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正義の味方達①





「正義の…、味方…? …! ああ、君はあの時如月達に絡まれていた…。じゃあ、もしかして後ろの金髪の女の子があの時の? …これは驚いたな、後ろ姿から綺麗な娘かなとは思ってたけど、ここまで上物とはね…」



 まるで品定めでもするかのようなイヤらしい視線を受け、一重が少しビクつく。

 その視線を遮るように、俺は一重の前に立つ。



「あまりウチの一重を変な目で見ないでくれるかな? 不破 卓(ふわすぐる)先輩?」



 俺が名前を呼ぶと、イヤらしい視線は引っ込み、代わりに鋭い視線を俺に向けてくる。



「何故、俺の名前を?」



「そんなの、調べたからに決まっているでしょう?」



 自分の名が知られているのが、そんなに意外だったのだろうか?

 別に、こっちは大した調査をしていないんだけどなぁ…

 だってコイツ…、如月タクヤの隣のクラスだし…



「…ふん、まあいい。お前達もいずれ、俺の配下に加える予定だったんだ。こっちの計画が遅れた分、お前達を前倒しで配下にするのもアリかもな」



 それを聞いて、尾田君がペッ、と唾を吐き捨てる。



「こんだけクソみてぇな事しておいて、配下だ? 笑わせんじゃねぇぞ…?」



 …あの、尾田君? 悪態をつきたくなる君の気持ちはわかるけど、ここで唾を吐くのはやめてくれないかな?

 乱戦になるとこっちが踏む可能性もあるし、最悪、手や体に…、いや、考えないでおこう…



「尾田君? 汚いので唾を吐かないでくれませんか?」



 麗美も同じ事を考えたのか、嫌悪感丸出しの顔で尾田君の行動に諫める。



「す、すまん…」



 尾田君は慌てて靴底で吐いた唾を消そうとするが、コンクリートの地面ではそれが引き伸ばされるだけであった。

 うん、きちゃないね…



「緊張感の無い人達だねぇ…? 今の状況、わかってる?」



 そう言って男、不破 卓は懐からナイフを取り出し、晶子さんの頬にペシペシと当てる。

 緊張感の走る場面なのだろうが、晶子さんの白くて豊満な胸がさらけ出されている為、若干目のやり場に困る。



「てめぇ…」



「実はさ、これから俺達は彼女が屈服するまで輪姦(まわ)してやろうと思っていたんだけど、中々精神的にタフみたいでね…。まあ強がりの類だとは思うけど、少し心配だからやり方を変えてみようと思うんだ。…さて、質問です。彼女は顔に傷をつけられて、果たして今の仕事を続けられるでしょうか?」



 ……ふむ。

 中々の悪党だね、不破卓。

 チラリと尾田君を見てみると、悔しさと怒りから顔を真っ赤に染めていた。

 少なくとも、彼のやり方は尾田君のような人間には効果覿面のようだ。

 ただ、火に油を注ぐやり方はあまりお勧めできない。

 こういうやり口は悪党でも3流…

 少なくとも、プロなら絶対にやらないやり方である。



「み、みんな、こんなおばさんの事は放っておいていいから、逃げなさい?」



 晶子さんが細々とした声を、振り絞る様にして俺達に声をかける。

 この状況で未だに人を気遣えるなんて、本当に晶子さんは大したものだと思う。



「貴方は黙っていればいいんです、よ!」



「っ…!」



 不破が晶子さんの腹に蹴りを入れる。



 …ああ、いかんな。

 これは、もう駄目だ…

 理性で押さえつけていた怒りの感情が、溢れ出して徐々に俺の心を満たしていく。

 こんなに腹立たしいのは久しぶりだ…、こいつには、地獄を見て貰う事にしよう…



「マスター!」



「…ああ、晶子さんの状態がかなり悪い。早々に決めるぞ、麗奈」



 晶子さんの唇が、青紫色に変色している。

 恐らくはチアノーゼ…

 しかもその症状は、不破に蹴られる前から出ていた。

 腹部への攻撃も一度目じゃないのだろう。

 下手をすれば、内臓に障害が出ているかもしれない。



「ん? 何? 何かやる気かな? 言っておくけど、あのテクノブレイクってふざけた名前の技は効かないと思うよ? 一応対策として、全員にお守りを持たせているからね」



 テクノブレイクが知られていること自体に驚きは無い。

 何らかの対策が練られている事も、織り込み済である。



「知っているよ。お前達が少し魔術かじっている事も、儀式で非道な事をやっているのも、全部知っているさ」



「っ!?」



「一重!!」



 こうなる事は想定済だった。

 だから、あらかじめ合図は取り決めてあった。

 俺が指さす方向、不破に向かって、一重は一気に駆け出す。

 その速度は尋常では無く、不破は呆けた様子でそれを見ていた。



「へっ?」




 不破が間抜けな声を上げた瞬間、一重のつま先が奴の腹に突き刺さっていた。



「ぐぺっ!?」



 良くわからない声を上げながら吹っ飛ぶ不破。

 持っていたナイフが吹き飛び、如月シンヤの頬をかすめる。

 あぶな!? 麗美の奴、ちゃんとナイフの軌道を制御したんだろうな!?

 確認している暇はない、俺達は各自、既に行動を開始している。


 尾田君は晶子さん、麗美は如月シンヤ、そして俺は如月タクヤの確保に成功する。

 一重のあまりの速さに驚いたのか、周りの男たちは俺達の行動に全く反応できていなかった。



「よし、とりあえず人質の確保は完了。一重! 10秒以内に可能な限り倒してくれ!」



「任せて!」



 一重は応えると同時に、再び凄まじい速度で加速。

 取り囲んでいた男達を次々に倒していく。



「う、嘘だろ!? 速過ぎゃっ!?」



 放心状態から立ち直った者の中には、一重の速度になんとか反応してみせる者もいた。

 しかし、今の一重は、時速にして100キロ近いスピードで駆け回っているのである。

 人間サイズのモノがそんな速度で迫ってくれば、反応できたとしても迂闊に手を出せるワケもなく…



「グハッ!」



 一重の蹴りの餌食となるのであった。



「ハァ…、ハァ…、ご、めんなさい良助、もう、限界…」



 10人以上いた男達の約半分を倒しきった所で、一重の加速が止まる。

 大体7秒弱、か…

 実戦では、このくらいが限界なのかもしれない。



「いや、良くやった一重。一重のお陰でほぼ決着はついたよ」



 男たちは、まだ半数程残っている。

 しかし、一重の速度に恐れをなしたのか、全員、不破が転がっている辺りまで逃げ出していた。



「そう、良かった…」



 グラリと倒れそうになる一重を、駆け寄ってギリギリで抱きとめる。


 俺はそのまま一重を抱えて、尾田君と麗美に合流する。

 如月タクヤは無事だが、弟の方と晶子さんは結構ダメージが深そうだ。

 すぐにでも治療を…



「っざっけんじゃねぇぞぉ!!!! てめぇらぁぁぁぁ!!!!?」



 おいおい…

 急所を外したとはいえ、100キロ近い速度からの蹴り喰らって立つとは…



 フロアの奥、仲間の手も借りずに立ち上がった不破は、よだれをまき散らしながら叫ぶ。

 その口調には先程までの余裕ぶった様子は一切なく、瞳は憎悪の色に染まっていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] アク○ルフォームやク○ックアップやアク○ルトラ○アルに迫らんばかりの超スピード!! こういう戦法、好き( ´∀` )
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