1301. ちょっと方向転換(4)
「ちなみに風狼の鎌鼬っぽい攻撃ってダルディールがあっさり盾で止めてくれているが、あれって中堅ぐらいの探索者で出来ることなのか?」
色々と装飾や素材について話し合い、やっと隆一の許容範囲内に抑え込んだ防具のデザインに合意してオーダーを出してから既に1カ月経った。
大体あのクラスの防具はオーダーメイドで2カ月から半年かかるそうなので、あと1カ月で完成と言うのはかなり急いでくれている方なのだろう。
その間に隆一は19階で只管風狼の群れと氷蛇相手に戦ってきた。
氷蛇の方は単体なので今では先に見つけて火矢でほぼ問題なく倒せるようになった。
風狼の方は足止め用魔道具で突進を止めても横たわったまま隆一の方へ鎌鼬を飛ばしてくることがあるので、それは基本的にダルディールに止めて貰っている。
流石に群れで来る風狼に一度も攻撃させずに全部倒すのは無理だし、放たれた鎌鼬を全て避けるのは隆一には無理だ。
つまり、盾役なしでは隆一は風狼の群れに襲われたら死ぬ。
まあ、アーミーアントの群れだって倒し切るのに盾役が必要なのに違いはないが。
ただ、物理で来るアーミーアントに比べ、風狼の方が盾役に対する難易度が高いように思われて、隆一は尋ねてみたのだ。
「中堅の上の方な腕で、それなりに良い盾を持っていればってとこかな?
魔防の高い盾じゃないと何回か鎌鼬を受けたら盾が破損するし、勘が良いかそれなりに技術力がある盾役じゃないとどこに攻撃が来るか分からないからね」
ダルディールがちょっと首を傾げて考えてから応じた。
「まあ、19階まで来るのは中堅だとしたら一流一歩手前ぐらいの腕前な人間なんだ。
そんなパーティの盾役だったらそれなりに良い防具を持って、そのくらい出来て当然だぞ」
デヴリンが付け足す。
なるほど。
どんどん下層に行くのに、いつまでも中層ぐらいの探索者がパートナーになっているという想定で隆一ダルディールたちが居なくても生き残れるかを考えることが間違っているようだ。
「ちなみに、フリオスが19階に来た場合も、やはり範囲魔術でガツンと一発って感じになるのか?」
風狼は魔術耐性がそれなりに高いのか、隆一の攻撃も氷矢ではなく氷槍を必要としている。
これの範囲攻撃となったらかなりの魔力を要しそうだが。
「そうだな。
まあ、騎士団で来た場合は19階なら近接職の騎士が物理で倒すことの方が多いな。
近接職の防具だったら風狼の攻撃が1、2発当たってもどうという事はないから」
デヴリンが言った。
「騎士団の装備はあのド派手な防具と同じぐらいな強度があるのか?」
出来ればあれを着て王都迷宮に入るところは目撃されたくないのだが。
でも今使っている防具よりも数段階強度が高いなら、少なくとも25階に行く時はあれを着るべきだろう。
どれだけ嫌でも。
「だな。
あの牙や爪にもそれなりに魔防効果があるんだ。見た目はアレだが、あの防具は騎士団のフルプレートアーマーと同程度の効果はある筈だぞ?」
苦笑しながらデヴリンが応じる。
どうやらあのデザインはデヴリンでもどうかと思っているらしい。
「と言うか。
考えてみたら、デヴリンの本気用の防具ってあのドラゴン皮のみたいなやつなのか?」
ペルワッツ迷宮を攻略しようとした時の防具なんかは、その前に倒したドラゴンやその他最下層の魔物の素材を使っていると思われる。
「一番高かった奴はそうだな。
あれは最後の攻略の時にかなりボロボロになったからもう使い物にならんが。
今残っているのは後から作った奴だからもうワンランク低い感じかな。王都迷宮の28階ぐらいまでなら何とかなるが、迷宮の攻略自体は無理だ」
デヴリンが肩を竦めながら言った。
そういえば、王都迷宮の攻略は禁じられている。それこそ、攻略なんぞしたら、下手をしたら国から首に賞金をかけられるレベルだ。
なのでデヴリンはそれより上の階層で宝箱からエリクサーが出てくることを期待して休みのたびに探索していたのだが、攻略できるレベルの防具を態々作らせなかったのだろう。
ペルワッツ迷宮の攻略を断念したのに、それに必要なレベルの防具を作る意味はない。
「取り敢えず。
盾役が風狼の鎌鼬を止めてくれるなら何とか群れを倒せるレベルにはなったと思う。
もうそろそろ次の階層に行っても良いかな?」
まだあと1カ月もある。
ずっと風狼を倒し続けるのはそろそろ飽きてきた。
「う~ん、どうせだったら風狼の攻撃を打ち消せるようにならないか、頑張ってみたらどうだ?
もしも魔術師と戦う羽目になった場合に、役に立つぞ?」
デヴリンが提案した。
とうとう対人戦闘も考慮した鍛錬か?!




