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第17話 帝都祓魔学苑入学試験④

 俺以外の受験生が鉄塊にさせられている。


 ナンパくんから聞いていたのが正しいなら、すぐにでも元の場所に転移するはず。

 しかも術式を持たない災度(スケール)(フォー)以下しかいないはず……。


 話をまとめるとこれはつまり、異常事態ッ!


「鉄塊の中にまだ魂があるっぽいし、元凶をぶっ祓えば治りそうだな」


 鉄塊の中にはまだ暖かいものが存在していた。

 魂があるということは元に戻る可能性が十分にあるということだ。


 とっとと見つけ出してやろうじゃんよ。

 ポキポキと指を鳴らしながら意気込んだのだが、その必要はなかったみたいだ。


「……そっちからお出迎えがあって助かったぜ。探す手間ァ省けた」


 ドッゴォオン!!

 空から何かが降ってきて、砂煙を纏いながら巨大な体躯の持ち主がぬるりと姿を現す。


『カァ! カァ! (カラス)ハ、考エマシタ。人間、キラキラ、シテナイ。ダカラ、キラキラサセル。カァア!!』

「カラスの悪霊!? 動物霊ってやつなのか?」


 光沢のある濡れ羽色の体。瞳はゼンマイで、動く度にガチャガチャ鳴っている

 機械仕掛けのカラス? 車くらいのサイズだが、人以外の悪霊もいるのな。


 なんにせよ、コイツが受験生を鉄塊に変えた元凶らしい。


 カラスは光るものが好きだ。

 だから人を鈍く輝く鉄塊に変えた、ということなのだろう。


「さ~~てと。そんじゃあみんなを元に戻してもらうぞ。【天蒼滅(てんそうめつ)】」


 初っ端から術式を発動させ、蒼い氷炎を纏わせた。

 いかんせん相手も術式持ちの悪霊。出し惜しみをしていたら足元をすくわれる。


『カアアア!!』

「うおっと!」


 カラスの体から丸鋸が飛び出してきて、俺に突進してきた。

 それをひょいと身軽に避ける。片手を手刀の形にして、横一閃に薙ぐ!


「《祇龍々(シルル)》!」


 蒼く煌めく一閃が放たれ、カラスの片翼がズバッと切断された。


 この技、《祇龍々(シルル)》は見ての通り、斬撃を飛ばす技だ。

 大気中の水分を凍らせ、なんやかんやでそれを押し出して斬撃を飛ばすというものである。


『ガッ!? グヴヴ……ッ!』

「チッ。考えたての技だから狙いが定まんねぇな」


 首と身体を真っ二つにするはずだったが、指向性が定まらなかった。

 努力がまだまだ足りない証拠だな。


『ギィエエエエエエエエエエエエッッ!!!』

「うっわ、マジかよ!?」


 切断した羽は元通り……どころか、前よりも禍々しくメカメカしい物へと変貌する。

 生えてきた翼は赤白かったが、時間経過とともに濡れ羽色となった。


 そして、咆哮と共に全方位に釘を飛ばしてくる。


 釘の雨を避け、地面に手を当てて氷の壁を生成して防いだ。

 ただ、一本だけ釘が片腕に刺さってしまった。


(金属を操る術式か? いや、それとも……)


 氷の壁で一息ついていたその時、刺さった釘を抜いた部分から()()()()()()()()()


「――ッ!? なんだ、これ!!」


 痛みで顔が歪み、ボタボタと血が地面に滴り落ちる。

 なるほど、なんとなくわかった。


 奴の術式、それは()()()()()()()()()()()()()()()()かもしれない!


 体内から放出した霊力で失った片翼を再生。

 釘から俺の腕に注ぎ込まれた霊力で刃の生成。


 この俺の仮説が正しいなら、他の受験生たちは体内に霊力をたっぷり注がれて鉄塊にさせられたのだろう。


「いってェ~……。ったく、琴弧ちゃんの身体傷つけたくねぇってのに!」


 刀を腕から引き抜き、傷口を氷炎で凍らせて止血する。

 幸いにも、中でアイツの霊力が増幅とかにはならないらしいから鉄塊化は免れた。


 それに、いつまでも隠れていられるわけじゃなさそうだ!


 ジョキッ。


「っぶな!!」


 巨大なハサミが俺の首元で生成されており、危うく剪断されるところだった。

 同じところでとどまっていると、カラスの霊力が流れ込んできて武器が大気中から生成されてしまう。


 移動しつつ作戦を練ろう。


『カァアアーーッ!!』

「うおっ! っとと、ほいっ!」


 全身に霊力を巡らせて、カラスの身体から飛んでくる鉄骨や剃刀を避けながら走り回った。

 しばらくそれを続けていると、カラスの肉体が赤白くなって蒸気を排出し始める。


 なるほど。

 術式使用によって熱が生じる。なのでそれを放熱する必要がある、と。


 俺の術式は絶対零度の氷炎。

 放熱が必要なあのカラスに対してこれは、氷炎は熱を逃がしてしまうので不利……。


 いや、もしかしたらアレができるかもしれないな。

 試してみるか!


