4.ギフト
「ところでこちらに来て新しいことができるというのはどのような形でできるの?」
隆一としては招かれ人の社会的地位とこの世界の神について色々ともっと聞きたいことがあったのだが、どうやら煌姫は招かれ人の社会的地位や政治的権力にさして興味がないようだ。
まあ、元々恵まれた立場に生まれたのにアクセサリーを作るために全てそれを捨ててしまいたいなんて考えていた人間なのだ。
権力や社会的地位への執着は一般人よりも更に低いのだろう。
ヒュゲリアがクッションの上に安置してあった水晶を煌姫の方に押し出した。
「こちらはギフトとスキルを見ることができる神具です。
手を重ねますと紙のような物が現れますのでそこに記してある内容を写し取ってください」
水晶に手を乗せたらギフトやらスキルが分かるなんて、一気にファンタジーになったと隆一は密かにちょっとわくわくしてきた。
もっとも、『ギフト』と『スキル』が何を意味するのか後で確認しておく方が良いだろうが。
ラノベやファンタジー的なイメージで考えている理解が正しいか確認しないと思いがけない落とし穴があるかもしれない。
そんなことを隆一が考えながら煌姫が水晶に手を乗せるのを見ていたら、パアっと光が生じたと思ったら突然煌姫の目の前あたりの宙に紙が現れた。
ファンタジーである。
紙がどこからともなく現れた。
どう考えても科学的に説明が出来ない。
まあ、これがラスベガスのマジックショーだったりしたら『光った瞬間に何かやったのだろう』と種を探しただろうが。
ラノベだと本人にしか見えないステータスボードがメジャーだが、どうやらこの世界ではステータスボードというのは無いようだ。
「ギフト:装飾士、スキル:加工、鑑定、抽出・・・?」
それを読み上げた煌姫が首を傾げた。
煌姫が嫌がったらやめようと思いつつ隆一が体を寄せて覗き込んで見たところ、本当にそれしか書いてない。
本当にギフトとスキルしか書いていないようだ。
HPとかMPとか、良くある攻撃力、防御、魔力、器用さ、運とかいったそういうパラメターは無いらしい。
無いというか、見えないというべきか。
「ギフトとはその人間の才能の方向性のような物です。
煌姫殿は装飾品を造るのに向いているということでしょう」
ヒュゲリアが何の表情の変化も示さずに説明した。
煌姫はヒュゲリアの言葉を聞いて納得して満足げにうなずいているが、ヒュゲリアにとっては全てを捨ててこちらに来た招かれ人がやりたかった事が装飾品づくりだと言うのはちょっと想定外だったのかも知れない。
あまり社会の役に立つ職業でもないし、神殿にとっては投資に見合わない案件だというところか。
装飾品に妙な付加が出来るなんていうことでない限り、煌姫の才能はこの世界にとって大きく文明を進めるようなものではない。
それでも現代日本で一流のデザインに触れてきた煌姫の作る装飾品なら高額で売れるだろうから、それ程時間はかからないでも自活できるようになるだろうが。
(今までの招かれ人のギフトがどんなものだったのかを調べてみたいところだな)
趣味に走ったギフトが多いのか、それともこの世界に有益そうなギフトに偏っているのか。
もしも有用な方向に偏っていたとしたら、薬の開発というのがどの世界でも重要性が高い可能性が大きいことを考えると・・・煌姫は隆一の『ついで』だったのかもしれない。
「スキルは本人が行うことが出来る技術です。
通常ですと練習して習熟度が上がってきてスキルとして認識されるだけで、スキルを得たことで習熟度が上がったり習熟の速度が上がったりする訳ではありませんので、採用試験の際に能力の証明に利用される程度ですね。
ただ、招かれ人の場合はこちらへ来ることへの報酬という場合もあるので、元から持っていた技能だけでなく、望みをかなえるために必要なスキルを神から与えられることもあります」
つまり、スキルがあったところで通常は別に追加的な特典は無いのだろう。
ラノベなどではスキルをゲットしたことで一気に能力が上がるような場合が多いが、こちらでは既に有する能力を世界(か神)が追認した事実が『スキル』という形で見えるだけのようだ。
・・・だったら一体何故スキルなんて存在するのだろう?
イマイチ意味がないように思える。
「このギフトとスキルが分かる神具は一般の人々も使えるのだろうか?」
それとも招かれ人の為に特別に与えられた神具なのか?
