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あなたからは逃げられない4

「おい、レナから離れろ。お前は誰だ」


 ジーンは聞いたことのないくらい低い声を出してリーフを睨みつける。

 私から身を離したリーフは、そんな睨みにも動じず冷ややかな目をジーンに向けた。


「それはこっちのセリフだよ。お前は誰だ? レナマリア姉様のなんだ?」

「レナ……マリア?」


 ジーンが困惑の表情を私に向ける。

 私は自分の心が冷えるのを感じた。

 それと同時にジーンの顔を見られなくて目を逸らす。


 いつか言わねばと思っていたし、言いたいとも思っていた。

 でも、それはこんな形ではない。


 視界に映るリーフの口元が上がる。

 ああ、リーフはあえてその名を口にして試したのだ。

 そして目論見通りにいって喜んでいる。


 私の弟は私によく懐いてくれているけれど、本性はこうだ。

 自身の持つ属性に違わぬような、薄暗い内面を持つ。

 狡猾で人を苦しめることを好む。

 これが弟の本当の姿だ。


「ああ、可哀想な姉様。それもこれも、父様が姉様を勘当なんてするからだ。でも、安心して、姉様。もうすぐ迎えがいくからね」

「迎え……?」


 恐ろしい言葉を聞いた気がする。

 迎えって誰を?誰が?どうやって?

 ──どこへ連れて行くの?


「おい」


 ぐいっと肩が掴まれて私はリーフから一歩遠ざかる。

 私を庇うようにして立つのは怖い顔をしたジーンだ。


「レナに手を出すな」

「はっ、邪魔者はお前だ武人。俺と姉様の仲を邪魔するな」

「こんな顔をさせて、仲がいいとはとても思えないけどな」


 ジーンが気遣わしげに私を見る。

 いつの間にか私は強張った顔をしていたらしい。


「ありがとうジーン……でも、大丈夫」


 私は一歩前に出てジーンと並んで立つ。

 そうして見たリーフの顔はひどく歪んでいる。


「だから僕は反対だったんだ。姉様を勘当するなんて……。愚かだ、本当に愚かだよ父様は」


 そう毒を吐き出すように言うリーフの姿は別れた時と何も変わっていない。

 リーフは昔から私と自分のことしか愛さない。


「父様が隠居なさったら僕のベリアル家に姉様を丁重に迎え入れることを約束するよ。その前に姉様はどこかに嫁ぐことになるんだろうけれど……姉様が望むなら、離縁して戻ってきてくれていいんだからね」

「ねえ、何の話をしているの、リーフ。もう私は勘当された身よ」

「さっき言ったでしょう? 状況が変わりつつあるんだ」

「状況が?」


 リーフが当たり前のように言うのは、私がまだベリアル家の人間だとでも言うようで、寒気がする。

 しかしそれをリーフはとても嬉しそうに言って微笑む。


「そうさ、もうすぐ姉様は僕達の元に帰ってこられる」

「……どういう理由で?」

「それは……姉様なら僕が教えなくても気がつくはずだよ。ヒントは僕が以前から伝えているし」

「…………」


 リーフが私に以前から伝えていることが私がベリアル家に戻ることと関係している?

 それはまさか──


「やっぱり離れても姉様は姉様だ。そういう聡いところが僕は大好きさ。世界で僕の理解と並び、時に超えることがあるのは姉様だけだからね。ああ、本当に父様や魔法省の人間は愚かだよ」


 リーフは頬を上気させて微笑む。

 女性的な美しさを持つリーフは、こうして笑顔を浮かべると狂気的な美しさが際立つ。


「付け加えるとしたら『血』さ。それできっと姉様は辿り着ける」


 血?

 それはベリアル家のことを言っているのだろうか。

 考え込む間もなくリーフは続けた。


「今日は邪魔がいるから、再会は今度ゆっくり、ね。楽しみにしているよ、姉様」


 リーフは綺麗な礼をして私の前から去ろうとする。

 私はそれをただ呆然と見ていることしかできない。


「あ、そうだ姉様。僕から一つ忠告」


 去ろうとしたリーフが私をくるりと振り返る。


「姉様がローレイラにしばらくいるつもりなら、気をつけて。ここには僕だけじゃなく、ミレーヌも来ているよ」

「……そう」


 想像はできたことだ。

 私が掠れた声を返すと、リーフは嬉しそうに笑う。


「姉様にはいらない忠告だったかな? 僕もまだローレイラにいるから、僕に何かできることがあれば支部にきて? 姉様の研究に役立つことなら助力は惜しまないよ。それじゃあね」


 そう言い残して、リーフは跳ねるように歩き去っていく。

 変わらないその幼い背中を、私はただしばらく眺めていた。


「……大丈夫か?」


 ジーンがそう言って私の顔を覗き込んできて我に返る。


「顔色が悪い。やっぱり無理矢理にでも引き離すべきだったか」


 ジーンはチッと舌打ちをして、リーフが去っていった通りを睨みつける。

 失われていた温度が、ジーンの声によって徐々に戻ってくる感じがした。


「……ごめんなさい」

「なんで謝る?」


 ジーンは苛立った表情のまま私を見る。


「……私のこと、ジーンには自分の口から話すつもりだったのに」

「レナが悪いんじゃない。あいつが悪いんだ」


 そう言ってから「レナの弟なのに悪く言ってすまないな」と、付け加えてくれるジーンに胸が温かくなった。

 ああ、この人はどこまでも優しい。

 ベリアル家になかった温かさがいつの間にかこんなに近くにある。


「……宿に戻りましょう。話したいの……私のこと」


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