第16話 帝都祓魔学苑入学試験③
二次試験が終わった後。、再び場所を移して三次試験会場へと足を運ばせた。
三次試験の内容は浄魂。実際に悪霊を祓い、冷静さや実力、判断力を確かめる試験だという。
用意された結界内にいる悪霊をどんどん祓い、ポイントを稼ぐというものだ。
浄魂は複数人で行うため、チームワークも必要になるとのこと。
「みんなよろしく~!」
同じ結界内で浄魂を行うメンバーに対して、俺は気さくに挨拶をした。
メンバーはさっと顔を背け、「……っす」と小さくバツが悪そうに返事をしてくる。
おかしい。
今の俺の容姿は美少女の琴弧ちゃんだ。こんなにも避けられるなんておかしいはず……。
首をかしげていると、一人の男が俺に声をかけてくる。
ただしそれは、あまり嬉しいものではなかった。
「やっ! 君、すごい可愛いね。同じ受験生同士頑張ろう! ところで連絡先交換しない?」
「唐突だなおい。俺ぁ出会いを求めてきたわけじゃねぇんだぞ。ナンパ目的ならけぇれ!」
金髪で、手首にチャラチャラとしたブレスレット……と思いきや数珠を付けている男だ。
チームワークが大事と言われたが、ナンパ目的に受験しに来た奴と仲良くなれる気がしない。
ぐいぐい来るナンパくんだが、誰かと付き合うことなんかは天地がひっくり返ってもない。
琴弧ちゃんの告白にちゃんと答えると誓ったからな。
「ねぇちょっとは仲良くしようよ~」
「おい。軽々しく俺の身体に触ろうとすんな」
ナンパくんが俺の身体に触れようとしたので、パシッと手を叩いて阻止した。
彼以外の受験生はなぜかハラハラしながら俺たちを見守っている。
「えっと? 恥ずかしがり屋さんなのかな! あははっ!」
「悪いがこの身体は俺一人のもんじゃないんでな。気安く触れてくれるなよ」
俺の中にいる琴弧ちゃんから許可を得て貸してもらっている身体だ。
だから、他の人に勝手に許可なしに触れられるのは避けたい。
よく触ってくる美紅ちゃんは琴弧ちゃんの友人だし、何より怖いからなぁ……。
「成程、彼氏持ちだったか……これは申し訳ない。お幸せに! そして受験頑張って、彼氏君に良い報告をしよう!!」
「お、おう? まあお互い頑張ろうぜ」
案外悪い奴ではないのかもしれないな。
心の中で呟きつつ、俺は三次試験が始まるのを待つ。
その間、そのナンパくんから色々お話を聞いてみることに。
「なぁなぁナンパくん。浄魂ってよぉ、実際に悪霊と戦うわけだろ? 受験生がそれしたら危険じゃないのか?」
「キケンだね。けど、開始前に配られる護符で危ない目に遭いそうになったら強制帰還させられるのさ」
「ほ~ん。結構ちゃんとしてるんだな!」
「災度も最高肆だから安心しなよ。もし危険な目に愛想になったらボクがなんとかするよっ!」
「んぉー。さんきゅーな」
そして数分後、準備が整ったためようやく開始するらしい。
「では受験生の皆様方はそれぞれこの〝転移の護符〟を受け取ってください。霊力量や実技から統計を取り、良いバランスでのメンバーにいたしました」
この配られた護符を使用することで、三次試験の悪霊がいる場所へと転移する。
そこで悪霊を倒して逝けと言うことらしい。
俺の転移先は〝製鉄所跡〟だ。
「ではただいまより、三次試験〝浄魂〟を開始いたします。それぞれ護符に霊力を流して転移してください」
試験官の合図とともに、この場にいた受験生たちが次々と姿を消して行く。
俺も後れを取らぬよう、護符に霊力を流し込んで転移をした。
「……お? なんか、見覚えがあるようなないような」
転移先の製鉄所跡は錆びだらけで寂びだらけ。鉄の匂いが鼻につく。
四方八方から聞こえてくるカラスの鳴き声が、寂寥感を増幅させていた。
百年前で止まっているからか、どこか懐かしいような感覚がする。
『いいいぃぃいいいいぃいぃ』
『ニンゲン……生きたニンゲン……喰ウ』
『ふふ……ふふふふ、きひひひひひっ!!』
既に複数体の悪霊が目視で確認できるほど数が多い。
どうやら俺がいた商店街とは違って、夜じゃなくても現れるみたいだ。
チームワークが協力で、単独の時はむやみやたらに行動しない方が良い。
それくらいわかっているのだが、悪霊たちの目の前に転移したからバレてるんだよ。
『いああおおおおおおおお!!』
「流石に戦わざるを得ねぇよな。よっ!」
『ガッ――』
襲い掛かってきた悪霊を、ただ霊力を込めた拳で殴り祓った。
術式すら使う必要ないし、商店街のやつらと比べたらだいぶ弱いな。
堂々と未知のど真ん中を闊歩し、悪霊を祓いながら皆を探し始めた。
しかし人の気配はなく、悪霊と大きな鉄塊だけだ。
「うーん、いねぇな! みんなどこいるんだよ。……にしても、なんなんだこの鉄塊は?」
俺と同じくらいの大きさをした、鈍色の樹木のような鉄塊。
なんだか、謎の鉄塊の数がさっきよりも増えている気がする。
カラスがうるさい中、まじまじと観察をした。
そんな時、妙なことに気が付く。
「あれ、これ……数珠?」
枝のように伸びている部分に、数珠に見えるものがあった。
ジッとそれを見つめる。逡巡の末に目を見開いて、試験開始前のナンパくんが脳裏をよぎった。
そして、この鉄塊の正体にようやく気が付く。
「これ……――人間だ」
黒いカラスの群れが空を塗りつぶす中、ポツリと呟いた。
# # # # #
「試験場Dにいる受験生ほぼ全員の生体反応が消失しただと!? どういうことだ!!」
同時刻、学園では騒ぎになっていた。
試験場D。零太郎たちがいる場所のことである。
「転移の護符はどうした!」
「転移の護符は〝瀕死の人間を転移させる効果〟があります。おそらく、《《人間じゃないものへ変化させられた》》かと……」
「試験場にいるのは術式を持たない災度・肆以下のはず……だというのに!」
人間を人間以外に変化させる。
明らかに術式を所持しているということだった。
「事前に安全確認をしていましたが、異常は見つかっていませんでした」
「となると、異常霊の可能性が高いな」
〝異常霊〟。
何かしらの要因で霊力量を誤認させることが可能な例のことだ。
零太郎も自分で霊力量を抑え込み隠すことげできるため、これに当てはまる。
「どうやらあちらにいる試験官もやられていることから、災度は弐以上。今すぐに祓い屋を向かわせるのだ!!」
「はいっ!」




