休暇どころではない
ルージュ様が持たせてくれた通信用魔具。非常用に、念のためねと言われた品が、役立ってしまいました。
「話はわかったけど……流石にどこへ行ったかもわからないマカラ達を探すのは難しいですわね。クレスト様達がおりますもの。きっと大丈夫ですわ」
クレスト様達の常識と良心に期待するしかないようです。しかし、コンラッド様もたまに暴走するらしいので不安しかありません。それでも今は信じるしかないですね。祈っておきましょう。
「……はい」
「そちらより、バルちゃん達の件はどうなりまして?」
「あ」
すっかり忘れておりました。というか、考える暇が微塵もありませんでした。帰郷してから精肉して精肉して精肉して、皮の処理をしたり、変態に遭遇したりしていましたから。
「……まだこちらに着いたばかりですし、色々ありすぎて、正直忘れておりました」
「……そう。そちらに行かせたかいがありましたね。ここ最近はずっと思いつめた表情ばかりだったから、心配していましたのよ」
「……ありがとうございます」
ルージュ様、優しい。その優しさに甘えて聞いてみた。
「ルージュ様だったら、どうします?好きな人が人間じゃなかったら」
「私?うふふ。昔、バングナルト様のことを誰かのはぐれ使い魔だと勘違いしていた事がありましたの」
「……………はい?」
待ってください、ルージュ様!何故そんな勘違いをしたんです!?照れ笑いは可愛いけど、どういうこと!??
「初めてお会いした時、バングナルト様は呪われてアヒルになっておりましたのよ。そして、料理人に追われていたのです。そこを私が助けましたのよ」
「ええええええええ!??」
バングナルト様、ガチで生命の危機だったんですね!?食べられなくて良かったですね!!
「そして、私はバングナルト様に恋をいたしましたの。いつの間にか、殿下に冷たくされてもバングナルト様がいたから気にならなくなりましたわ。留学中にバングナルト様をクレスト様が見つけて、バングナルト様が帰国してしまいました。私はバングナルト様と離ればなれになって初めて……自分の気持ちに気がつきましたの」
「ルージュ様……」
「そして、決めましたの。バングナルト様がクレスト様の使い魔であるなら、私も誰より美しいアヒルになってバングナルト様のつがいになろうって」
「思いきりがよすぎるって言うか、予想外の方向に爆進しすぎです!!」
なんでそうなったんですか!??
「まあ、バングナルト様を譲っていただけなかった時の最終手段ですわ。結局バングナルト様は人間でしたから、こうして婚約しているのですけど。私はバングナルト様がアヒルだったとしても、添い遂げる覚悟をしていましたわ」
私に、その覚悟はあるだろうか。
「レッタ、そう難しく考えないで。レッタの人生は、レッタだけのものなのです。バルちゃん達の都合はどうでもいいの。一番重要なのは、レッタがどうしたいかですわ」
「……………はい」
私が、どうしたいかかぁ。考えたこともありませんでした。実家にお金が無いので、弟妹のために少しでも稼げるところを探して……運よく王城で採用され、ひたすらに働いていました。ババアの意地悪と戦い続けた結果、色恋とは無縁でした。見知らぬ男性に告白されたことはありましたが、ときめきませんでした。むしろ、引きました。
大概の人はうちが持参金を用意できないぐらい貧乏だと知れば、離れていきました。なんとなく、平民の平凡な男性と結婚して田舎で暮らすんだって思っていました。
そう都合よく王子様なんて現れません。
アヒル様達だって、いつかは離れていくでしょう。だって、私はつまらない地味な女だから。
「…………あれ」
涙がこぼれていました。ああ、そうだったのですね。私は、アヒル様達とずっと一緒にいたかったから、受け入れて捨てられるのが怖かったのです。
「「レッタああああああ!!」」
天井をぶち破って、白黒のアヒル様達が現れました。すぐ美青年姿になって私の手をそれぞれ握っています。
「レッタ!何か悲しいことがあったのか!?」
「レッタ!泣いているのか!?泣かせた奴は……通信の相手か!?」
「レッタ!?すごい音がしましてよ!?」
ルージュ様が慌てています。天井の大穴から、綺麗な空が見えています。私よりも、実家のマイルームが壊滅的な大ダメージです。
「ルージュ様、私は大丈夫です。とある神の使い様方のせいで、実家の一部が壊れただけですから」
「え?まさか……あんなに言ったのにレッタを追いかけたんですの!?私の話を聞いていなかったんですの!?」
ルージュ様はアヒル様達を説得して足止めしてくださったらしいですね。残念ながら半日ももたなかったようですが。
「うっ……」
「し、仕方ないだろう!我らもレッタが心配だったのだ!」
ノア様はわりと素直にシュンとしましたが、ルージュ様と付き合いが長いアヒル様ことバル様は反論しました。
「……バルちゃん?」
ルージュ様はお怒りです。通信で姿は見えないのに、威圧感が伝わってきます。
「………悪かった。帰る」
「あ、屋根は直してください」
「「うむ」」
やはり神の使いはスゴいですね。一瞬で修復されました。部屋は綺麗に元通りです。
「レッタ……レッタは我らが嫌いになったのか?」
「そうなのか!?側に居たくないのか!?確かに我らが帰ると聞いて、ホッとしているじゃないか!!」
やはり心を読まれていたのですね。ここは心を鬼にして、ガツンと言わねばなりません。
「他者の心を勝手に読むのはマナー違反ですわ。マナーがなっていない方とは一緒にいたくありません」
「「く、くわあああああああああああ!!」」
アヒル様達は、白黒のアヒルになって泣きながら飛んでいきました。
「……本当に嫌いになれたら、楽なんですけどね」
自分に苦笑せざるをえない。今回ばかりは流されてはいけないのです。選択によって、私は後悔するでしょう。
私の人生は私のもの。だから重要な選択は、自分でしなくてはならないのです。
決断の時は、迫っています。




