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調査報告



 麗美と静子の調査によると、どうやら谷中 浩史(やなか ひろし)は完全に被害者であるらしい事がわかった。



 中学二年の頃、谷中 浩史(やなか ひろし)沢井 和也(さわい かずや)は普通の友人関係にあったらしい。

 引っ込み思案で暗い性格の谷中に対し、沢井は健康的で明るい性格とほとんど正反対の存在なのだが、存外気があったようだ。

 谷中は性格が災いしてか、他に友達もいなかった為、二人の関係は周囲にも良好に見えていたそうだ。

 谷中にとっては、沢井の存在が学園生活の数少ない楽しみになっていたと思われる。


 しかし、その楽しい学園生活は突如終わりを迎えた。

 沢井と友達になって丁度半年経った二年生の中頃、谷中は沢井に襲われたのである。


 この辺の話は、沢井から聞いた話とほぼ一致している。

 沢井によると、友達として過ごした半年間は、谷中の警戒心を解くための準備期間であったらしい。

 そして十分に警戒心の解けた頃、沢井は計画を実行に移した。



「クソッ…、胸糞悪ぃぜ…」



 尾田君は、正義部のアジトに設置されたベッドでゴロリと寝転がり、悪態をついている。

 そんな彼を横目に、俺と静子、シンヤ君は、麗美に注いでもらったお茶を飲んで一息つく。


 沢井への聴取は、奇しくも田中 純也(たなか じゅんや)から情報を聞き出した場所と同じカラオケ店で行われた。

 どうにもあの店はセキィリティが緩く、秘め事にはもってこいの空間として学生の中ではそれなりに有名らしい。

 ニートと化していた沢井が良く外の店に出てくる気になったと思ったが、その理由はシンヤ君に「話が聞けるまで、アイツは毎日来るぜ?」と脅されたかららしい。

 どうやらその効果は極めて高かったらしく、それが切っ掛けで彼はニート生活から脱することが出来たそうだ。

 あるいは美談にでもなりそうな話だが、残念ながら沢井は正真正銘のクズであったらしく、そうはならなかった。

 話を聞くうちにブチ切れ寸前となった尾田君に対し、彼は盛大に粗相をし、再びニート生活に逆戻りしたそうだ。

 俺はその時、隣の部屋で静子とカラオケに興じていたいたのだが、後になってその現場を見て申し訳ない気分になった。



「カラオケ、楽しかったです」



 不機嫌そうな尾田君とは対象的に、上機嫌な静子。

 気持ちはわかるが、空気は読んでほしい…


 ちなみに、俺達はもちろん単純に遊んでいたワケでは無い。

 魔術で聴取のバックアップを行うため、わざわざ隣の部屋に入室したのである。

 …静子のささやかな願いを叶える目的があったのは、まあ否定しないが。


 そんな俺と静子の様子を羨ましそうに見ながらも、シンヤ君が聴取の報告を始める。

 シンヤくんの報告は拙く、内容が前後したりと中々に難解なものであった。

 俺はその内容から情報を整理し、頭の中で簡単にダイジェスト化していく。


 ・沢井は谷中をレイプした

 ・その時の写真を脅しのネタとし、暫くの間肉体関係を続けた

 ・中学三年になった直後、沢井に彼女ができる

 ・沢井はどうやら本物のバイ・セクシャルであるらしい

 ・彼女との付き合いが優先され、谷中との肉体関係はほぼ無くなった

 ・一学期の終わり頃、谷中と行為中の画像が学内にばら撒かれる

 ・ばら撒いた犯人は速水桐花(はやみとうか)だと判明する


 この画像がバラ撒かれたという『事件』により、三人は暫くの間謹慎を命じられた。

 しかし、謹慎が明けても三人が登校することは無く、そのまま不登校になってしまったそうだ。

 ただ、何故かその後、速水さんだけが進学を果たしている。


 確かに、尾田君が言うように胸糞悪い話だと思う。

 特に沢井に事に関しては、同じ男として相当な嫌悪感を抱いた。

 …まあ、レイプ行為は男だろうが女だろうが関係なく最低の行為だとは思うが。



「…これがその時の写真らしいんだが、見るか?」



 シンヤ君の報告を聞いて思い出したのか、尾田君がポケットに突っ込んでいたらしい封筒を差し出してくる。



「…尾田君達は、見たのかい?」



「見てねぇよ…。見たら、またあの野郎をぶん殴りたくなるだろうからな…」



「そうか…」



 俺は差し出された封筒を受取り、思わず渋い顔をしてしまう。

 正直、俺だって見たくはない。

 しかし、この中には彼らが引きこもる事になった事件、その切っ掛けとなる画像も含んでいるらしい。

 見ない訳には、いかないだろう…



「私が確認しましょうか?」



 麗美がそう申し出てきたが、どうにも複雑な気分になる。

 女子に見せるべきではないという気持ち以上に、麗美の目が心なしかルンルンとしていたからである。



「…麗美、まさか見たいだけ、って事はないよな?」



「や、やですねマスター、そんな事あるわけ無いじゃないですか~」



 説得力の欠片も無い返答が返ってき、思わず脱力する。

 とはいえ、何かを見つける為には、見る者は多い方が良いだろう。

 あまり気は進まないが、協力はお願いすることにしよう…



「…わかった。ただ、確認は俺もするから、何か見つけたら教えてくれ」



「はい! もちろんですマスター!」



「静子も、すまないが解析を頼む。…辛かったら言ってくれ」



「大丈夫です師匠。慣れてますので」



 一体何に慣れてるのか、思わず突っ込みそうになるのをギリギリで堪える。

 聞いても複雑な気分にしかならないからな…



 こうして、俺達は手にれた情報を元手に、速水 桐花(はやみ とうか)の世界を切り崩す手筈を整えていくのであった。





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