アブナイでかいアヒル
俺の婚約者であるルージュはいつの間にかアヒル使いになったらしい。本人に言わせると、正確にはアヒルの魔法使いであるらしいが。アヒル魔法のスペシャリストだと言っていたが、そんなスペシャリストはどうなんだ。
そんな風に現実逃避したくなる光景が眼前に広がっていた。
ソルレイクへ巨大アヒルで旅をすることになったのは、まぁいい。巨大アヒルのスピードは凄まじかった。しかし、ルージュの魔法によるものか馬車を改造した室内は揺れもなく快適だ。
このまま穏やかな旅になるかと思いきや、魔物が現れた。
しかも、囲まれた。
ソルレイクまでの道程で、空路が一般的でないのは『死の森』と呼ばれる大森林地帯を通過しなくてはならないからだ。
『死の森』の魔物は強い。2~3体ならどうにかなるが、血の臭いを嗅ぎ付けて次から次へと敵が現れるから、迂回するしかない。それゆえ余計に時間がかかるわけだ。
現在俺たちはワイバーンと呼ばれる魔物に囲まれている。全員戦えるらしく、ここに怯えるような人間はいなかった。
足場が不安定ではあるが、魔法で範囲攻撃を連発すればなんとかなるだろう。
俺が前に出ようとした瞬間、ルージュが声を出した。
「バルちゃん!」
「くわああああ!」
俺達の位置からは巨大アヒルが見えないので何をしたか不明だが、ワイバーンが次々にクネクネしながら落下していく。
「がぁがぁがぁがぁ♪」
ひゅーん(ワイバーンの落下音)
「くわっくわっくわっくわっ♪」
ひゅーん(ワイバーンの落下音)
巨大アヒルがやたら楽しそうに歌っている気がするのが地味に怖い。
そして、ワイバーンは全て落ちた。
怖い。何をしたか不明だから余計怖い。
「……あ、あの、ルージュちゃん、何をしたんですか?」
勇気あるクレストがルージュに確認した。鋼の心臓と揶揄された奴もビビったようだ。珍しく敬語で話している。
「ふふふ、よくぞ聞いてくださいましたわ、クレスト様!これぞバルちゃんの必殺技!魅惑的お尻の舞…名付けてチャームヒップダンス!」
俺の婚約者は、頭のいい馬鹿だなぁと思った。しかしどや顔がバ可愛いのでこれはこれでよしとしよう。
「チャームヒップダンスの効果は、どんな魔物も魅了して同じ動きをさせるのですわ!」
「つまり…」
「空中で羽ばたきを忘れた哀れな魔物は墜落いたしました」
地味にえぐい。この高さだ。助からないだろう。ただ、血の臭いで寄ってくるのは地上の魔物だろうな。
「ちなみにバルちゃんは羽ばたきではなく重力制御と風魔法の併用で飛んでおりますから、羽ばたきは不要ですわ」
しかし、このチャームヒップダンスは地味に恐ろしい。発動したら尻をフリフリ踊らされて生き恥を晒したあげく、遠距離魔法を撃たれれば……敵が可哀想なことになるな。正しく死のダンスだろう。
「ちなみに他にも必殺技はありますけど、地形が変わったりする危険がありますのでやめておきました」
「賢明だな。えらいぞ、ルージュ。それは最終手段にしておきなさい」
「えへへ」
誉めつつさりげなく使うなよ、と釘をさしておいた。
「ルージュちゃん、アヒルってそんな危険な生き物だったっけ?」
「そうですわね…アヒルとは愛らしさと強さ、セクシーさを兼ね備えた至高の生き物ですわ」
「…アヒルってそんな生き物だったっけ?」
アヒルは愛玩または食用…家畜である。強さとセクシーさは無いはずだ。騙されるな、クレスト。多分違う。いや、ルージュにとってはそうなのだろうが、大半の人間は違うと返答するだろう。
「いやはや、驚きましたなぁ。とりあえずお茶にしましょうか」
「ですわねぇ」
「戦えなくて残念だ」
「はっはっは、流石は我が娘だね」
執事のセバスチャンは手際よくお茶を用意した。他のメンバーも全く動じていない。
「俺もまだまだ修行が足りないな」
「いや、この人たちおかしいから!バングナルト様はそのままでお願いします!いやマジで!」
「そうか?」
とりあえず、魔物は心配ないようだ。俺はのんびりと茶を楽しむことにした。窓の外ではまた魔物が落ちているが、気にしないことにした。
・バングナルトのスルー力が大幅に上がった。
・クレストのツッコミレベルが上がった。




