1298. ちょっと方向転換
「なあ、ちょっと暫くやり方を変えたい。完全に魔物のテリトリーと出てくる魔物が決まっている王都迷宮ではなく、色々と変化がありうる未攻略な迷宮の上層から中層辺りでしばし鍛錬しちゃだめかな?」
なんとかアーミーアントの群れを倒しきった隆一が、ふうっと地面に座り込みながらデヴリンとダルディールに尋ねた。
1カ月近く掛ったが、やっとちょっとした岩場っぽい障害物として設置型足止め用魔道具を何個か予め設置した状況で、アーミーアントの群れを一人で倒しきれるようになった。
今でも横から接近された時にダルディールに一時的に守ってもらうことはあるが、中堅探索者の盾役程度の働きで済んでいると護衛役の二人にも言われている。これなら実際に外でアーミーアントの群れと遭遇しても、岩場や大木などを障害物として使えば隆一と中堅どころな近距離戦闘役がいる程度でなんとか生き残れるぐらいになっただろう。
多分。
という事で19階に行ってもいいかと言う感じなのだが……。
出てくる範囲も魔物もすべて分かっている、リスクが既にきっちり定義づけされている状況での戦闘に隆一はちょっと飽き初めていた。
「……ペルワッツに行きたいのか?」
デヴリンが渋い顔をしながら聞き返した。
「まあ、それなりの頻度で新しい迷宮が小型なら発生するっていうならヴァサール王国内を飛び回って新規迷宮を探して、発見した小型迷宮を探索するんでも良いが」
と言うか、そういう探索は軍の方で定期的にやっているのではないだろうか?
発生したばかりの小型迷宮では下級エリクサーを得られない場合もあるらしいので、見つけたとしても直ぐには潰さずに、それなりに魔素をためこむまで待っている可能性もありそうだ。
「ペルワッツの上層だったら魔物はそれ程危険性はないし、情報もほぼ出そろっていると思うが……何分他国の探索者やイマイチ柄の悪い人間もいるからなぁ。
魔物ではなく、人間に対しての安全性の確保が難しいかも?」
ダルディールが難しい顔をして指摘する。
以前他の迷宮に行ったときは隆一が入る階層を実質封鎖していたが、流石に迷宮攻略を目指して国内外の探索者が多数入っているペルワッツを上層階であろうと封鎖するのは難しいのだろう。
と言うか、上層階はその近郊の貧しい人間の生活の糧になっているので、隆一の為に封鎖するとなったらちゃんと補償しないと餓死する人間が出てきかねず、更なる治安の悪化を招きかねない。
かと言って、理由を明らかにせずに突然貧困層に迷宮に入るのを禁じて代わりに金を払うのもあまり好ましい行動ではないだろう。
「デヴリンやダルディールだったら、それなりに腕利きな人間って見たら分かるんだろ?
だとしたら、そんなのが迷宮の上層階をウロウロしていたら俺を狙っているのかなってことでちょっと拘束して誰に依頼されたのか、尋問してみたらどうだ?
中層に行くのは諦めて、上層だけにするからさ」
隆一が提案する。
腕が良い人間が明らかに難易度が合っていない上層階をうろついていたからと言って投獄するのは流石に無理だろうが、一時的に拘束して自白剤を飲ませる程度ならば許されるのではないだろうか?
なんだったら、隆一が尋問が終わった後に自白剤の副作用をきっちり治療して消し去る役目を果たしてもいい。
多少のリスクを冒すぐらいのことをしないと、いい加減毎日のスリルが足りなすぎる。
「う~ん……。
ちょっと探索者ギルドと軍と国の上層部とで話し合わせてくれ」
デヴリンが深くため息を吐きながら言った。
「おう!
取り敢えず、今日は栗と胡桃と果物と穴兎を集めて回ろう。
ペルワッツではそこまで呑気に美味しい食材を集められないだろうし」
というか、未攻略で魔物のラインアップを修正していないペルワッツでは都合よく美味しい素材や魔物が出るようになっていないのだ。
美味しい果物なんて無い可能性が高い。
突然我儘を言い始めた!




