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Messenger ~伝令の足跡~  作者: kagonosuke
番外編集
226/232

22)さすらい人の宿り木

ご無沙汰しております。前回同様、森の小屋での出来事です。


「ねぇ、セレブロ」

 夜更け過ぎ、森の小屋の己が寝台に横になったリョウは、同じく寝台の上に乗り上げた豪奢で温かな毛皮に顔を埋めながら囁いた。

 外は、この時期特有の強い風が吹いているのだろう。春の先触れとなる風だ。時折、思い出したように閉じられた窓枠が震え、カタカタと鳴った。

 同じように狭い寝台に器用に寝そべりながら、緩慢に開いた片目。そこに覗いた灰色に混ざる虹色の光彩は、いつ見ても宝石のように綺麗で不可思議だと思いながら、リョウは緩く息を吐き出した。

「セレブロは………いつ、ガルーシャと知り合いになったの?」

 これまで少しずつその輪郭を埋めるようにして形作られてきたガルーシャ・マライという男の肖像。どれもが幾ばくかの虚構と真実を含んでいる。断片的なモザイクを積み重ねるようにして築き上げてきたもの。それは多分、部分的に正しく、部分的に間違っているのだろう。

 これまでリューバは元より様々な人からガルーシャのことを耳にしてきたが、そう言えば、いつも傍に居たセレブロはどうなのだろうと思った。

 リョウは、押し寄せる眠気に抗いながら、掌の下に息づく艶やかな毛並みを撫で摩った。

 悠久の時を生きる【ヴォルグ】にとって、人の一生は瞬きにも似た時間かもしれない。それでも、セレブロの中でガルーシャという男は、少なからず違った印象を残しているのではないだろうか。

『そうさな。アレが、洟垂れの青い頃か』

 その言い方にリョウは寝そべりながら、喉の奥を震わせた。

「洟垂れ? そんなに前なの?」

 小さな子供の頃のことなのだろうか。そう訊いたリョウに、セレブロは、どこか尊大な態度を崩さすに鼻で笑った。

『そうさな。あの男が、ここに小屋を建てて移り住む前。それよりも年で2【デェシャータク】は前のことか』

 そして、セレブロはその鼻先をリョウの方に向けた。

『ああ、そうだ。今のそなたより少し若いくらいであったろう』

 どうやらガルーシャが王都を離れる約20年前。まだ20代の頃の話であるらしい。

『あの男は、あちこちを放浪しておって、旅の途中、この森の近くまでやってきたのだ』

 ―――――いけ好かない小生意気な(ガキ)が現れたと思った。

 セレブロは深みのある低い声で囁くと小さく笑った。鼻の先に皺を寄せて。きっと当時のことを思い出しているのだろう。

 今の自分よりも若い青年のガルーシャ。あのロケット型のペンダントに残っていた記憶に見えた姿くらいだろうか。


 そう言えば、若い頃、ガルーシャは各地を旅して歩いたと語っていたことがあった。あれは、そう、この国とその周辺国の地図を前に地理を学んでいた時のことだった。

 ここ、スタルゴラドは、セルツェーリ、ノヴグラード、キルメクの三つの国と国境を接している。南東には海があり、港町が栄え、他国と交易をしていると言う。

 ノヴグラードは、その昔、スタルゴラドと袂を分かった国で、言語は基本的に同じだが、経年に話し言葉の音は大分違って聞こえるということだった。

 西国のキルメクは、開放的なお国柄。ここよりもずっと温暖な気候で、飴色の肌を持つ情熱的な民が住む。商売が上手く、商人が大きな力を持っていて、キルメクの行商人たちは商隊(キャラバン)を組んで、各地を旅するのだとか。

 北東にあるセルツェーリは、穏やかな国。争いごとを好まず、外交と智略によって生き伸びてきた強かさを持つ。手先が器用な民らしく手工業が発達していて、珍しい柄の織物が有名なのだとか。リョウもそのセルツェーリ産の織物の素晴らしさについては、その後、オリベルト将軍からの贈り物(いつぞやの夜着である)で知った。それらの国の向こうには、大小様々な国が陸続きに繋がっているのだそうだ。

