真の悪魔
リヒャルト視点です。
男は悪魔から解放されたためか、さらに痩せ細った。だが、その瞳は今までと違い狂気の色が薄くなり理性の光が宿っている。
「おーほほほほ!この日を待ちわびていたわ!今こそ復讐の時!!」
現実におーほほほほって高笑いする人、いるんだぁと思考が明後日に飛びかけた。しかし残念なことにマカラちゃんで耐性ができたせいか僕の思考はすぐ戻ってきてしまった。
「えっ!?ちょっ…もう充分復讐しましたよね!??」
「いいえ、長年与えられてきた屈辱とストレスがこの程度でチャラになるわけがないでしょうが!」
「ですよね!」
つい納得してしまった。そりゃそうだ。あくまでも尻バットはお義父さんの復讐なのだ。お義母さん…マスラさんは奴の男性としての尊厳を粉微塵にしたが、それで満足するわけがない。
「可愛い義息子が納得したところで、やるわよ!」
「ええ!任せてください、母様!」
マカラちゃんがナニかを朗読し始めた。
『君の瞳はシューティングスター☆
麗しい君。その瞳はまさにシューティングスター☆
僕の心臓は君に撃ち抜かれた
ハートから、こんなにも愛が溢れて止まらないよ。
幾千幾万もの中から君に出会えた奇跡(軌跡)
神に感謝しよう
二人の愛は永遠だよ』
やめろおおと男が泣き叫ぶが、やめてくれるわけがない。どうやら男のラブポエム(笑)だったらしい。これは死ねる。
「いかがですか?解説のアイラさん」
マカラちゃんが真顔でアイラ様に聞いた。解説のって何??
「そうですね。ひとつひとついきましょうか。ツッコミどころが多すぎますね。まず、タイトル。瞳が流星。落ちたら大惨事ですよ」
確かに。意味がわからない。アイラ様は淡々と解説した。
「シャイニースターならまだしも。それでも痛いですが」
まだ星のように輝いてる方がまし…かな?
「仮にシューティングスターだとすると『僕の心臓は君に撃ち抜かれた』って、流星が貫通したんですかね」
それ、即死?中二臭い詩が一気にサスペンス風にカテゴリチェンジしました。
「死んでますね」
「そうね」
「そもそもあの男といる間は死んだ魚みたいな瞳しかしていなかったわよ」
そこに真顔でお義母さんがツッコミをいれた。いや、つっこむとこそこ!??
「つまり…死んだ魚みたいな瞳をした女性に胸を貫かれた?」
「ただの殺人事件ね」
確かに。恋愛ものから火サスまたはホラーへ突入したね。
「まあ、頭がお花畑だったみたいだから、死んだ魚の瞳に輝きを感じたのかしらね」
「なるほど」
「つまり、異常性癖だったのね」
男が呻いたり泣いたり首を振ったりしていたが、三人はいないものとして扱った。調子に乗って書いた中二という痛い病に罹患していた頃の落書きを出されて解説されているようなものだ。辛かろう。
それにしても、何?このコント何??全員真顔なのが面白すぎるんだけど!
「では、次にいきましょう。『ハートから、こんなにも愛が溢れて止まらないよ』これは簡単ですね。死んだ魚みたいな瞳の女性に胸を貫かれて、血が溢れています」
「なるほど。溢れているのは愛でなく血ですね」
「つまり、死にかけた男の妄想なのね」
一気に血なまぐさい話になりました。
「サクサクいきましょうか『幾千幾万もの中から君に出会えた奇跡。神に感謝しよう。
二人の愛は永遠だよ』…ですね」
「正確には『こんな男に言い寄られた不幸。神を呪おう。愛することは永遠にない』ですね」
「上手い!」
「最高!!」
いや、まあ、うん。もう何も言うまい。それから、男が書いた手紙や詩をそれはもう落とした。落としたり落としたり馬鹿にしたりしまくっていた。これは酷い。
「惨いですが、彼のしたことを考えますと、仕方ない気もしますなぁ…」
いつの間にか司法官長が僕の隣に来ていた。
「そうですね」
視線はシクシクメソメソしている男にやったまま同意した。悪魔が誘導したとはいえ、あの男がしてきたことは許されない。
「いやはや、こんなにも驚かされた裁判は初めてでしたぞ。君が助けてくれた青年は、私の孫だったのです。ありがとう」
「あ、いえ…当たり前の事をしただけですから」
悪魔に襲われてた青年……将来禿げるのかなぁと考えていた。司法官長はもうここまでグダグダになっちゃったし、お義母さんの気がすむまでやらせてくれるらしい。
そろそろ終幕かな?というところで、男は獣のような唸り声をあげ始めた。すかさず魔力を探る。拠りどころだった愛を否定され、心と魂も悪魔に渡したようだ。
僕は悪魔を矢で射抜く。そんな逃げを許しはしない。悪魔のせいになんてさせない。
お義父さんが男の前に立った。
「確かに悪魔の影響はあっただろう。だが、最後に『選んだ』のは間違いなくお前だ。悪魔は嘘をつかない。お前に選ばせただろう?逃げるなんて許さない。お前がしたことを、一生かけて償い続けなさい」
「あんたに何がわかる!?私はずっと…ずっとあんたと比べられ続けた!容姿も!頭も!何一つ敵わなかった!」
「だからといって奪っていいことにはならない。司法官長、判決を」
「それでは、判決を言い渡します!被告人は、有罪!本来ならば死刑にいたしますが、被告人の罪はあまりにも重い。新たなる刑罰を作成することになるでしょう。それでは、閉廷!!」
こうして、ようやく男は投獄された。すっかりやつれ、騎士に引きずられて行くのだった。




