07 手紙のやり取り(ラカンside)
「子供達の手紙は? ヴァリス」
「カーン伯爵家に送らせましたよ」
「そうか……」
レティシアはまだ戻らない。
二、三日で戻ってくると、何処かで思っていたのに。
「夜会は……どうしたものか」
諸侯が開くダンスパーティーの夜会。
既に参加の意思は伝えてある。
レティシアのドレスを誂える時間がないのであれば……。
ダンスパーティーである以上、パートナーは必要だ。
第三王子が一人で参加するワケにもいかないだろう。
レティシアが無理ならは早急に……ガレス侯爵令嬢に手紙を送らなければならない。
「レティシアは、黒髪と黒の瞳を人前に見せたがらないんじゃないか、か」
マール・ガレス侯爵令嬢に言われた事だ。
僕は彼女の黒髪を誇りに思えば良いと思っているのだけど。
もしかしたらガレス嬢の言う通りなのだろうか?
「……ヴァリス。レティシアのドレスのサイズは分かったりしないか?」
「えっ。そうですね……。失念しがちですが、彼女は王宮魔術師団に正式には所属しています。
かなり特殊な立場ですので、あまり魔術師団としての活動はされていませんが……。
調べれば魔術師団の制服の寸法があるのでは?
見たところ、この数年で体型が殊更に太ったという事はなさそうですし。
……痩せはしたかもしれませんが」
「! それだ! その手があったか!」
僕は早速、魔術師団に残されてあるだろうレティシアの制服の寸法を調べさせた。
それを元に彼女の為のドレスを誂える。
「レティシアの黒髪に似合う色を用意しないとな!」
療養の為に出ているのだから、あの少し痩せてしまった頬も健康的になるかもしれない。
僕は少し浮かれた気分になった。
貧民地区の事を知らずに育った、幸福なままの王子だった頃の気分だ。
いや、もちろん仕事はこなしている。
投げ出してはいない。
「……殿下。一つ、よろしいですか?」
「なんだい、ヴァリス」
「はい。カーン嬢を夜会に誘いたいならば、まず伯爵家にその旨の手紙を届けるのでよろしいかと。
ドレスも大事でしょうが。
……子供達の手紙を送る前に」
「────」
……言われてみればそうだな。
レティシアは……そう、早く王宮に帰って来て欲しくて、その事ばかりを考えていたが。
今、彼女が居る場所は別に隠されているワケではない。
どころか明確に知らされている。
王宮に戻らせる手を打つ前に、手紙で伝えるべきだった。
「そうだな。当たり前の事を失念していた。どうも彼女が王宮に居る事の方が、あるべき姿という意識が強くてな」
まず帰ってきてから。
口頭で伝えればいい。そう考えていたのだ。
「ついでに早く戻るように急かしておくか」
「…………」
元の担当の貧民地区の支援を続けつつ、新たな地区に出資したので、僕の作業量も増えている。
人員は相応に揃えているが、レティシアは民に慕われても居るからな。
こうして僕は側近のヴァリスのアドバイスを受けてカーン伯爵家へ手紙を送ったワケだけど……。
レティシアが王宮を出てから、ちょうど2週間が経った頃だ。
先に送った子供達の手紙の分と合わせて、彼女からの返信の手紙が届いた。
「……出来れば本人が帰ってきて欲しいのだが」
なんて思いつつ、レティシアからの手紙を見る。
しかし。内容は僕の思ったものとは違うものだった。
しばらく王宮には上がらない。
領地で療養をしつつ、カーン伯爵家の現在の状況の把握や、領地運営について学び直したい。
子供達の事は会えずに残念に思っているので別に手紙を用意したから、可能であれば届けて欲しいと願う。
「……まだ、帰って来ないのか」
レティシアの勤勉な所が仇となった形だ。
王宮に上がっても王宮の図書室で学んでいた彼女だからな。
伯爵領に行けば、それはそこでも勉強しようという事になってしまうか。
しかし領地運営か。
レティシアは……カーン伯爵家を諦めてはいないのだな。
それはもちろん、領民ごと移住させるというのも大事業になってしまうだろうし。
現実的ではない、のだろう。
僕の中の未来図と、現実のレティシアの齟齬を感じてモヤリとする。
……どうしても距離を早く詰めておきたいと感じた。
傍に居れば、そういう話だって出来るのに。
手紙で誘ったダンスパーティーの夜会の件だが……今すぐに答えを出せない、と。
だから僕には他の女性を誘うよう促してきた。
つまり僕の誘いは断られた、という事だ。
仕方ない。
仕方ないのだが……、色々と勉強など切り上げて早く帰って来るという選択肢はなかったんだろうか。
「……一応、ドレスは用意させるか」
タイミング良く帰って来るかもしれないし。
いや。そうだな。
それでも、先に別の女性との約束を取り付けて……おいて。
そうしたらレティシアは後悔するだろうか?
早く帰ってくれば良かった、と。
「……はぁ」
僕はモヤモヤとした気持ちを抱えながら溜め息を吐き出したのだった。
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