表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/18

第18話 嵐の前の静けさ

「――……で、なんやかんやあってそのカラスを手懐けた、と」

「そーっすね!」


 第三次試験の浄魂。

 それは中断になり、今現在俺は先生に囲まれて事情聴取を受けていた。


 悪霊だったカラスはすっかり大人しくなり、俺の肩で眠っている。


「はあぁ……最低でも災度(スケール)(ツー)以上の悪霊を浄魂したと……」

「何か不味かったんすかね……?」

「いや、うーん。色々と問題だが、君は気にしなくてもいい。とにかく怪我がなくてよかった。浄魂してくれて本当にありがとう」

「いえいえ!」


 祓ったら大問題かと思ったが、どうやら杞憂だったみたいだ。

 ほっと一息つき、肩を撫でおろす。


「それじゃあ、長々と事情聴取して悪かったね。もう帰っても大丈夫だよ。

 そのカラスは危険性がなくなったっぽいが、一応気を付けるようにね」

「うっす! んじゃお疲れさまでしたー!」


 事情聴取からようやく解放された後、試験官さんに道案内をされて学園の門まで戻ってきた。


「ん、ようやく終わったみたいね」

「美紅ちゃん待たせてごめん!」

「別に構わないわ。色々あったって聞いたから」


 待っていてくれた美紅ちゃんの元まで駆け寄ると、やれやれと言わんばかりに息を吐く。

 外はすっかり暗く、だいぶ長い間待たせてしまったみたいだ。


「先に帰っててもよかったのに」

「もし私が先に帰ったら、果たしてあなたは無事に帰れるのかしら」

「うぐっ……き、厳しいかも、です……」

「そうよね。だから仕方なくよ。仕方なく、ね」

「そんなぁ!?」


 スタスタと歩き出す美紅ちゃんの背中を追い、俺も歩き始める。

 肩を並べて歩きつつ、この後の予定を聞いてみた。


「この後はどうすんだ? 家帰る?」

「受験も無事……無事? まぁ一応無事に終わったのだし、せっかくだから外食でも行くわよ」

「マジですか!? やったぁ~~っ!!」


 約百年ぶりの外食だ。

 昨日美紅ちゃんが買ってきた惣菜をごはんとして食べ、美味すぎて泣いた。

 それ以上の幸せが待っているのか……!?


 わくわくしながら歩き続けること数分、目的の店へと到着する。

 その店はまあ、ごく普通のファミレスだ。百年前で止まっている俺ですら知ってたやつ。


(百年以上このファミレス続いてんのかよ……)


 ファミレスの継続率に驚きつつ、店員さんに案内された席へ移動し、美紅ちゃんとは机を隔てて座った。


「美紅ちゃん。俺は本当に奢られていいのか……?」

「ええ、構わないわよ。まぁまぁ稼いでる方だし、将来利子付きで返してもらうから心配しなくていいわ」

「それは心配しちゃうんだが……。一体いくらまで膨れ上がるんだか」


 将来の不安が一つ増えたが、それをかき消すようにメニュー表を開く。

 キラキラと目を輝かせていると、目の前の美紅ちゃんが口を開いた。


「ごはんを食べ終わったら、私の実家に行くわよ。だから今のうちに呪いの件を話しておくわ」

「あぁ、妹ちゃんのことだな」


 彼女の話に耳を傾け、その呪いについてを詳しく聞いた。


 曰く、妹ちゃんにかけられた呪いは霊力を徐々に吸い取られていくというものらしい。

 現代日本で〝霊力〟は酸素の次に大事であり、幼い子が霊力不足になるのは生死に関わる。


 ゆえに、この呪いは大変危険だとのこと。

 幸いにも妹ちゃんは〝月神からの寵愛〟なるものがあって、霊力量が多いので幾たびも命の危機を乗り切ったらしい。


「霊力が吸われる、ねぇ……吸ってるやつはわからないのか?」

「えぇ。お父様……私の家の現当主も海外出張中だから、まだわかってないのよ」

「そうか……。俺が力になれるかわかんねぇけど、やれることやってみるよ」

「……ふん、少しは期待しておくわ」

「ツンデレめ~」

「誰がツンデレよッ!!」


 早く妹ちゃんの呪いの件を進めるため家へ行きたいが、腹が減っては戦ができぬ。

 まずは腹ごしらえだ!


