考えるにも知恵がない
「山田の。助勢かたじけない」
「いいってことよォ」
戦の終わった戦場で、信長と正道は親しく言葉を交わす。
「お主は、土地の者ではないな」
「ああァ」
信長への返答には、圧倒的に言葉が足りていない。
正道に素性を隠すつもりはない。
聞かれた言葉にまっすぐ答えただけだ。
だから、正道は、続く質問にもまっすぐに答える。
「徒党を引き連れての旅か。仕官先を求めてか?」
「違うなァ。道に迷っただけよォ」
「迷っていて、わしを助けたのか?」
「当然だろォ?」
正道は胸を張る。
信長は一瞬、驚いた顔を見せて――笑った。
「どうだ? わしに仕えんか?」
――来たっ。
二人のやりとりを見ていたシゲルは、心の中で歓声を上げた。
合戦中、バイクでこけて頭を打ったため、仲間に支えられ、かろうじて立っている。よく生きていたものだ。
これは信長に仕える絶好の機会だ。
できればシゲルが直接仕えたかったが、正道が仕官してくれれば、取り入る機会はいくらでもある。
「断るぜェ」
だが、正道はきっぱりと断った。
シゲルはショックで気絶した。
◆
桶狭間の合戦から、数日。
「兄貴ぃ! なんであのとき仕官の話を断ったんだ!?」
シゲルは、鬱憤をぶつけるように、正道に猛然と詰め寄った。
信長からは、多額の謝礼を貰ったが、それまでだ。
そのお金を熱田大宮司千秋家に預け、屋敷のひとつに仮住まいさせてもらっているが、百人もの大人数が、いつまでも置いてもらえるはずがない。
というか、桶狭間の戦いで当主が死んだばかりだというのに迷惑極まりない。
あのとき、仕官するのが正解だった。
歴史にくわしいシゲルから見れば、もったいなくて仕方がない。
「それはなァ、シゲルよゥ」
悠然と。正道は答えた。
「――オレとヤツのタイマンは五分よォ。ヤツのことは気に入ったけどよォ、下につく気はねぇさ。五分の兄弟ならともかくなァ」
その言葉は筋が通っている。
相手が一国の主であるという事実を除けば、だが。
――この筋肉バカがぁ。
シゲルは内心毒づいたが、他の舎弟たちは、そうは思わない。
「さすが正道さん! ビッグだぜ!」
「くぅーっ! イカス―っ!」
――バカばっかりだ。
シゲルは頭を押さえた。
そのシゲルも、熱田の豪商が、千秋家に口利きしてくれた理由に気づいていない。
なにもかも、信長の手配だった。
◆
いい天気だ。
熱田は今日も平和である。
バイクの排気音があたりに響く。
正道の舎弟たちがバイクを走らせているのだ。
「ボンクラどもが」
シゲルは毒づいた。
バイクがこの時代、どれほど規格外なものか、シゲルは理解している。
ガソリンは二度と手に入らない。
意味のないことに使うべきではない。
にもかかわらず、舎弟たちは馬鹿みたいにバイクを走らせ、燃料の無駄遣いをしている。
「みとれよ。わいは燃料を温存して、ここぞという時にバイクを使って手柄をあげたる!」
シゲルは気炎を吐いた。
「あー、ガソリンもうねーなあ」
「そういや、シゲルのやつ、バイク全然使ってねーっぺよ。ちょっと拝借するっぺ」
こんな会話がされていることは、つゆ知らず。
※
信長「弥三郎、お前の親父にあいつらの面倒みるよう言っといて」
弥三郎パパ「千秋さんに頼もう。あそこ戦で人いっぱい死んだし、急場の戦力補てんにちょうどいいだろ」
千秋季重「なんかかぶき者の集団に住みつかれた。解せぬ」




