されていた。
この遠征にあたって織田信忠より暗に聞かされてはいたが、眼前でその姿を見れば驚きもひとしおだ。
ややこしいことに、公的には死んでいる織田信長は、軍を指揮する根拠を持たない。
また新大陸の、まぎれもない大勢力の主、山田正道も、織田軍の指揮系統から外れた存在であるため、指揮権の所在がひどくあいまいになってしまっていた。もとより、正道には軍のまともな指揮など出来ないが。
「ですが、信忠公が浅井長政を大将に指名された、ということは、義兄上に従え、ということで間違いありますまい。日ノ本軍二千、義兄上にお預けいたします」
「デアルカ。ふふ、信忠めが。イスパニアと戦う覚悟を決めよったか……肝の太さは父以上よ」
「義兄上……」
「それにしても浅井の。よく来てくれた! 本当によく来てくれた! ちゃんと命令を聞いてくれる武士の、なんとありがたいことか!」
「あ、義兄上?」
少々人変わりした信長に戸惑いながら、浅井長政は視線を山田正道に転ずる。
「正道殿、一別以来。共に轡を並べられること、なによりの喜びです」
「よろしくなァ! 浅井のォ!」
外見こそ、インディアンのようなペイントや羽が加わっているものの、中身はまったく変わらない正道に、浅井長政は苦笑を浮かべた。
◆
「着いたぜェ。ここが新大陸かよ」
巨大なスクリュー船の甲板の縁に足を掛けながら、独眼の若武者が「絶景かな」とばかり、まぶしく輝く大地を見やる。
伊達政宗。
奥州の独眼竜と謳われる戦国大名だ。
浅井長政ら本隊よりはぐれた伊達軍は、南アメリカに漂着していた。
いや、漂着ではない。わざとはぐれたのだ。
事前に新大陸の情勢を調べ、イスパニアが大陸の北よりもむしろ中南米地域に拠点を築いていることを知った政宗は、織田信忠を出し抜いてこれらを奪おうと目論んでいる。
「新しく開拓するよりもよォ、奪っちまった方が万倍楽じゃねえか。しかも金山銀山の宝庫とくりゃぁ、分捕るっきゃねえってもんだぜ!」
独眼を野心に輝かせながら、奥州の梟雄は天に拳を突き上げる。
「梵天丸もかくありてェ……待ってな山田のオジキ! アンタが北を抑えている間に、わしは南の王になってやるぜェ!!」
北米と南米。
二つの大陸に上陸した日ノ本の侍たちは、世界の舞台に華ばなしく躍り出た。
※
伊達政宗「なに? 銀山で奴隷労働を強いられている? 案ずるな! なにを隠そうわし一揆扇動は大得意!(キラキラ)」
戦国リーゼントにおつき合いいただき、ありがとうございます。
それから、なろうコン作品ピックアップでご紹介いただきました! ありがとうございます!
次回外伝最終回予定! 不定期更新ですがよろしくお願いします!




