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あなたからは逃げられない3

 初日の夜、ジーンは宣言通りソファで眠って、私はベッドで寝かせてもらったけれど、緊張からあまり眠れず朝を迎えた。

 ソファで眠ったジーンの方がゆっくり眠れたようで顔色がいい。

 まるで私がソファで眠り、ジーンがベッドで眠ったかのような差だ。


 そんなジーンと外で朝食をとり、店の前で向かい合う。


「それじゃあ俺はこれから魔法省に行ってくるが、レナは本当に一人で大丈夫か? 俺が戻るまで宿で休んでいたらどうだ?」

「一人で平気よ」


 そのやり取りをしたのはもう何度目だろうか。

 ジーンは私を慣れない街で一人にするのが不安らしい。

 私も大人なのだし、大丈夫だと言っても聞いてくれない。


「私も仕入れのために街を見て回りたいから」

「それなら俺が戻ってからでも……」

「もう、ジーンは意外と心配性なのね」


 言葉は荒々しく見た目も大雑把に見えるのに、その内面は優しくて細かいところがある。

 私は今まで何度も繰り返してきた言葉を続けた。


「ジーンはジーンのすべきことをして。私も自分の仕事をするから。昼にまたここで会いましょう?」

「だが……」

「ほら、早く行かないと時間がなくなっちゃう!」


 どこまでも渋るジーンの背をぐいぐいと押す。

 ジーンは観念したようで、私から一歩離れてこちらを向いた。


「じゃあさっさと行ってくる。何かあったらすぐに逃げて助けを求めるんだぞ?」

「もう、私は子供じゃないんだから」


 このままここにいるとまったく話が進まなさそうなので、私が先にジーンに背を向けて歩き出す。

 ひらひらと手を振りながら振り返ると、ジーンはまだ不安そうな顔をしながらも、一つ頷いて私から背を向けた。


 ジーンと別れた私は散策を始める。

 ダスカー雑貨店に新たに置く品物を見て回るのだ。


 ダスカー雑貨店に来る人たちはエバークラインの他の店では売っていないような珍しいものを求めている。

 私はローレイラの店が立ち並ぶエリアに向かって、珍しいものを探していく。


 食品を売る商店には魚の加工品が多く売っている。

 エバークラインよりローレイラの方が海に近いからだ。


 しかしそれでもまだ海に近いとは言えず、新鮮な魚はほとんど入ってこない。

 だから、日持ちするような加工を施した品物が売られているのだ。


 それらを仕入れられたらどんなにいいか、とも思うが、鼻を近づけてみると匂いがきつい。

 これを置いたら店の中が生臭くなってしまって、長居したくなくなってしまうだろう。


 そういう風に目ぼしい品物を見つけては断念する、ということを何度も続ける。

 魅力的でも値段が高すぎたり、大きすぎるものは躊躇ってしまう。

 ただでさえ狭い店内に長く置くことになる可能性が高いものや大きいものをおけば、他の品物を置けなくなるし、単純に邪魔だ。


 そうして何の成果を得られないまま時間だけがすぎていく。

 やってみて初めてわかったことだが、仕入れは思っていたよりも考えることが多くて難しい。

 お祖父ちゃんはこれをやっていたのだと思うと、改めて尊敬する。


 それに加えて、今回はお祖父ちゃん色に染まっているダスカー雑貨店に私の色を加えようと思っているのだ。

 私の色とはなんだろう。これからどういうお店にしていきたいんだろう。

 ──それをして、お祖父ちゃんは怒らないだろうか。


 そんなことを考えていると苦しくて、私は昼をまだ前にして疲れ切ってしまった。


(ちょっと休憩しようかな……)


 私は朝食を食べた飲食店が並ぶエリアに戻ることにする。

 ローレイラにはもうしばらく滞在する予定だ。

 急ぐ必要はない、と自分に言い聞かせながら。


 温かい飲み物と甘いものでも食べたい。

 そう思いながらどのお店に入ろうか悩んでいた時のことだった。


「……姉様?」


 その声を背中に聞いて、私の身体は一瞬で冷えて、固まる。

 勘違いであればいい。そんな私の願いは続けてかけられる声に打ち砕かれる。


「姉様、姉様ですよね!?」


 ポンと肩を掴まれて、私は観念して振り返った。

 そこには想像した通りの顔が私を見て目を輝かせている。


()()()()()姉様!!」

「……リーフ」


 人懐っこい笑顔を向けたリーフ、私の弟は少し背が伸びたようだが、その他は何も変わっていない。

 会うのは勘当されて以来、初めてのことだ。


「まさかこんなところでお会いできるなんて……ああ、レナマリア姉様」


 リーフはここが街の往来だということも気にしないように、私にぎゅっと抱きついてきた。


「ずっとお会いしたかった……! 何度会いたいと願ったことか!」


 リーフの黒髪がサラリと私の頬を撫でる。

 リーフは髪も目もしっかりとした黒。

 私と同じように前髪に一束銀髪があるけれど、私とはまったく違う強い属性と魔力。

 ──闇の魔法使い。


「……レナ!?」


 その時、今ここに一番現れてほしくない人の声が聞こえた。

 リーフが私の身体を離し、私もゆっくりと振り返る。


 そこには怖い顔をして立っているジーンの姿があった。


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