 まるで見て来たかのように国の配置とそこに暮らす人々、言語、風俗などを語るガルーシャに、リョウは異国を訪ねたことがあるのかと訊いていた。

 ガルーシャは、明るさを抑えた橙色の発光石の明かりの下、悪戯っぽくその灰色の瞳を輝かせると、前屈みに首を少し伸ばして、細長い指で地図の表面を軽く弾いた。そして、微かに口の端を吊り上げると、若い頃、見聞を広げる為に各国を放浪したのだと語ったのだ。

 術師というものは、元々特定の国への帰属意識が薄く、まるで根なし草のように各地を転々と渡り歩き、束の間の滞在と旅を繰り返す人々なのだそうだ。その中で、ある者は居心地のよい場所に定住をする。術師たちは、その能力故に慣れ合いを好まず、適当な距離を計りながら素養を持たない普通の人々と交わってきた。時代が下った今では、定住をする方が圧倒的に多いそうだが、皆、その魂の奥底には、旅への希求が少なからずあるということだった。


 それから、セレブロは、ぽつりぽつりと寝物語にガルーシャとの邂逅を語り始めた。

 リョウは、斜交いにこちらを見下ろしながら飄々と肩を竦める、埃に塗れた旅装姿の、まだ若い男の皺の無い横顔を目裏に思い描いた。


*****


 侵入者と思しき輩が、森の入り口付近に現れた。森の長であるセレブロには、他所者の気配は直ぐに知れた。以前、一時期頻発したように貴重な薬草を求めて森に分け入ろうとした窃盗団のような不届き者であれば、早々に立ち去るよう告げる積りだった。ここは、みだりに人が近づくべき場所ではない。人の混沌を持ちこむべき場所ではないからだ。

 セレブロが森の外を窺えば、森が始まる入り口に程近い草原の中に男が一人仰向けになって寝そべっているのが見えた。気配を探れば、男は寛いでいるようで目を閉じていた。

 頭の後ろに当てていた両手を伸ばし、まるで大地に磔になっているかのように大きく伸びをした。そして、緩く息を吐き出しながら、徐に手を空へ伸ばした。蒼穹をその小さな人の手で掴もうとでもするかのように。

 こんな所で何をする積りなのだろうか。ならず者特有の嫌な匂いはしなかった。森の長は、その男を観察してみることにした。

 男は旅装姿で、一目でくたびれたなりをしていた。くすんだ深緑色の外套が保護色のように草原に染みに似た影をを作る。長旅の途中なのだろう。あちこち埃まみれで随分と薄汚れているようだ。すぐ傍に小さな皮の鞄が無造作に置かれてあった。

 そうして、どれくらいの時が経っただろうか。男は身じろぎもせず、ただ静かにまどろんでいるようだった。

 草原を気持ちの良い風が吹いていた。長く伸びた草が男の頬を擽るように揺れていた。

 セレブロは風に紛れてその男の傍に近づいてみた。気配を消して、足音を忍ばせる。森の長の長い体毛は風に煽られ、光輝く糸のように空に舞っていた。


 影が差し、男がゆっくりと瞼を上げた。土埃で薄汚れた顔の中、灰色の瞳が生への執着を物語るかのようにギラギラと光っていた。その瞳の中にヴォルグの長の顔が、逆さまに映っていた。

