とりあえず、色々と深いのはわかった。
リヒャルト視点です。
司法官長が魔具を調べた結果を話した。
「複数の方にご協力をいただき、魔具に不正はなく、精度が高いものであることがわかりました。是非今後、捜査の為に我が国でも導入したいものですな。さて、それによってマカラ嬢は被告ではなく被告の兄の娘であることが立証されました。そして、被告と妻の歪んだ関係も感じられましたな。騎士側、いかがですかな?」
「騎士側は、妻への長きにわたる脅迫と精神的苦痛について…脅迫と精神的な虐待について立件するぜ。最初の話に比べれば、重い罪ではないだろうが、何年も何年も辛い想いをした妻の話を聞いてやってほしい」
「…なるほど。許可しましょう」
「違う!妻と私は愛しあっているんだ!!ぐっ!?」
「黙りな」
うちの弟が、持っていたカップを投げた。かなり重そうな金属のカップだったので男は額をおさえながら床に転がった。
「騎士側は戸籍上の妻が被告を愛していなかったことを証明する準備がある。証人、来な!!」
「は、はひ……」
とても気が弱そうな女性が現れた。
「証人、名前と職業を」
「わ、私は…リチェルと申します。職業は…マスラ様付きのメイド…です。マスラ様が倒れてからはマスラ様の介護と延命治療を…してました」
「ふむ。延命治療を?いや、それも証言してくださるのでしょうな。では、証人。証言をお願いいたします」
オドオドした女性は頷くとぬいぐるみを取り出した。黒い熊で、やたらとこう…パンクな感じ??
「じゃ、証言するぜ!あの男、マジ最悪なんだよ!リチェルのご主人サマんちを盾にとっただけでなく、実の兄貴にも毒を盛りやがった!アッサリ死刑じゃもの足りねぇ!ご主人の苦しみは死刑ごときじゃ足りねぇ足りねぇ!!」
腹話術、なのかなぁ。男性みたいな声でぬいぐるみはしゃべる。ぬいぐるみは口が悪かった。
「…証人、その……ぬいぐるみさんはなんですかな?」
「……その「リチェルはたどたどしくしかしゃべれねぇから、オレサマが代わりにしゃべってやってんだよ!」
「……………………………………続けてください」
司法官長は諦めたらしい。
「あのじじいはリチェルをご主人サマの監視係にしようとした。だが、リチェルは最初からご主人サマはじじいを好きじゃねぇって知っていたから逆に逢い引きの手はずを整えたり、アリバイ作りに協力していたぜ」
「貴様…!」
ぬいぐるみは不自然に頭を曲げて男の方を向いた。
「おっと、オレサマ達を恨むのは違うんじゃねぇか?使用人なら誰もが知ってるぜ。兄の恋人も立場も、無理矢理奪った最悪な男だってなぁ!!ヒャーハハハハ!!テメエに殺されたくねぇから媚びてただけで、テメエは誰からも愛されなかったんだよォ!!ヒャーハハハハ!!ヒャーハハハハ!!おかげで色々食い放題だったがなぁ!残念だったな!そこまで堕ちたのに、結局テメエは女も地位も、欲しいもんはぜぇぇんぶ兄貴のもんだぜ。ざまぁねぇな!ヒャーハハハハ!!」
高らかに響くぬいぐるみの笑い声。その後の証言からも、お義母さんとあの男がいかに不仲だったか。お義母さんがいかに可哀想だったかの話が出た。マカラちゃんと同じで、やられたらものすご~くやり返していたみたいだけど。
「あれ、悪魔が入ってるわね」
マカラちゃんにお義母さんが答えた。
「ええ、あれは私の…この恨み日記に惹かれたみたいなのよ。役目を終えたらあげる予定よ」
もはや呪物ではないかと錯覚するほど禍々しい気配がする日記。証拠として提出されたが、司法官長もナニかを感じるのか、触りたがらなかった。
「さ、さて…これだけ証言があれば充分でしょう。判決を…」
「待った!」
男の言葉に、司法官長は首を振った。
「残念ですが、発言は認められません。これだけの証拠があります。覆すのは不可能です」
「ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!あ、ああああああああああああああああいあああ!!」
男から黒い煙が吹き出した。え!?な、なんかこう、パラサ△トイヴみたいに変形してる!?あの呪い日記からもナニか出ている!!
「あ、まずい」
「うむ、まずいな」
二体のアヒル達が頷く。
「何がどうまずいんですか!?」
レッタさんがアヒル達に確認する。
「うむ。まあ、天界の死者も呼んだし大丈夫だと思っていたのだが」
「悪魔やら呪い日記やらの負の魔力がすごくてな。予想外に悪魔が力をつけていた」
「つ、つまり?」
「「つまり、魔界の蓋があく」」
ものすご~く大ごとじゃないですか!!
「騎士は傍聴者や非戦闘員の避難を!私も逃げますぞ!」
司法官長は指示を出すと逃亡した。クレストさんとジャンが湧き出す魔物を抑えている。
「クレストさん!」
「こっちはなんとかする!ファンデは避難経路の確保!!逃がし終わったら加勢してくれ!!」
駆け寄ろうとしたファンデさんに、クレストさんが指示を出す。ファンデさんは頷くと身を翻して逃げ惑う人々を助けに走る。ルージュ様達も避難誘導を始めた。
「兄貴、ボサッとしてんな!悪魔の餌になりてぇのか!?」
弟の優しい声に、僕は微笑んだ。
「ジャン、お兄ちゃんは大丈夫だよ」
僕に襲いかかろうとした悪魔?が弾け飛んだ。不謹慎だと自分でも思うけど、遠慮なく新作を色々試せそうでワクワクしてしまう。ちなみに今発動したのは攻撃的な守護神という魔具。自動で守備と攻撃ができる優れもの。おまけに攻撃が魔力を帯びていた場合はそれを反撃に転化する。つまり、対悪魔において絶大な効果を発揮するのだ。ただ、魔力の塊である悪魔からの攻撃には想定以上の出力になるようだ。余剰分を逃がしてためるモノを作ってもいいかも。
流石にマカラちゃんの夢魔さんが死んだら可哀想だから試せなかった色々…実験体は山ほどいる。手始めに、あるものを投げてみた。
「グギャアアアアア!?」
一般人にとりついた悪魔が消え去った。
「あ、ありがとうございます」
「早くお逃げなさい。これは差し上げます」
先ほど投げたモノを助けた男性に渡した。彼は慌てて逃げていく。行く手を阻んだ悪魔が、彼が投げたモノでまた消え去る。
僕が投げたモノ、それは塩である。前世の習慣がここに来て役に立つとは思わなかった。清めた水を撒くと、やはり悪魔が消え去る。異界の魔にも効くんだなぁ。
実は前世の僕の父は神職だった。あのまま生きてたら、僕は神主になるはずだった。ゲームでも慣れていたが、現実でも怨念とか見慣れていたからあまり悪魔に驚きはない。なんとなく作りためておいた清め塩と水がこんなところで役立つなんて、人生はわからないものだ。
いまはもう会うこともないであろう竜神…湊様にありがとうございますと心の中でお礼を言った。
僕が撒いた清めた水をうっかり踏んだ悪魔が消え去った。あ、逃げる人たちを追えないように水を撒いとこう。ついでに結界も張るかな。
「あのマカラちゃんの旦那だもんな…まともなはずがなかったんだよ…」
「あ、兄貴が…兄貴が…兄貴ぃぃ!??」
「ふふふ」
つまり異界の神も実在するんだろう。魔法に溢れたこの世界。日本より威力があるんじゃないかな?魔具や術式の実験に夢中な僕は、騎士さんやクレストさんや弟がドン引きしているのに気がつかなかった
なんだろう。書いてて楽しくなってきました。