「へいへいカラスさんよぉ! もう撃つの限界か~? 俺をキラキラさせてぇんだろ? もっとジャンジャン撃ってこいよ!!」

『グヴヴ……! ガアアアア!!』

(そうだ。オーバーヒートするくらいもっと撃ってこい!)


 俺の煽りが効いたのか、飛来する金属の弾幕量が多くなった。

 それだけでなく、いきなり目の前からナイフが現れたり、頭上からギロチンが落ちてきたりする。


 事前に霊力を滞留させておいて、俺が通る瞬間に金属に変換しているのだろう。


「ッ! クッソ! かすり傷でも流し込まれる!」

『逃ゲテ、バカリ! カアア!!』


 飛んできた金属が肌に掠っただけで、体内から刃物が飛び出してきた。

 早く……早くオーバーヒートしてくれ!


『カッ……!!』

「来た!」


 弾幕がやみ、カラスの金属の全身が茹でガニのように真っ赤に染まっている。

 蒸気を排出し始めるその前に、氷で〆る!


「【天蒼滅(てんそうめつ)】……《汪悼(オウトウ)》!!」

『カァッ!?』


 周囲一帯を氷漬けにし、一面銀世界へと変えた。

 気温は氷点下を大きく下回る。これでは奴の排熱を助けているだろう。だが、これでいい!


 ピシッ……ピシッ、バキンッ!!

 氷が割れる音……ではない。


『烏ノ、身体ガ……!!』

「カラスは知らねぇかァ!? 熱処理中の高温の金属、それを超低温で冷やすと金属が割れる! 〝焼き割れ〟だ!!」


 カラスの金属の身体はひび割れ、一瞬にしてボロボロになった。

 だが、まだ祓えていない。それもそのはず、割れた中に核のようなものが見えた。

 それを壊さない限り、奴は祓えないだろう。


 煙突を足場にし、一直線にカラス目掛けてとびかかった。


(俺の斬撃技はまだ指向性がうまく定まらない。だが、ゼロ距離なら問題ない!)


 片手を再び手刀の形にする。

 カラスが金属を生成しようと蠢くが、氷漬けにされて上手くできていない。

 しかももう、遅い!


「――《祇龍々(シルル)》・一閃!!」

『ガ――』


 カラスの身体に横一線の亀裂が生じ、蒼い炎とともに崩壊を始める。

 勝てた。だが、油断してたら俺も鉄塊にされてたかもしれない。


「……あれ、ボク何してたっけ……?」

「カラスに襲われてた気が?」

「も、戻ってる! やったー!」

「もう死んじゃったかと思った~~!!」


 鉄塊にされた受験生たちが元に戻り始め、人の声が聞こえてきた。

 これで一件落着! ……かと思ったのだが……。


「お前、今祓ったよな……?」

『カァ! カァ!』


 崩壊したカラスの身体の中から、手のリサイズの小さなカラスが出てきたのだ。

 先ほどのような邪気はなくなっていたが、悪霊じゃなくなったのだろうか?


 そーっと手を差し伸べてみると、カラスは首をかしげながら乗ってきた。

 瞬間、俺の脳内に記憶が流れ込んでくる。

 琴弧ちゃんの術式の、魂から記憶を読み取るものが発動したようだ。


〈ちっこいカラス? お前も一人なのか? 羽ボロボロだけどいじめられてんのかお前〉


 顔は良く見えないが、記憶の中の人間がカラスに語り掛けている。


〈ぼっち同士大変だな。ほれ、唐揚げやんよ。商店街のばあちゃんから貰ったんだ〉


 あれ、待ってくれ。

 この人間ってもしかして……。


〈イイコトしたら気分がいいぜ! そんじゃあなちび助カラス。またどっかで会おうぜ。俺ん名前は――()()()()()()()


 記憶の中から意識が戻ってくる。

 コイツは、俺が生前唐揚げをあげたカラス……らしい。


 正直言って思い出せない。けど、コイツももう俺のことは分からないんじゃないのか?

 見た目も変わったし、百年の月日が流れたし……。


『レ……零太郎。マタ、会エタ』

「っ!? お、お前、俺んことわかるのか……?」

『零太郎、好キ。魂、好キナ形ダッタ。カラ、ワカッタ』

「そうかい……。にしてもなんで人なんか襲ってたんだよお前」

『イイコトシタラ、マタ会エルト思ッタ。死ンデカラ、人、ズット助ケテタ。ソコカラ記憶、ナイ』


 人を助けるため、死んで動物霊になってから悪霊を祓い続けていたのか。

 だが悪霊の霊力は邪気が多いので、使用しないと自分が悪霊になる。


 悪霊を祓い続け、邪気が蓄積して、悪霊化してしまったのだろう。


「……ま、悪霊から元に戻せたし、受験生全員無事っぽいしよかったな」


 こいつを祓えば、浄魂試験は確実に合格できるだろう。

 それくらい強かった霊だ。

 だけれど……。


「ちび助カラス、百年越しの再会だ。俺と一緒に来るか?」

『……! カァ!!』


 カラスは元気よく鳴き、俺の肩に飛び乗ってきた。

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