1293.18階の魔物討伐(15)
「オーガはほぼ問題なく倒せるようになったな」
隆一が16階で背負子型キャリーケースを背負って走り回り(最初は重さありでやってみたが、あっという間に息が切れたのでその後は半重力魔法陣をオンにして重さはほぼゼロにした)、1時間程運動をつづけた後に18階に降りてきて、最初のオーガをいつも通りに倒した隆一は魔石を抉りだしながら満足したように言った。
「確かに、大分と余裕をもって倒せるようになったな。
その足止め用魔道具の使い方も無駄が無くなってきた」
デヴリンが合意する。
「荷物を持って走ると全然体力がもたないのはさっき発覚したが、それでも着々と色々と能力が上がってきている感じだな。
ちなみに、兵士や騎士はかなり重い荷物を担いで走り込みをしなきゃいけないって聞いたことがあるが、何日ぐらいやったらそれが出来るようになるんだ?」
基礎能力値を上げながらやればそれなりに鍛錬期間を短縮できそうな気もするが、そこそこ基礎能力値を上げた筈の隆一が低圧洗浄機モドキで酢が入った背負子型キャリーケースを背負った程度であっという間に息切れしたことを考えると、意外と人間の耐久力と言うのは単純に基礎能力値だけの話ではないのかも知れない。
「まあ、どの位追い込むかにもよるが、数週間から数か月ってところかな?
折れるギリギリぐらいまで追い込むなら数週間、そこまで無理をしないなら数ヶ月ってところだな」
デヴリンが応じた。
折れるギリギリまで頑張る気がない隆一のだと、このペースなら数か月かかりそうだ。
というか、迷宮に来た時に1時間走る程度では永遠に無理かも?
まあ、荷物無しである程度走れるようになればいいのだし、どうせいざという時は運搬具に乗るか背負られるかのどちらかの可能性が限りなく高いのだが。
と言うか、この二人に守られていて「いざと言う時」が来るとは思えない。
「まあ、取り敢えず走り込みは毎回1時間頑張ることにしよう。
じゃあ、また目隠しするから適当にランダムな方向へ誘導してくれ」
一々タオルを目の位置に巻くのが面倒なので、大きなスノーキャップ的な帽子をかぶり、目を隠す感じにそれを下へ伸ばす。
「ほいよ~」
デヴリンがぐるぐると隆一を回し、ふらふらになった隆一を適当な方向へ引っ張って動かし始めた。
「ここら辺でいいかな」
そんな声と共に手が離された。
帽子を頭の上に戻し、周囲をあまり見ないように気を付けながら動き出す。
目隠ししていると魔力探知が敏感になる感じがするのだが、それを目隠し無しでも維持できるようにしたうえで、早歩きