意外とちゃんとしてました。
「被告が実験と称して罪もない人々を傷つけ、殺害したことが立証されました。これだけでも死刑は確定しておりますが、被告の罪はまだあります。騎士側、説明を」
「被害届が複数出ている。マスラという女性は被告の兄の恋人だった。子を身ごもり、結婚予定だったが子と被告の兄の命を奪われたくなければ言うことを聞くよう脅され、娘は血縁上伯父である被告が父であると騙されたあげく育児放棄された」
「なんと……」
「だが、被告との結婚生活で疲弊したマスラが毒薬…実際には強力な眠りの魔法薬だったそうたが…をあおり、被告の執着は娘…血縁上は姪であるマカラ嬢に移行した。兄貴…リヒャルト氏の監禁・拷問は姪への病的な執着の結果だ。実験は一部ちゃんとしていたようだが、妻を目覚めさせられない鬱憤を晴らしていたらしい。騎士側は脅迫と虐待で立件する!」
「異議あり!妻は私を愛していた!今でも私を愛しているんだ!私は娘も愛している!愛する妻にうりふたつなんだ!愛さないはずがない!!」
男は必死だ。どうしようもないほどにいびつに歪んでいるが、それは本心なのだろう。ただ、相手は違う。
「ふむ…確かに、子を愛さぬ親はいないと思いたいですが……騎士側、どうですかな」
「騎士側は、それが一方通行の押しつけであったと考えている。さあ、真実をあばいてやろうぜ!来な!証人!!」
証人は、やせたおばあさんだった。
「幼少期、マカラ様の世話係でございました。旦那様はマカラ様に何もしてくださいませんでした。わたくし、何度も何度も申し上げました。マカラ様が姉君にいじめられている。どうかマカラ様にいじわるをなさらないよう話してほしいと。ですが、旦那様は放置いたしました。それゆえ、いじめはエスカレートし、マカラ様は…マカラ様が…あんなにたっっくましく!!」
おばあさんが泣き崩れた。ああ…うん。そういうこと。お義母さん。爆笑しないで。多分笑うとこじゃないから。
「あんなにばあやばあやと可愛らしくて天使だったのに、すっかりと悪だくみと悪戯が大好きになってしまわれて……こほん。脱線してしまいましたが、姉君達はマカラ様に毒を盛ったり、毒虫をけしかける等悪戯と申し上げるにはいささかやり過ぎておりました。確かに旦那様はマカラ様に寝床と食事だけは提供しておりました。そして、わたくしを与えました。ですが、それだけです。娘の誕生日に贈り物もせず、話したことすらない。いじめられても放置。そんな旦那様がマカラ様を愛しているだなんて…ありえませんわ!!」
おばあさんが言い切った。そして、だんだん腹が立ってきたらしい。
「そもそもお嬢様がたまったま超絶たっっくましいからどうにかなっただけで、普通のご令嬢だったら自殺していてもおかしくありませんわ!奥様は気にかけておいででしたが旦那様が邪魔をしてやがりました。常々最低だと思ってましたが、最低最悪ですわ!!」
「証人、落ち着いてください。つまり、証人は被告が血縁的に姪であるマカラ嬢を愛していないとおっしゃるのですな」
「はい!!おまけに、わたくしをお嬢様の世話係から外しやがりまして、お嬢様をいじめていた使用人をあてがいましたのよ!?まあ、お嬢様が全力でいびり倒したのでわたくしに戻りましたから、よしといたしましたけど」
マカラちゃんがこうなったのは、間違いなくあのおばあさんが関与している気がする。
「ばあや…」
「マカラちゃん、後でばあやさんを呼んで夕食会しようか」
「流石は私のリヒャルトね!祝勝会しましょう」
「そうだね」
そんな会話をしていた僕らをにらみつける男。お前の身勝手でマカラちゃんは傷ついていた。ばあやさんが知っていたかはわからないけど、彼女は確かに傷ついて泣いていた時期があるのだ。やり返せていたって、傷つかないわけじゃないんだ。
「デタラメだ!その女も私を陥れようとしているんだ!!」
「では、貴方は愛する娘の誕生日が言えて?」
「……………は?」
お義母さんが艶然と微笑んだ。
「言えるわよね?愛しているなら、当然、言えるわよね」
「くっ……」
男が告げたのは、お義母さんの誕生日だった。
「嘘つき。まあ、言えないのはわかりきっていたけどね。私もばあやから聞いていたわ。あのクソガキ共を蹴散らせる方法を教えたのは私よ。あの子に一度も誕生日プレゼントをあげたこと、なかったわよね。姉達と違って何もねだらないから」
男が俯いた。そこは否定できないらしい。
「ふむ…悲しいことですが、被告は血縁上姪であるマカラ嬢に愛情がなかった。さらに育児放棄していた事が立証されました。ところで気になっていたのですが、被告の妻、マスラ殿はその…不倫をされていた、ということでよろしいのですか?」
「いいえ。私は愛する男以外に身体を許したりしない。結婚前から孕んでいたのよ。多分ね」
「そして結婚後に出産…ですか」
「ええ。まあ、結婚後も色々シテ…もが」
お義父さんが慌ててお義母さんの口を塞ぐが、時すでに遅し。法廷が静まりかえってしまった。赤裸々すぎる!マカラちゃんがマイペースにそうと知らず、男を実父と思わされたと話した。
「違う!マカラは私の実の娘だ!私の娘なんだ!私とマスラは愛し合っているんだ!!」
「だから、最初からあんたなんて嫌いだってば。キモい」
「照れているんだね?ああ、マスラは今日も美しい」
本気で気持ち悪がっているらしく、口が達者なお義母さんが黙った。ものすごく嫌そうだ。話が通じなさすぎる。必死で男との夫婦関係が最初から破綻していたと訴えるが、男はあくまでそれを照れかくしだと主張する。
「ふむ…しかし、マスラ殿と被告は実際婚姻関係にあり、マカラ嬢が生まれたのは婚姻後。マスラ殿の証言だけでは弱いですな。騎士側、何か意見はありますか?」
「司法官長!血縁に関しては、証明するすべがあります!!」
空気を変えようと慌てて挙手した。
「なんと!どのような方法ですかな?」
僕は新作の魔具を説明した。この魔具は、血縁関係かを判別してくれる。青は親子または一卵性の双子、緑は兄弟。黄色は従兄弟や叔父叔母、甥姪などの親族。赤は他人。現在、的中率は100%。ほぼ確実だ。
「実際にやってみましょう。マカラちゃん」
「ええ」
マカラちゃんが魔具のカプセルに一滴血をたらす。
「もう片方のカプセルに被告の血を入れれば、誰が彼女の父かがわかります」
「よかろう。マカラは私の娘…そう、私の娘なのだ」
男は本気でそう信じているのがわかった。だが、マカラちゃんはこの男の娘ではない。魔具は黄色に輝く。
「黄色はなんでしたかな?」
「黄色は親族。血の繋がりはありますが、親子ではありません」
「なるほど。つまり、彼女が被告の娘ではなく親族であることが証明されたのですね」
「では、おと…マシューさん」
「ああ」
お義父さんがカプセルに血をたらす。魔具にセットすると、青く輝いた。
「青は近親者。つまり、両親か一卵性双生児です。ちなみに兄弟は緑になります。片親が違っても同様の結果を得ました」
「なんと…これはまたスゴいですなぁ。是非我が国にも導入したいものです。さて、これでマカラ殿が被告の娘ではないことが証明されました」
「違う!違う違う違う違う違う違う!!マカラは私とマスラの愛の結晶だ!兄の子供ではない!!違う!!違う!!そいつが作った玩具なんだ、いくらでも偽れる!!」
「なるほど。確かに証人と被告の間には確執があります。その可能性は、ゼロではないでしょう」
「そ、そうだ!そいつが嘘を」
「ですから、検証いたしましょう。幸い、そちらの騎士殿はリヒャルト氏の弟君です。他にも血縁者はおりますかな?この場で『この魔具に不正があるか否か』について検証いたしましょう」
司法官長は公正な人だった。適当だなんて思ってごめんなさい。当然僕の魔具に不正なんてなく、この魔具は問題ないことが立証された。