『ご注文の品が到着したワン♪』

「お、来た来た! ってか浮いてる!? す、すげぇ……」


 宙を浮いているワンちゃんの機械に運ばれて、注文した料理が俺たちのもとに届いた。

 技術進歩は反重力装置開発まで進んでいるのか……。


「おお、美味そうだな!」

「さっさと食べて、家に行くわよ」

「りょーかい!」


 久しぶりに食した外食。

 それはそれはとても美味しかった……!



  #  #  #  #  #



 ファミレスで食事を済ませた後、俺たちは車に乗り込んで揺られること数分。

 美紅ちゃんの家へと到着した。


 そこは家というにはあまりにも広く、屋敷と言った方が正しいほどであった。


「ひっろ! なんじゃこりゃあ!?」

「霹靂家は大昔から活躍している祓い屋家系だし、安部家の傘下だから待遇がいいのよ」

「安部って?」

「〝安倍晴明〟よ。百年前の知識しかないあなたでも知ってるでしょう?」

「あ~~! かの有名な陰陽師のか!」


 平安時代に活躍したと言われている最強の陰陽師、安倍晴明。

 百年後の霊が蔓延る現代では、その安部家が覇権を握っているらしい。


 その安部家と同じように昔から活躍している霹靂家も、同じように強い権力や武力を持っているとのこと。


「霹靂家には〝霹靂家防衛システム〟ってのがあってね、対悪霊の祓魔具のメカとか特装部隊とかがいるのよ。蒼ノ怪(あなた)が顕現したら浄魂されちゃうわね♪」

「嬉々として言わないでくれるかなぁ!? 絶対に正体明かしたらダメじゃんよ!」


 美紅ちゃんの屋敷に上がり、長い長い廊下を歩く。

 桜の絵が描かれた襖、中庭を覗けるガラス窓、日本の風情が詰まっていてとても心地がいい。


 廊下を歩いているだけで家を数軒分か歩いた気がする。

 そんな時、前から着物を着た女性が歩いてきた。そして、俺の前に立ちはだかった。


 黒い髪に、嫌悪感が隠しきれていない鋭い紅い瞳。この人はもしや……。


「誰ですか、霹靂家の敷居をまたいだこのならず者は」

「あ、()()()! この人はその、私の友達の零太郎っていうの。琴弧と雰囲気似てるけど別人で……」

「今、霹靂家が大変なのは重々承知の上ですよね? それが友人を連れてのうのうと……。恥を知りなさい」

「っ……も、申し訳ございません……」


 それだけ吐いて、美紅ちゃんのお母さんはこの場を立ち去った。

 立ち去る際、俺を見定めるようにじろじろと見てきていたが、よそ者はあまり快く思われないのだろう。


「ごめんなさい。お母様、ちょっと前はあんなじゃなかったの」

「ピリピリしてるって言ってたな。それで?」

「多分。昔に琴弧を友人として招いたら、霹靂家一同でパーティーを開いてくれたほどだったんだけれどね」

「それくらい焦ってるのかもな。うん、やっぱり問題は早く解決しちまおうぜ」

「そうね」


 影を落とした顔で頷き、再び足を動かして妹」がいる場所へ向かう。

 渡り廊下で主屋らしきところから移動している際、敷地内にある謎の巨塔が俺の目に映った。


「なぁなぁ美紅ちゃん、あの塔ってなんなんだ?」

「塔の頂上に落ちる雷は雷神様のもので、選ばれし鬼人だと雷が落ちてすごい力が手に入るって感じのやつよ。私は無理だったけれど」

「へー……。ん? 鬼人? えっ、その頭の角ってコスプレのじゃなかったのか!?」

「失礼ね! 正真正銘、頭蓋骨から生えてる鬼の角よ!!」

