1302. ちょっと方向転換(5)
「風狼の攻撃を打ち消すって?」
確かに風矢か水球でも風狼の鎌鼬にきっちりぶつけられたら打ち消せるとは思うが、あちらは口を開いて魔力を吐き出せば出てくる(多分)のに対し、隆一はそれなりに集中して魔力を術にしなければならないのだ。
今はかなり早く放てるようになったとは言え、見えない攻撃に当てる必要もあることも考えると、かなり厳しい。
「魔力をしっかり視ていれば、風狼の鎌鼬も軌道が分かるだろう?
それに魔力をぶつければいいんだ。
術の形にまでしなくても大丈夫だから、あの程度だったら自分から1、2メートルぐらいの所でぶつけられればほぼ傷を負わなくなるぞ」
デヴリンが更に説明する。
「術にしないで魔力を放出するのか」
魔力や術を使う能力を後付けで貰った隆一は、あまり魔力を動かすのは得意ではなかった。
なので最初の頃も魔力を動かすのを覚えてそれを術にしたのではなく、術の呪文を教わってそれを唱えれば勝手に引き出される魔力の流れを覚えて、術の名前だけ、更には無詠唱で何とか術を出せるようになったのだ。
まあ、今でも無詠唱だと術の形成が緩くなって効果が落ちるので、基本的に術の名前を口にして攻撃魔術を放っているが。
だが。
確かにそろそろ慣れれば魔力をばっと放てるかも?
術の効果を上げるために魔力を練り上げるのにも慣れてきたのだ。
あれだってある意味魔力を術の形にしないで放つ前段階みたいなものと言えなくもない。
「魔力を素早く狙った方向に放てるようになるのと、鎌鼬を魔力の流れでちゃんと見極めてそれに魔力をぶつけられるようになるのと、二段階の成長が必要そうだな」
確かに相手の術に魔力をぶつけて無効化するなんて、熟練魔術師っぽくて格好いいが。
「魔術師に襲われそうになった場合だって、街中だったりしたらこちらが術を放つのは躊躇われる場合もあるだろう?
取り敢えず魔力をぶつけて術を打ち消せれば、他の人間がそいつを倒してくれる可能性もあるし、身に付けて損はない防衛手段だよ」
ダルディールも頷きながら付け足す。
確かに、街中で何やら物騒な感じな人間が魔力を練ってこっちに近づいてくるなりこっちを見ているのに気が付いても、流石に攻撃魔術をそちらに対して放つのには躊躇するから対処が出遅れる可能性は高い。
しかも周囲に居る人間に攻撃が当たってしまっては損害賠償ものなやらかしになるし。
魔力をぶつけるだけだったら被害もそれほどでないだろうし、とっさに素早く行動もできそうだ。
「う~ん、取り敢えず、練習してみるか」
暇だし。
身に付けて損はない技術だろう。
「よし!
じゃあ、次に会う風狼の群れを最後の二体ぐらいまで間引いて、一体は気絶させておいてもう一体にガンガン攻撃させて、それを頑張って打ち消せばいいな。
外れたらダルディールが代わりに受けるということで」
機嫌よさげに頷きながらデヴリンが言った。
20階に行くのがそれだけ嫌だったのか、隆一の鍛錬を長引かせて迷宮に来る日数を減らしたくなかったのか。
微妙に不明だが、あまり深く考えないでおくことにした隆一だった。
という事で、次の風狼の群れのいるテリトリーまで進み……デヴリンが群れの中に突っ込んでいった。
今までは隆一が足止め用魔道具やダルディールの守りを活用して一体ずつ倒していたのでそれなりに時間が掛っていた。それなりに慣れてきて手早くなったと思っていたのだが……デヴリンが小走りして先に群れの中に入ったと思ったら、隆一が辿り着く前に殆どの風狼は地面に倒れていた。殲滅速度が違いすぎる。これだけの腕があっても攻略できないのだから、如何に大型迷宮攻略が不可能に近いのか想像できてしまう。
風狼は一体を除いて全部地面に倒れている。
一体は右足が変な方向に曲がっていて上手く動けないようで、弱っちい隆一が現れてデヴリンが引っ込んだのを見て、唸りながら隆一の方へ顔を向けた。
「は!」
風狼がちょっと喉を逸らすような感じに口を開けたのを見て、魔力を放ってみたがどうやらタイミングが合っていなかったらしい。
次の瞬間に魔力の塊が風狼の口から飛び出し、それは隆一の魔力にかすりもせずに隆一の方へ飛んできて、差し出されたダルディールの盾に当たって消えた。
「ちゃんと魔力の動きを見ないとだぞ~」
デヴリンがノンビリと指示する。
どうやら先は長そうだ。
よく見たら、地面に転がっている風狼の内の一体はまだ生きているので、あれは気絶させて次の鍛錬用としてキープしてあるのだろう。
頑張って、まずは何とか口の開け方ではなく魔力の動きで鎌鼬の軌道を見極められるようにならないと。
いきなりハードルが上がった?!




