デスゴロク決着
「カハッ……ハッ……ハアッ……ゲホッ!」
うつ伏せに倒れ込んだ紫艶の前で、真道は立ち尽くしていた
あと一撃。たったそれだけでこのバトルに勝てる――にも関わらず真道は動かなかった
そうしている間にも紫艶は息を整え、起き上がって反撃に来るかもしれない
それでも真道は微動だにせず、ただじっと立ち尽くしていた
「どう、したの……よ……。まさか……まだ、やろう……ってわけ?」
この期に及んで『まだ遊び足りない』、『もっと楽しもうよ』とでも言うのだろうか
いつまでたってもトドメを刺してこない真道に疑問を持った紫艶はゆっくりと顔を上げていく
そして真道の顔を見た瞬間、その理由に納得した
「……あれ? 私また気を――ッ!!」
いつの間にか仰向けに寝転んでいたことを知り、体を起こそうとした瞬間全身に激痛が走った
「あー、目が覚めたのね。よかった……死んだんじゃないかと思ったわよ」
痛みに耐えながら声のする方へ首を動かすと、紫艶が隣に座っていた
「……終わっちゃったの?」
「そうね。私はボーナスでゴール、あなたはペナルティ3つでゲームセット」
バトルマスの勝敗は、真道の気絶により紫艶の勝利だった
紫艶が倒れ込んだ時、勝ちを確信した真道の心を満たしたのは達成感であった
ここまで戦い続けた疲労感。限界寸前のところで勝利出来た安心感。思う存分遊んだ満足感。やり切ったという達成感
その結果、今まで張り詰めていた緊張の糸が切れ、あと一手及ばずのところで気を失ってしまったのだ
これ以上の戦闘は不可能となりバトルマスは紫艶に軍配が上がった
だが勝利の余韻に浸っている余裕はない。バトルマスに勝ってもデスゴロクは終わってない
呼吸を整え立ち上がろうとするも力が入らず、四つん這いで自身のマスへ戻っていく
バトルマスに勝利したボーナスとしてサイコロを振る権利を与えられた紫艶は2を出し、無事ゴールへと辿り着いたのであった
「……そっかぁ。完敗だ」
事の顛末を聞いた真道は大きくため息をつく
「……楽しかったなぁ〜」
自身の開発したデスゴロクを最後まで遊ぶことができた。それだけで真道にとっては大きな喜びだった
「けどやっぱり……負けるのは悔しいなぁ……」
楽しく遊ぶことが目的だったが、もちろん勝つつもりでやった
それでも敗北したという事実が彼女に重くのしかかり、自然と涙が溢れ出す
紫艶は傍から離れることなく無言で見守り、室内には真道の泣き声だけが響いていた
「……ところで、先に進まなくていいの? もう部屋の鍵は開いたよ」
ひとしきり涙を流しようやく泣き止んだ真道は、紫艶がずっと部屋に留まっていたことに疑問を持った
あれだけ先へ先へと急いでいた彼女が何故、いつまでも進もうとしないのかが不思議で仕方なかった
「……そうしたいのはやまやまなんだけどね。まだ体に力が入らないのよ」
気絶こそしなかったものの、紫艶が負ったダメージも相当なものであった
バトルマスでの真道と同様に、デスゴロクで勝利した紫艶もまた、溜まった疲労により動けずにいたのだ
「ふーん……じゃあ足止めは成功って感じかな〜」
「そうね。試合に勝って勝負に負けるってのはこんな感じなのかしらね」
「……ねぇ」
「……なに?」
「また、さ……。一緒にデスゴロクやってくれる?」
「……二度とゴメンよ」
「……そっか」
「……次は普通に遊べるゲーム作りなさい。危なくないやつ。そしたらまた一緒に遊びましょう」
「…………うん!」
またいつか、一緒に遊ぶ日が来ると信じて
デスゴロク。笹江紫艶vs真道照乃
勝者。笹江紫艶(疲労のためしばし行動不能)
「真道も敗北か……。まぁあいつにとって課題の見つかった良い戦いだっただろう」
場面は移り宇良城最上階。真道の戦いを見届けた王子はまた違う部屋の戦闘を確認するため画面を眺めていた
現在時刻は10時30分。『愛の障害物競走』も既に半分が経過
ここまで順調に進む桜、優輝と永愛。そして虎太郎を抱えながらも次々敵を倒し快進撃を見せる幸助とクロ
劣勢に追い込まれる宇良隊の面々。王子の予定では既に半数以上を倒しているはずだった
「残り4人……想定していたより手強い。もし全員を相手するとなるとこの王子でも少々手こずるかもしれんな」
意外にも王子は冷静だった。幸助の復帰、歌輪の決意により一時は取り乱したものの、部下達の働きにより確実に敵戦力は削れている
仮に王子の元へ辿り着く者が現れようと、その時には体力を消耗し全力を出し切るなど不可能
「貴様らの実力は認めよう。だが戦いは数がものをいう。いくら個々の力が強かろうと、こう連戦を強いられてはいずれ力尽きる」
部下を1箇所に集中させて敵を叩くのではなく、各々専用の部屋を設けての連戦。王子がこのような回りくどい戦闘方式を取ったのには理由があった
王子の部下たちはどれもこれもクセのある面々。性格、個性、考え方も戦い方も全く異なる彼らが一同に会したところで発揮される実力はせいぜい7割程度
チームプレイが出来ないわけではないが、それが通用するのは並の相手くらい
だがそれぞれが思うまま戦える状況を用意すれば、部下達は持てる力を遺憾無く発揮してくれる
そうして弱った相手に王子がトドメを刺すことで、彼らは確実な勝利を手にすることが出来る
ゆっくり、じわじわと。あと何人倒せばいいのか先の見えないまま戦い続ける不安。そして限りある時間が焦燥感を掻き立てる
「卑怯だと罵るか? 好きにすればいい。戦いは最後まで立っていた者が勝者だ」
モニターの向こうで戦い続ける敵に語りかける。当然その声が届くことはなく、歌輪とそして誰よりも先にこの部屋に辿り着いた彼女だけがその言葉を聞くことになる
「部下に戦わせて高みの見物とか、いいご身分だな王子様よぉ」
「……天里か。何故ここにいる」
王子が通信機で呼び出した人物は天里秤であった。乱れた息と髪を整えながら王子の側へと歩み寄る
「何故って、お前が呼んだんだろうが」
「そうじゃない。どうやってこの部屋に入ったのかと聞いているんだ」
王子が居る部屋の出入口はモニター付近の1箇所のみ。扉が動けば確実に分かるはずだがその形跡は見られない
「どうやってって……そっからだけど」
秤は自身の後方にある窓を指さした。王子がその先を目で追うと、窓ガラスが割れておりそこから風が吹き込んでいた
「…………そうか。わざわざご苦労だったな」
息も髪も乱れていたのは城の外壁を登ってきたからだった
納得こそすれ理解は出来ないが、理由を尋ねたところで『正面から行くのが面倒だった』と返されるのは目に見えていたので王子は追求を止めた
「やっぱりあいつら来たのか。……お、あいつはたしか……」
モニターを眺めた秤は1人の人物を目に留めた
「どうした。何か気になるか?」
「まぁな。少し懐かしい顔がいたから行ってくるわ」
「おい待て。貴様には然るべき場所で――」
王子の話も聞かず秤は出ていってしまった。残された王子と歌輪の間に微妙な空気が流れる
「なにもかも……予定通りにはいかないものだな」
王子はため息をつきながらそう言って再びモニターの監視に戻った