「触りてぇ!!」

「嫌にきまってんでしょ!? 琴弧にしか触らせないんだから!!」


 彼女曰く、過去に雷神様と契約をした一族なので、霹靂家には極稀に角の生えた鬼人が生まれると。


 たった百年で世界がすごい変化したのか、本来の姿に戻ったのか。

 なんにせよ、百年前じゃ考えられない世界になったものだ。


 彼女の角に熱い視線を送り続けること数分、とある部屋の前まで到着した。


華紅夜(かぐや)、私よ。入っていいかしら」

『んーー!』


 中にいる人物の了承か拒絶かわからない返答を聞き、美紅ちゃんは襖を開ける。


「お姉ちゃん! お帰り!!」

「ただいま、華紅夜。今日は体調大丈夫なの?」

「うん! お姉ちゃんが帰ってきてからよくなったかも!」

「ふふっ、ならよかったわ」


 美紅ちゃんに飛びついてきた愛らしい小さな生命体。

 どうやら彼女こそが、呪いをかけられている美紅ちゃんの妹らしい。

 妹ちゃんには角は生えていないみたいだ。


 俺の存在に気が付くと、美紅ちゃんの背中に隠れてこちらの様子を伺った。


「えっと、琴弧おねえちゃん……じゃない?」

「初めまして。俺は訳アリで琴弧ちゃんの身体を借りてる亡霊、青天目零太郎ってもんだよ。ちなみに男だぜ!」

「そーなんだ。ええっと、霹靂華紅夜、ですっ! おねえちゃんかおにいちゃん、どっちで呼べば……!」

「わかりやすく零とかでも大丈夫だぞ」

「じゃあそーする。よろしくおねがいします、レイさん!」


 うーーん、天使かな?

 俺は決してロリコンではないが、やはり小さい子の笑顔は特別な力がある気がした。

 いずれ万病に効くようになるだろう。


「華紅夜の体調よさそうだし、約束してたチョコ作りはできそうね」

「チョコ作りするのか?」

「ええ。三日後はバレンタインデーだし、家族みんなにいつも迷惑かけちゃってるからお礼したいって言いだしたのよ」

「かぐやちゃん……なんていい子なんだ……ッ! 俺も応援するぜ!!」

「いや、あんたも手伝うのよ」

「えっ」


 俺みたいな男が女子たちのチョコ作りに参加していいのだろうか。

 そんな疑問が生じたが、鏡に映る今の俺は美少女である。


 これなら合法……なのか?

 というか、呪いの件はいいのだろうか。


「華紅夜の呪いについてはまた明日にでも話すわ。この子、ずっと前から楽しみにしてたから成功させてあげたいの」

「そういうことならお安い御用」


 こそっと美紅ちゃんからの耳打ちがあった。

 そういうことならば、全力で成功させなければならないな。


 バレンタインの二月十四日。

 あの厳格そうな母親も、かぐやちゃんも、美紅ちゃんも……みんなで幸せになれたらいいな。


 ……そんな俺の思いとは裏腹に、二月十四日に祓い屋界に激震が走る大事件が発生した。



 ――記録・二月十四日、午前九時四十分。

 霹靂邸敷地内部において、災度(スケール)(ゼロ)()()()()()の完全権限および暴走を確認。


 霹靂家血縁者四名、重度低体温症により重体。

 防衛システム、破損率百パーセント。修復不可。

 霹靂家特装部隊、壊滅。

 負傷者数、百三十五名。うち死者数、十八名。 


 浄魂者、第弐等級(だいにとうきゅう)()()()()

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