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2魂――もう1人の処理屋

「お~し、じゃお前らの街の魂密度チェックだ」

「「…………」」


魂処理を始めて3日、恒例となった昼休みの屋上扉前階段には宙に浮いた金髪イケメンが待っていた。


「いや~、この国も制服文化は良いよなっ。他の国じゃ皆私服で統一された色気ってもんがねえ」


(自称神の台詞かよ)


「小僧、聞こえてるぞ。てか心読めるぞ」


(ん?と言うことは態々口に出さなくていいから便利?)


「いやいやいや!何生き物として欠かせない物を破棄しようとしてんだよっ!」


(別に言葉以外に正確に意思が伝わるものがあるならそれでも良いんじゃね?)


「通じるのお前から俺にだけだからな!他の奴には一切通じねえから!」


(使えねえ)


「こんの糞ガキッ!」


「そこまでだ」


これまで事の成り行きを見守っていた燈華が2人を止めた。


「何か報告があったのだろう。速く聞かせてくれ」

「……ちっ、糞ガキにこれ以上構ってられねえか。

 今日はお前らの街の魂の密度を教えに来んだよ。基準値としては30%くらいが適正だと思っとけ。で、この街の魂密度は……50%くらいだな」


 何かを考えるように目を閉じてから言われた数値は無視できるものではなかった。だからと言って具体的に何をすれば良いのかは分からない2人だったが。


「この前言ってた出入りが制限された村の魂密度は?」

「へぇ、女の方は結構頭回るみてえだな。あそこは……80%だな」

「まだ余裕あると見るべきか、あと30%と見るべきか」

「難しいところですね……その村は50%から80%いくのにどれ位かかったんだ?」

「何だよ、両方とも結構冷静だな。つまんねぇー。半年だよ」


 街1つが閉鎖されるまでにかかる時間としては何とも言えない時間だった。自分の住んでいる街が閉鎖されると考えると半年は決して長いとは言えない。


「あ、ちなみに閉鎖された理由は未知のウイルスなんかじゃねえぞ」

「だろうな」

「良い予感がしない……」

「何だよ、これも予想してたのかよ、つまんねえな。本当は魂密度が高過ぎて魔界化してんだよ」

「魔界化?」


 不穏な単語に燈華が反応した。響夜は通りかかった魂を殴って処理した。


「物理現象を無視したことが起きんだよ。

分かりやすいのだと病院とかに居る脳死状態の奴らとか精神病んでる奴に魂が取り付いて動き回るぜ。まぁゾンビみたいに痛覚無いとかじゃねえよ。ただ肉体と魂が一致しねえと体はどんどん腐っていくし見た目と中身が一致しねえから周りの人間関係はグチャグチャになるな

ま、どんなことが起こるかはその時次第だな」

「ゾンビみたいなのは殴れば治るのか?」

「くくくっ、治るぜ?魂が出てくるまで殴り続けて、出てきた魂を殴ればな」


愉快そうな金髪の言葉に燈華は溜息、響夜は諦めたように天を仰いだ。


「見つからないようにやらないと警察に突き出されると言うわけか」

「……このブレスレット、腕時計とか身に付けてても不自然じゃないものにできないのか?学校じゃ教師と風紀委員が五月蝿いんだ」

「いいぜ、ちょっと返しな」


 2つのブレスレットを受け取り金髪が握り締めるとブレスレットが光り革製の腕時計に変わった。


「ほらよ」

「どうも」

「サンキュー」

「じゃ、言うこと言ったし俺は帰るぜ。頑張って魂処理しろよ、処理屋共」


 そう言って金髪はフーっと天井を突き抜けて消えた。


「……非常識だな」

「今に始まったことじゃないですよ」


 今後の展開を完璧に諦めた2人だった。



放課後、響夜と燈華はビル街を探索していた。せめて魔界化しないように目に付く魂だけでも処理することにしたのだ。自分の住んでいる街が出入り制限されるのはキツイ。

ちなみに出入り制限された村は実質的には外部と完全に遮断されているようだ。あらゆる通信手段も切られたらしい。だが最初の数日はネットなどが間に合わず情報が流出。今ではその時に得られた情報が都市伝説のように広まっている。


「居るか?」

「高いところに何匹か」

「あれか。流石に届かないし不審者扱いされるな」

「あ、ベンチに1匹」

「座る振りをして処理するからジュースでも買ってきてくれ」

「了解です」


 響夜がベンチ横の自動販売機に向かい、燈華がベンチに座る振りをして魂を掌底で処理した。


「このまま少し休みますか?」

「そうだな、少し歩き疲れた」


 学校が終わってから2時間は歩き続けてたので休憩することにした2人だった。


「今日は何体だったか?」

「これで10体です。そろそろ帰りません?」

「そうだな、沙夜に怪しまれそうな兄としては気を付けないとな」

「ただの妹相手に何を気を付けろと?」

「貞操?」

「俺の妹を痴女にしないでください」


燈華のからかうような言葉に疲れたように答える響夜だった。一応言っておくと沙夜は多少ブラコンの気があるがいたって普通の妹だ。兄妹仲も普通だ。


「デートがてら魂処理なんて、見せつけてくれるじゃん」


「……ん?」

「響夜、見ちゃいけません」

「は~い」


燈華の母親のような口調に乗っかる響夜だった。


「このアタシを無視とは良い度胸じゃん!」


 だが声の主からしたら馬鹿にされたも同然の態度だ。普通に怒る。


「え~と、君は?」

「ふっ、良くぞ聞いてくれたじゃん!」

「本当は聞きたくないぜ?」

「アタシはユウ!あんた達と同じ魂処理屋じゃん!」


 何かバーン!って擬音が聞こえてくる自己紹介をしたのは強気な目をした中学生くらいの女の子。ただしハチマキを巻いてて、少々痛い臭いがする。


「そのユウとやらが何の用かな?」

「ふっふっふっ、良くぞ聞いてくれたじゃん!」


好きなのだろうか?


「アタシ以外にも処理屋が居るって聞いて見に来たじゃん。そしたら男連れてデートがてら魂処理なんて巫山戯た態度でムカついたじゃん!」


馬鹿な子供?


「成程、彼氏の居ない寂しい少女の嫉妬か」

「俺は彼氏じゃなんだけどな」

「五月蝿いじゃん!アタシにはこの街を守るっていう使命があるんだから恋愛にうつつを抜かしてる暇はないじゃん!」


何か子供の喧嘩といった空気が増した。ちなみに響夜は燈華が彼女に成ると考えたら嬉しいような怖いような複雑な気持ちに成った。リア充爆発しろっ!


「ならばどうする?私に処理を止めさせるか?己れ1人でこの街の全ての魂を処理し尽くすか?」

「やってやるじゃん!」

「そうか、では精々頑張ることだ。この街が魔界化しないようにな」


余裕の表情の燈華と噛み付かんばかりのユウ、女の睨み合いは長くは続かなかった。


「話ついたなら俺帰ります」


少しは空気読め主人公。


「そうだな、今日はもう帰るとしよう」

「逃げる気じゃん!?」

「噛み付くなら魂にしとけよ。同じように魂処理してたらその内会うだろ?」

「ふっ、今日は顔合わせといったところだな」

「そういう事。じゃ、縁があったらまたな」

「……またじゃん」


もう1人の処理屋、ユウとの出会いだった。


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