1299. ちょっと方向転換(2)
いい加減、テリトリーが決まっていて出てくる魔物の脅威度もかっちりと定義されている迷宮での探索に飽きた隆一が未攻略な迷宮(例えばペルワッツ迷宮!)へ行きたいと駄々をこねた後、数週間程かけて軍と探索者ギルドと王宮とで話し合いが行われた。
その間隆一は19階へ降りて風狼の群れと氷蛇を倒す鍛錬を繰り返していた。
エルダートレントは元より斧で倒すのが定番な魔物なので、スルーしている。
一応サンプルはゲットして鑑定して何か面白い機能が無いか確かめてみたが、エルダートレントよりは氷蛇が冷たくても動ける仕組みに貢献していると思われる血液の成分の方が隆一にとっては面白かった。
だが車がある世界だったら冷却する液体が凍らないように使う不凍液の改善に役に立ったかもしれないが、何分この世界は冷却液と言うもの自体が存在しないし使われていない。なので残念ながらイマイチ使い道は思い当たらない素材だった。
何といっても車が無いし、冷蔵庫も冷却液ではなく魔法陣で冷やしているのだ。
不凍液の需要はない。
それに対し、風狼は口から風の刃を飛ばすので、その仕組みを扇風機にでも使えないかとも思ったが、口の奥の魔法陣そのものは使うと出てくるのが鎌鼬っぽくなるし、それを緩めてただの風にすると普通の送風用の魔法陣より効率が落ちるのでこちらも用途が限られていた。
で。
今日は第二騎士団に関係者一同があつまり、隆一と比較的親しいという事でフリオスが代表として説明している。
「ペルワッツ迷宮に行きたいという話ですが、取り敢えず1階から3階までのみ、そしてデヴリンとダルディール殿という超一流な探索者が護衛してもおかしくない身分であるという想定にするために、貴族っぽい服を着てもらいます」
フリオスが言った。
どうやら『招かれ人』であることを前面に出して暗殺を防ぐのではなく、『高位貴族である』と偽装して寄って来る有象無象を威嚇する線で行くらしい。
「貴族っぽい服?
迷宮内でそんなのを着て戦うのは不味くないか?」
隆一としては、貴族と言うのはフリフリなレース付きの絹布の服を着ているようなイメージがある。
まあ、デヴリンやダルディールだって下位貴族だという話なので、ちょっと大げさ過ぎるかもだが。
「貴族だって普通に迷宮に入るんだぞ?
流石にフリル付きの絹なんて探索では着ないよ。
貴族の装備って言うのは行く階層に相応ではない程に防御力が高く、デザイン性に拘った防具って感じだな」
デヴリンが隆一に答えた。
なるほど。
ある意味、ベテランや高位探索者だって高級な防具を身に付けているが、そんな連中は迷宮の上層にはいないし、何らかの理由でいるとしたらそれこそ普段着でぶらつく可能性が高い。
そんな階層で高級な防具を身に付けていたら貴族だと思われるのか。
ついでに防御力にプラスしてデザイン性を求めるのも貴族しかやらない贅沢なのだろう。
「ちなみにそういう防具って既にあるかな?」
現在の隆一が使っている防具は騎士団の軽装用防具を流用してもらったものにちょっと自分で手を加えただけの装備だ。デザイン性は重視されていない。
「上の兄弟の防具を使う羽目になる貧乏貴族ならまだしも、高位貴族だったら防具も服と同じでオーダーメイドだよ。
貴族用のデザインがお洒落だと有名なところを紹介するよ」
にっこり笑いながらダルディールが言った。
軍人なフリオスよりも、探索者ギルドのダルディールの方がオーダーメイドを扱う防具メーカーには伝手があるらしい。
まあ、軍の上層部からの紹介を断る防具メーカーは王都にいないだろうが。
「へいへい。
ちなみに、これって作るのにどのくらい時間が掛るのかな?」
隆一が溜息を飲み込んで尋ねる。
元々、ちょっと無理気味な我儘を言っている自覚はあるのだ。
これで条件である貴族っぽい防具を作るのを待てないなんてごねたら、『だったら王都迷宮で良いじゃないか』と言われるだろう。
隆一としてはペルワッツ迷宮に行くのを許されるよりも、どこか新しくできた迷宮に行かせて貰うことになるかと思っていたのだが、どうやらまだ新しい迷宮は発生していないのか、育つのを待っている迷宮を隆一に知られたくないかのどちらからしい。
隆一だって軍が見つけた迷宮を勝手に攻略してしまうつもりはないのだが。
とは言え。
中型ぐらいでダンジョンマスターがいる迷宮に出会えたら、色々と聞いてみたい質問はあるのでついうっかり頑張ってしまう可能性は否定できないが。
「取り敢えず。
じゃあ、まずは採寸かな?」
デザインとかはメーカーに任せられると期待したい隆一だった。
デザインにも自分の好みを表明しないと後悔することになるかも〜?




