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ステルスマーケティング



「おはよー!」



「おはよー! ねぇねぇ、朝日! ちょっと聞きたいことあるんだけどさー」



 ……やっぱり来たか。

 昨日の時点である程度予測はしていた。みんなの聞きたいことというのは、やはりアノ(・・)ことなのだろう……

 案の定、近寄ってきた友達は一斉にスマホの画面を見せてくる。

 そこには、接客をしている私の姿や、お客さんの姿が映った画像が映し出されていた。



「朝日の家ってパン屋さんだったんだねぇー! 全然知らなかった! なんで言ってくれなかったのよ!?」



「は、はははー、いや、だってちょっと恥ずかしいしさー」



「えーっ! そんなこと無いよ!」



 まあ、本当の所、言わなかったのには別の理由がある。

 私はそれで、昔嫌な思いをしたことがあるから、言いたくなかったのだ。



「……それでさ、これって本当なの?」



 これ、とはバストアップ効果のことだろう。

 しかし、そんなのは私が聞きたいくらいだった。



「いやぁー、どうなんだろう? 多分ウチはそんなつもりで作ってるワケじゃないけど……」



「でも朝日は胸大きいじゃん!? それって家で自分とこのパン食べてるからなんでしょ?」



 確かに食べているけど、それとこれとは恐らく関係ないハズだ。

 ……いや、完全に無いとは言えないかもしれないけど。



「ホラ、コレって雨宮さんでしょ? これって、雨宮さんの胸が大きい理由も、朝日ん所のパン食べてるからってことなんじゃないの!?」



「あはは……、どうだろうね……」



 当然、これも勘違いである。

 何故ならば、神山はウチのパンを食べて、「あんなに美味いパンを食べたのは初めて」と言っていた。

 そのことから、雨宮さんがウチのパンを口にしたのは初めてだったんじゃないかと推測できる。

 雨宮さんの胸が大きいのはもっと前からだし、ウチのパンが理由ってことはまずあり得ない。



「この人も胸大きい……」



 みんなは、投稿されたSNSの写真を次々に開いては感嘆の声を漏らしている。

 私はそんな中、愛想笑いを浮かべながら、ほとぼりが冷めるのを待つしか無かった。





 ◇





「で! コレはどういうことよ!?」



 次の休み時間、私は友達に声を掛けられる前に、ダッシュで神山を外に連れ出した。

 ちょっと大胆な行動だったかもしれないけど、それを気にしていたらまた機を逃してしまいそうだったからだ。



「コレ、とは?」



「とぼけんな! このSNSの投稿だよ! コレ、絶対神山が絡んでるでしょ!?」



 SNSに投稿された写真には雨宮さんや山田さん、それに杉田さんのものもあった。

 他にも写真はあったし、投稿者もバラバラだったけど、私はすぐに、「これは神山の仕業だ!」と思った。

 彼らの部活動は、何やら慈善事業のようなことをしているらしいので、恐らくはその活動でこんなことをしたに違いない。



「……ふむ。確かにこの写真は俺が提供したものだね。しかし安心してくれ。ちゃんと各位に許可は取ってる」



「許可ぁ? 嘘でしょ! 他にもいっぱい女の人映ってるじゃん!」



 写真に写っているのは学生だけでは無かった。

 やけに色気のある女性や、落ち着いた大人の女性など、普通に考えて神山の知り合いであるなどとは思えなかった。



「ああ、あの人たちはだね……、津田さんは如月君を知っているかい?」



「如月って……、1-Cの……?」



「そうだ。ほら、実はこの女性、如月君の母上なんだよ」



 そう言って神山が見せてきたのは、件のSNSの画像である。



「……嘘、若すぎない?」



 SNSに投稿されていた、色っぽい格好をした女性の写真……

 これが如月の母親と言われても、とても信じることができなかった。

 こんな若くてキレイな女性に、私達と同じ年齢の子供がいるなんて思えるワケがない。



「驚くのも無理はないだろうけど、事実だよ。相当若い頃に産んだんだろうね……。さぞ苦労したことだろう……、っとまあその話は置いておくとしようか。それで、この如月君の母上なんだけど、仕事がホステスでね。そのツテを使わせて貰ったんだ」



 そういことか……

 それであれば、やけに魅力的な女性が多いのも納得できる。

 ホステスが厳密にどんな商売かはわからないけど、少なくとも魅力の無い女性では難しい商売であることは想像できる。



「そう……、って! そういう話じゃないでしょ!? 私が言いたいのは、なんでこんなことをするのかってこと!」



 危ない、危ない……

 危うく話の流れを逸らされる所であった……



「それは前に言ったじゃないか、宣伝させて貰う、と」



「宣伝って……、そんなレベルじゃないでしょコレ!」



「宣伝には違いないだろう? まあ、ステマと言われても仕方ないやり方ではあるが……」



 ステ……?

 なんのことだろう?



「よ、良くわからないけど、コレって悪いことなんじゃないの!? しかも、バストアップ効果とか……、これって嘘でしょ?」



「いや、別に騙しているワケではいし、悪いことではないよ。それに、バストアップ効果に関しても、事実だよ?」



「……へ?」



 神山の発言に対し、私は物凄く間抜けな声を出してしまう。

 バストアップ効果が、嘘じゃない……?

 一体、どういうこと……?






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