ヒュゲリアが頷いた。
「元は招かれ人の為に神から賜った神具ですが、ギフトに関しては一般の人の素質の見極めにも役に立ちますので、全ての民が神殿で確認することが出来ます。
スキルはお布施を頂いたら証明書を発行することも可能です」
・・・招かれ人用に神から渡された物をついでに一般の人用に活用しているという感じか。
全世界でも数十年に一度、一つの国では百年に一度程度しか召喚されないのだったら、神具を神殿の奥深くに眠らせておくよりはずっと建設的だろうが・・・これが日本だったらどれほど活用されなくても絶対に一般人用に普段使いされることは無いだろう。
中々この世界の人々はたくましいらしい。
煌姫の『ギフト』はまだしも、『スキル』として『加工』やら『抽出』やら『鑑定』が出てきたということは、これは神に与えられたこっちに来た報酬ということなのだろう。
「ちなみに、生命力や魔力、力や器用さのような身体能力を測るような神具なり魔道具はあるのだろうか?」
あったら面白そうなのだが。
研究者としては、普通の一般人と招かれ人の成長率の違いというのも実際に数値を測定しながら確認してみたい。
ヒュゲリアが首を横に振った。
「残念ながら、そういったものはございません。
招かれ人の中でもそういった魔道具を希望する方の何人かが開発にかなりのエネルギーを費やしたようですが、握力や背筋力や持久力を測定してそこから推定するような方程式は作られましたものの、単に触れるだけでそういった能力を測る魔道具は発明出来ておりません。
神具に関しても、現時点ではないですね」
「現時点では?」
定期的に神託を下して異世界から人を呼ばせる世界だ。
神具もちょくちょく現れるのだろうか?
まあ、このギフトとスキルを測定する神具だってそこそこいきわたっているようなので、少なくとも全ての国に神具が神から与えられているようだ。
「この世界には迷宮が複数あります。
その中の宝箱から時折新しい神具が見つかることがありますし、最下層部まで行ってダンジョンマスターに勝利した場合、神に願い事が出来るのでその際にリクエストすることも可能でしょう」
まあ、そんな阿呆なリクエストをする人間はいないだろうけど、とヒュゲリアの顔は語っていた。
迷宮があると言うのもますますラノベチックで興味深いが、それを攻略したら神に個人的にお願い事が出来るとは、なんとも・・・異世界な話だ。
確かに常識的に考えると、そこまで努力して神に会って『ステータス測定器が欲しい』とは言わないだろう。
「隆一も試してみたら?」
隆一の質問に飽きてきたらしき煌姫が神具を押してきた。
まあ、どう考えても煌姫は迷宮に潜ったりはしないだろうから、そういうラノベチックな活動に関する情報収集はここでする必要はないだろう。
どうせ世話役をつけられるようだし。
そう考えたらここで迷宮やステータスの話題を掘り下げるのは煌姫に対して失礼だろう。
そう考えて、隆一は言われた通りに神具に手を伸ばした。
何かが体を貫いたような気がしたと思ったら、水晶が光り、隆一の前に紙が現れた。
「ギフト:錬金術師(医療特化)、スキル:回復、抽出、加工、鑑定」
錬金術師というのはちょっと意外だった。
もっと『研究者』とか『薬師』というようなジョブ・・・というかギフトが出ると思っていたのだが、この世界ではそれに対応する職業が錬金術師なのだろうか?
しかも回復なんぞというスキルが付くと言うのも想定外だったが・・・まあ、薬の効果とか病気の状態を確認するのに必要なのかも知れない。
スキルの内容が煌姫と似通っているのがちょっと不思議だったが。
「私は元の世界では治療薬の開発に従事していたのだが、この世界ではそう言った薬の調合や開発は錬金術師が行うのか?
あと、煌姫と俺ではやりたいことが大分違うはずなのに、スキルがかなり重複しているのは意外なのだが・・・」
対象が違っていても『加工』や『抽出』は名前が同じになるのか?
この『加工』や『抽出』がどのように機能するか自体も知りたいところだが。
ラノベ的な考え方だと魔力を使って手をかざすだけで欲しい成分が抽出できるとか、対象物の形や状態に変化を加えられるというような能力になるのだろうが・・・。
「どちらも対象物の状態を確認し、必要な成分を抜き出し、変化を加える能力ですので名前は同じですが、煌姫殿の場合は装飾品に使うような鉱物系にスキルが使いやすいように感じられると思います。
錬金術師の場合は全般的に全ての物を扱えるのですが・・・『医療特化』ですと確かに製薬関係で特に能力が使いやすいのかもしれませんね」
ヒュゲリアの回答は隆一の想像に近かった。
「明日から社会全般の常識などをお教えする予定なのですが、それを午前中に行い、午後からギフトとスキルの習熟の手伝いが出来るよう、適切な人員を手配しておきます」
明日から早速職業訓練も出来るとは中々初期対応が早い。
まあ、召喚儀式を行うことは前もって分かっていたのだ。
全ての職業ギルドにも招かれ人のギフトによって手伝いの人をよこせるように手配しておけと前もって通告はしてあっても当然か。
久しぶりにちょっとわくわくしてきたかも知れない。
手をかざすだけで鉱物とか植物を加工出来たら便利ですよね~