 男は、無言のままその瞳を数回瞬かせた。それからゆっくりと体を起こした。緩慢な動作でぼさぼさになった髪をかく。

「あんたは……………ヴォルグか」

 予想に反して、男の第一声は、随分と気の抜けたものだった。

 森の長は、その問いには答えなかった。ただ、ちらりと男を横目に見る。だが、男にはそれで十分だったようだ。

「ここは、いい風が吹いている」

 男は、眩しそうに天を仰ぐと目を細めた。口の端が知らず吊り上がっていた。

 セレブロは、男の隣に座すと同じように碧空を眺めた。初夏の風に吹きすさぶ雲が、点々と草原に影を落としてゆく。

『さすらい人か』

 ぽつりと漏れた低い獣の言葉に男は小さく微笑んだ。

「ああ。長いことあちらこちらを彷徨っていた」

何故(なにゆえ)、ここに?』

 この場所に近づいた目的を誰何(すいか)すれば、男はぐるりと周囲を見渡してから、のんびりと口を開いた。

「一度………来てみたいと思っていた。この目で見てみたいとな」

『この森を、か?』

「この地そのものを」

 男は、ゆっくりと振り返ると森の長の目を真っ直ぐに見ていた。凪いだ瞳だった。大きな獣への恐れなど微塵もない。その反応をセレブロは少し面白く思った。

「【ノヴグラード】は近々代替わりをするだろう。【キルメク】に皇女を輿入れさせ、一層の関係強化を図る話が出ている」

 それから、男の視線は、森の遥か向こうに連なる峻厳な山なみに向けられていた。

「次の王は、まだ若いが野心家だ。虎視眈々と【ここ】に帰ることを狙っている。かつての栄光を夢見て。………五年か、いや十年。……そこまではかからないかもしれないが、時が動くことになるだろう」

(いくさ)か』

 低く漏れた獣の声を男は淡々と肯定した。

「ああ、そうなるやもしれぬ。こっちのお偉いさん方は、そんな馬鹿なと一笑に付すだろうがな」

 そう言って、どこか自嘲気味に肩を竦めた男に対し、

『人は、いつになっても変わらぬものだな。同じことを繰り返す』

 森の長の口調は、淡々としたものだった。だが、そこには、この白銀の王が眺めてきた途方もなく長い【人の歴史】が詰まっている。

 それをこの男が正確に理解していたかは分からないが、

「あんたから見れば、そうだろうな」

 男は、小さく笑った。その眦に幾ばくかの哀しみのようなものを内包しながら。

「人の一生は、あんたたち獣に比べれば、格段に短い。その限られた時間の中で、皆、自分たちのことで 精一杯だ。遠く、この先、何十年、何百年なんて先を見据えようって輩は、皆無に等しい。人は、その国、出身の村、部族、家族と小さく細分化して、その枠組みの中で生きている。後から作られた外枠に囚われて、まやかしで雁字搦めになってるのさ。本来の人としてあるべき自然の振る舞いを忘れちまっているんだろう」

 そのまま、男は息を深く吸い込んでは緩く吐き出した。

「【思い込み】ってのものは厄介なものだ。例えば、おまえさんと俺がかつては同じだった……なんて、今じゃぁ、誰も信じちゃいない。お伽噺の絵空事だろうってな。人は、いつも自らの作った見えない【戒め】に囚われている。(いくさ)になったとしても、それは人の業が呼び起こしたもの。人間は、自分たちでその落とし前をつけなくちゃぁならない。苦みも毒も、それが【毒】だと分かっていながら、摂取するのさ。馬鹿な話だろう?」

 その呼び掛けにセレブロは答えなかった。

 だが、その沈黙を男は肯定として捉えたようだった。

 男の一人語りは続く。

「この世界から素養持ちが少なくなっているのは、きっとあんたらの属する世界(テリトリー)から【人】が見限られつつあるっていうことなんだろうなぁ」

『うぬは、素養持ちか』

「まぁな、一応、術師っていう肩書だが、俺は自分を原始的な種類の人間だと思ってる。先祖返りってやつか」

 そこで男は、少しおどけたような顔をした。

「だが、そのことに本当に危機感を覚えているやつは、この国には一握り程度しかいない。その辺についてはあっちの【ノヴグラード】の王の方が余程考えているだろう。ただ、そのやり方は頂けないがな」


 その若い男は、やたらと饒舌だった。目の前に静かに対峙する獣を森の長と知ってか知らずか。いや、そのようなことなど男にとっては瑣末なことだったのだろう。明確な答えを求めている訳ではなくて。これまで誰にも口にしたことのない秘めた想いを、じっと体内に溜めこんでいた澱を、全てこの場で吐き出してしまおうとでもするかのようだった。

