帰郷と肉
懐かしい田舎の風景。空気がおいしい。まどうなんちゃらから降りて、身体を伸ばしました。
「うーん、レッタさんの実家にこれを置けそうな場所はありますか?」
確かに、このまどうなんちゃらは高価そうだしその辺に置いとくと悪ガキがイタズラするかもしれないですね。
「あ、でしたら「レッタ!お帰りなさい!」
いきなり母に抱きつかれました。
「ずいぶん早く来たのね。あんたが友達を連れてくるなんて初めてだからご馳走作ってあげようと思って新鮮な肉を分けてもらいに来てたのよ」
母よ、新鮮な鶏肉こと鶏の死骸をお客様に見せないでください。
「この辺、魔物がいるみたいだな」
ファンデ様が警戒しているようです。確かに、村に活気がありません。家畜が放牧されておらず、村人も外にはいません。
「そうなのよ。よくおわかりになりましたね。お恥ずかしい話ですが、我が領は貧乏でして…冒険者を雇う余裕もなくて……」
「騎士団は?」
「王都はこの程度で動きませんわ。他国から侵攻があれば別ですが、ただ魔物が増えただけですもの」
母の考えは正しいです。訴えても動いてはいただけないでしょう。ですが、狩らなければさらに魔物は増えてしまいます。まだ人的被害は出ていないようですが、時間の問題でしょう。
「レッタ、これは騎士の仕事だから……いいか?」
ファンデ様は私に確認してきました。私は頷きます。このままでは私の故郷が地図から消えてしまいますから。私とて、優先順位がつけられぬほど愚かではありません。
「はい。お願いいたします。ですがファンデ様、ファンデ様の安全が最優先です。怪我ひとつせずに殲滅してください」
「承知した!」
「俺も行くよ。日暮れまでにはあらかた片付けちまおう」
ファンデ様はまどうなんちゃらで着替えて騎士姿になりました。クレスト様は旅装束なのでそのままです。二人は仲良く走り去りました。
「…お母様、今夜はごちそうにしましょう。ファンデ様は成人男性の五倍以上食べますから」
「レッタ!ご飯より、二人を止めなくていいの!?二人だけで討伐なんて無謀もいいところよ!?」
ああ、母よ。私はいつのまにか常識をどこかに置いてきてしまったのですね?
「ストロングファンデ!」
どうやらファンデ様が敵と遭遇したようです。冗談みたいに吹き飛ばされた魔物が見えました。
「ファンデ様はソルレイク最強の騎士です。クレスト様はその次にお強いのです。ワイバーンどころかドラゴン種の単独討伐を成し遂げたお人ですから、大丈夫です」
この間、でっかい鱗をいただきました。綺麗だからとくださいました。それをコンラッド様が加工してアミュレットにしてくださいました。今も持っています。
「ドラゴン!?あの、百人単位で倒すドラゴン!?」
「コツはブレスを吐く前に一刀両断することらしいですよ。この鶏肉だけじゃ足りませんね」
「あ、僕ファンデさんが倒した肉を回収するよ!食べられる種類はわかるから!」
コンラッドさんも森に走り、数体の魔物肉を持ってきました。
「トランクに積んで、向こうで処理しましょうか。まだまだたくさんあったから、村の方に分けていいですよね?」
「か、かまいませんが……」
大量の獲物にドン引きしている母。ファンデ様の本気はこんなものではありません。肉はさっさと血抜きせねばなりません。村の広場にどんどん肉を吊るします。
「余ったぶんは薫製にしますか?」
「そうだね。加工して保存した方がいいね。あ、大容量鞄渡しておけばよかった」
薫製のための火をおこし、かまどを作りながらそんな会話をしていたら、ファンデ様が戻ってきました。でっかい魔物をかついでいます。重たくないのでしょうか。
「レッタ!デンジャラスボアがいた!すっごく旨いから、後で調理してくれ!!」
「かしこまりました。おいしい晩餐、期待しておいてください」
「あ、ファンデさん。これにいい素材とか入れてね。あと、肉なんかも。こっちはクレストさんの分ね。中に傷薬とか水が入っているけど、それは好きに使っていいから!」
コンラッド様がファンデ様に大容量鞄を渡しました。私も一ついただいて持っていますが、とても便利なんですよね。
「おう!ありがとう!レッタ、楽しみにしてるからな!!」
やはり本質が野生児であるファンデ様は狩りをしている時が一番イキイキしていますね。どうでもいいですが、ファンデ様のおかげで私毛皮をはいだり精肉するスキルがものすごく上がりましたよ。
「母さん、手伝って」
なんとマカラ様もお手伝いしてくださっているのに母がぼやっとしていたので、声をかけました。
「え、あ、うん」
村人も出てきて、血抜きを手伝い始めました。なんかもうサバト的なナニかっぽいです。皆無言で作業しています。
コンラッド様が狩られた獲物を運び、皆で延々さばき、加工し続けました。うちの村、これで今年の冬は肉に不自由しませんね。売ってもいいかもしれません。
レッタがすっかり染まっちゃった感が否めないです。




