1294.18階の魔物討伐(16)
どうやら中堅どころの探索者でも走る速度は隆一より大分と早いらしい。
今回は先日よりもかなり遅れてアーミーアントの群れに追いつかれた。
まあ、最初から後ろ向きに座っている隆一が近づいてくるアーミーアントに氷矢を当てて足止めしたり、更に近づいてきたのに炭酸水入り酢を噴き掛けていたのも追い付かれるのに時間が掛かった理由の一つかもしれないが。
と言うか。
「これって、考えてみたらアーミーアントより早く走れるなら最初から追いつかれないし、遅いなら結局追いつかれて囲まれる??」
あまりにも追いつかれないのでダルディールが少し走る速度を落とした結果追いつかれたが、そこで隆一がアーミーアントを遅らせたらダルディールが引き離す形になり、暫くしたらダルディールが引き離し過ぎないように再度速度を落とし、と言う果てしない追いかけっこのような様相になってきた。
「確かに?
不意打ちを喰らって逃げる羽目になった場合はノンビリ背負子の中身を捨てて魔術師を背負う暇なんかない気がするし、最初から背負えていたら追いつかれる前に逃げ切るよな」
余裕たっぷりで横を走っていたデヴリンが隆一の言葉に頷いた。
「基本的に、これは川とか崖でアーミーアントの群れを撒ける場所に辿り着く前に体力が尽きそうになった時に一時的に蹴散らしてなんとか逃げ切るのに役に立つかもって形になるかな?」
ダルディールが付け加える。
どうやらダルディールとデヴリンでは体力がありすぎて追いつかれる状況の再現が上手くできず、隆一では体力が無すぎて追いつかれた後の逃げ切り部分が出来ない状況になるようだ。
「そうか。そう考えると、個人で背負子に低圧洗浄機モドキを持って歩くという想定自体にかなり無理があるな。
荷馬車が追い付かれそうになった時に逃げ切るのに使えるかもという程度か」
隆一がデヴリンとダルディールに背負ってもらって逃げるシミュレーションをしてもあまり意味はなさそうだ。
「まあ、やってみないと実際にどんな感じになるかは想定しきれないというのの一例だったな。
だが、この背負子としてもキャリーケースとしても使えるバックパックというのはそれなりに便利だと思うから、探索者ギルドの方で重量軽減バックパックの変形として販売・貸出をしたがると思うよ?」
ダルディールが少し慰めるように言った。
どうやらダルディールとデヴリンもここまで意味のない実験になるとは思っていなかったようだ。
「よし。
諦めてアーミーアントのテリトリーからもう出ちゃってくれ。
もう少し歩き回ってポイズンスライムをしっかり探知できるかを確認したら、19階に降りよう」
アーミーアントは隆一が一人で遭遇したら群れ全体を撃退するのも逃げ切るのも無理という事が判明した。
仲間が居たらそのメンバーの腕次第で撃退できるか否かは決まるので、あまり色々と試してもしょうがないだろう。
一応数体ならば倒せるようになったのだ。
これで良いとしようと諦めた隆一だった。
「いいのか?
もっと色々と実験したいなら付き合うぜ?」
デヴリンがちょっと慌てたように尋ねる。
どうやら18階をウロウロしている方が、更に下へと進んで下手をしたらヤバくなるかもしれない25階まで行くよりも良いと思っているようだ。
「う~ん、下に行く前にもっとオーガやアーミーアントを倒しまくって基礎能力値を上げた方が良いと思うのか?」
オーガはそれなりに倒せるようになったので、ポイズンスライムを探知できるようになったら18階は卒業できるかと思ったのだが。
それともアーミーアントの群れを一人で殲滅できるようになるまで下に行かない方が良いのだろうか?
一応地形を選んだ上で固定式の足止め用魔道具を使えば、多分殲滅も不可能ではないと思う。が、ある意味そこまで準備万端にならなければ倒せないのではあまりやる意味がない気がする隆一だった。
「あ~。
ちょっと持久戦っぽく、ダルディールに盾役をして貰って群れを全部倒せるか、やってみないか?
19階の風狼も群れるんだが、あっちの方が瞬発力が強くて素早いんだ」
ちょっと考えてからデヴリンが提案した。
なるほど。
持久力をもっと培う必要があるかもなのか。
毎日1時間走るのに加えて、群れを倒しきれるだけの魔力と体力の持久力を鍛える必要があるようだ。
まだ鍛錬が足りん〜!