 不意に口を噤んだ男は、目を閉じると小さく息を吐き出した。

「ただ…………そんな莫迦げたことで、【ここ】を失いたくはない」

『見くびられては困る』

 まるで自身に言い聞かせるかのような囁きに似た微かな音を獣の耳は正確に拾う。セレブロは、鋭い牙を剥き出しにして低く唸った。

 男の中で、この森は既に人の混沌に飲み込まれ、滅びつつあるものとして描かれているのだろう。それが長には気に喰わなかった。片腹痛いという所だ。

『業にはいづれ報いあり。我らはそこまで無能ではない。ここが、うぬらが為に滅ぶなど笑止千万。この世から人が全て滅びたとて、我らの関知することでもない。まぁ、随分と静かにはなろうがな』

 それは実に辛辣な一言だった。

 だが、若い男は、腹を立てるどころか、却って愉快気に笑った。

「ハハ、確かに。違いない」

 口を開けた男の白い歯列に鋭い犬歯の尖りが覗いて見えた。

「【ノヴグラード】と一戦交えることになったら、この辺りにも兵が入って来るやもしれない」

『あの山を越えると言うのか?』

 あの険しい峻厳な頂きを。一年中雪で白く染まる高い山並みを。

 セレブロは懐疑的に思ったが、人が時として無謀とも思えることに果敢に挑戦し、それを成し遂げてみせる胆力があることを思い出した。あの男もそうだった。そして、あの男たちも。人の歴史にその名を刻んだ者も、そうでない者も。

「まぁ、この森を迂回する道筋(ルート)を選ぶんだろうが、いずれにしても無茶をする馬鹿が出てくるには違いないだろう」

『ならば迎え撃つまで。我らとて安穏として日々を過ごしている訳ではない。掟破りには容赦せぬ』

「そいつは頼もしい限りだ」

『うぬはどうするのだ?』

「あ? 俺か? 俺は、面倒事に巻き込まれんのは御免だ」

 そこで不意に白銀の王が訊いた。

『うぬは、この国のものか?』

「ああ、一応はな。だが、別段、ここに愛着があるわけでもない」

 そこで森の長は、その埃まみれで旅装姿の男を真正面から見つめた。目を凝らしてその男が身に纏う魂の色と形を見る。そこで合点が行ったのか、一つ鼻を鳴らした。

『マルメラードフか』

 断定するような確固たる口振りに、若い男はほんの一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をしたが、直ぐにそれを引っ込めて、無表情になると器用に片方の眉を跳ね上げた。

「おやおや、我が一族はそんなにも有名とはな。こいつは恐れ入った」

 飄々と冗談めかして口にした男を森の長は冷ややかに流し見た。

『うぬらは人の中でも、我らに近き血筋。人を騙せても、我ら獣は騙されぬ。うぬが望もうとも望まずとも、その血と定めは変えられぬ。足掻いたとて無駄なこと』

「はぁぁぁ~」

 その言葉に男は大げさに溜息を吐いた。

「ちったぁ言葉を選んでくれてもいいだろうに。ほら、真綿に包んで柔らかく、それとなくっつうやり方があるだろう?」

 ―――――思いっ切り抉りやがって。

 嫌そうな顔をした男を森の長は白い目で見た。

『馬鹿を言うな。我は人とは違う。一緒にするな』

「チクショウ、クソッタレが!」

 男は、突然叫んだかと思うと背中から勢いのまま草原に倒れ込み、大の字になった。 

「結局は……受け入れろってことなんだよなぁ。丸ごと。この血を認めて………」

 そう呟くと再び天空へとその薄汚れた外套に包まれた腕を伸ばした。

 だが、その次の瞬間には、実に高らかに笑い出していた。

 森の長はその一部始終を、むらっ気のある奇妙な男だと思いながら眺めていた。 

「………バッカみてぇ」

 それは、青年というよりも漸く少年から脱したような子供染みたぶっきら棒な口調だった。

「この血が嫌で嫌で仕方がなくって、新しい生き方ってのを見つけたくって、こうして何年も旅して回ってたってのに。結局は振り出しに戻っちまうのかよ。しかも回り回ってこの国に帰ってきたってぇ時にそれに気が付くなんて」

