1295.18階の魔物討伐(17)
「持久走で走り続けられる時間が少し伸びてきた気がする」
16階でいつもの持久走をした後、食肉イチゴの傍で息を整えながら隆一が言った。
「確かに徐々に伸びているな。
フロアを走り回る回数も増えているから、最初に走り続けられる時間だけでなく、途中でも休むために早歩きする時間が減っているね」
ダルディールが隆一のコメントに頷いた。
「よっし!
そういえば、アーミーアントの群れを幾つか倒しちゃってもいいのかな?
それともまだギルドの実験や練習は続いているのか?」
少し息が整ってきた隆一は運搬具にデヴリンが採取して集めたイチゴの量を確認しながら聞いた。
集めるのは基本的にデヴリンがやっているが、最近は3分の1くれるので、今日は久しぶりにショートケーキを頼んでもいいかも知れない。
日本の『クリスマスにショートケーキ』という慣習はイマイチ理由が分からなかったし、値上がりするショートケーキを態々食べようと思ったことはなかったが、隆一も時々定期的にショートケーキを食べたくなる。
折角イチゴがたっぷり有るのだし、そろそろ良さそうだ。
「大体何通りかの状況を想定した実験は終わったから、あとは定期的に商業ギルドの人間の訓練に付き合う程度だ。一つ群れを残しておけば、残りは倒しても構わないと思うよ」
ダルディールが答える。
どうやら様々な荷馬車などで逃げながら低圧洗浄機モドキで酢を掛ける試みは一通り終わったらしい。
あれだって昨日の『中堅探索者』役のダルディールに背負われて走った場合と同じで、結局追いつかれるぐらい足が遅いか、追いつかれないぐらい早いかで運命が決まりそうな気がするが。
荷馬車だったら中の荷物を囮がわりに落として時間を稼ぐなんてことも出来るのかも?
囮に見習いとか人間が使われないことを期待したいところだ。
取り敢えず、そこら辺は深く聞かないのが正解だろう。
「じゃあ、今日は午前中は普通に動き回って倒し、午後はまた小走りぐらいのスピードで動いてもポイズンスライムを探知できるようにする鍛錬をしつつ、アーミーアントの群れに遭遇したら設置型足止め用魔道具を使って片側を抑えて、残りの方をダルディールに守って貰ったら群れを倒しきれるか、試してみよう」
そのフォーメーションで全部倒せるだけ魔力と気力が続いたら、次は撤退戦的な感じにゆっくり囲まれないように動きながら群れを倒しきれるかの鍛錬だ。
「ランチは上に戻るんだよな?」
デヴリンがイチゴを見ながら聞いてきた。
何か予約したいらしい。
もしかしたらスフィーナへのプレゼント的にイチゴのタルトでも考えているのだろうか?
先日隆一がジャムと刻んだイチゴを使った(多分)タルトも美味しいという話をしたら、何やらそのあとタルニーナと話していたようだったが。
「ああ。
ショートケーキを頼みたいし」
ついでに久しぶりにアーシャをお茶に呼んでもいいかも知れない。
前回のケーキの時は蟻退治の知恵を借りようと煌姫を誘ったので、暫くアーシャには会っていない気がする。
「最近は我々が下でイチゴを採りまくっているからタルニーナが色々と工夫をしているせいで、ギルドの喫茶店がイチゴ祭りみたいな感じになっていると妻に言われた。
それはそれで嬉しいらしいんだが、そろそろ他の果物も採りに寄らないか?」
ダルディールが提案してきた。
ダルディールはどうやらイチゴよりもメロンやオレンジの方が好きらしい。
「ランチに戻る際に13階に寄ろうか。
その方が昼食時にタルニーナにリクエストを出しておきやすいよな」
一応完全な物々交換でなくてもタルニーナのスイーツをゲットできるようにはなったが、素材が無ければ無理な物は無理である。
確実を期すならば、ランチ前に自分で欲しい果物を集めて行く方が良いだろう。
「あ、13階じゃなくて7階に行けるかな?
久しぶりに栗が食べたい」
どうやら妻よりもダルディールの希望なのかもしれない?
妻に尻を叩かれるダルディール氏w