 ―――――こんなに莫迦げたことはない。

 嘲るように独りごちた男をセレブロは見遣った。

『だが、それが、うぬの道であったのだろう。肝要なのは、悟りし後にどうするかだ』

 ―――――最後まで悟らぬまま終わる者もいる。それに比べれば、うぬはマシな方だ。

 静かに男の過去を肯定した獣に、若者は一瞬、虚を突かれた顔をした後、くしゃりと顔を歪めた。男の薄汚れた掌が、その顔を覆う。骨張った指が震えたのは、瞬きにも似た間だった。

 だが、その手が離れた次の瞬間には、男の顔は、どこか晴れやかなものに変わっていた。

 若い男は、草原に仰向けになったまま大きく息を吸い込んだ。そして、朗々とした声で何かを吟し始めた。

 それは、歌うような抑揚の付いた節回しだった。

「………【かの者、森の守人。古の約定に従い天と地の理を説く。その身に纏うは白銀の衣。虹色に輝く(まなこ)は、神々に愛でられし証なり。この世に大地が生まれし時と共に産声を上げし古き一族。その身に刻むは悠久の時】…………」

 男の声が紡いだのは、この国の創世記にまつわる伝説の一節だった。お伽噺としてこの国の民には広く知られている。ヴォルグの長に関する(くだり)だった。

 男は、ゆっくりと目を開くと寝そべったまま、微動だにしない大きな白く光輝く体毛を持つ獣を仰ぎ見た。

 そこで己が胸に右手を当てると恭しく口にした。

「我が名はガルシーク・マルメラードフ、いや、これからは………ガルーシャ・マライ。貴殿は、誉れ高きヴォルグの長殿とお見受けするが」

『セレブロ』

 低く艶のある声で獣は己が名を紡いだ。

 その時、一陣の風が吹いて、緑の草原を一斉に揺らした。温められた大気に青臭い匂いが立ち上り、瞬く間に流れて行く。

 白き獣は、【ソンツェ(太陽)】を背に負い、きらきらと輝く銀色に縁取られていた。神々しい光だった。その光景に男は寝そべったまま小さく笑う。その顔は何故か幸福に満ちて見えた。


 これが若きガルーシャ・マライとヴォルグの長セレブロが互いを認識し合った日だった。二人の関係は、ここから始まったのだ。



 セレブロが全てを語り終えると、寝台からは微かな寝息が聞こえてきていた。

『リョウ?』

 鼻先で息を吹きかければ、散った癖の無い黒髪が宙に舞い、その下にどこかあどけない娘の眠りに就いた顔が見えた。聞きたいと言った当の本人は、いつの間にかまどろみの世界に(いざな)われていた。

 ―――――やはり先に寝おったか。

 セレブロは、先程よりもやや強めに息を吹きかけた。目を閉じた凹凸の少ない顔が小さく歪む。だが、直ぐに己が毛に顔を寄せると小さく微笑んだ。

 ―――――相変わらず呑気なものだ。

 セレブロは、肌蹴けかけた上掛けを口で引き上げるとリョウの肩にかけ、そして静かに目を閉じた。

 懐かしい夢が見られそうだと思った。


ガルーシャとセレブロの初対面のシーンをお届けいたしました。思いの外手間取りました。そして謎が謎を生んでしまった感が……。書けば書くほどガルーシャという人物は深くて……こんな短編では到底語りつくせません。完全なる力量不足です(反省)。


この話を執筆中、アメリカの詩人Robert Frostの詩「The Road Not Taken」を思い返していました。"Two roads diverged in a yellow wood, And sorry I could not travel both ……と始まる詩です。人生における様々な分岐点、そしてその選択を思う含蓄のある言葉で、個人的に好きな詩です。これに関しては、近いうちにブログの方で「こぼれ話」として取り上げたいと思います。


それから、「みてみん」さんの方にセレブロのイラストをアップしました。相変わらずのロークオリティですが、もしよろしければ、ご笑覧下さい。(ブログの方と同じものです) http://3415.mitemin.net/i42780/

それではまた次回に。

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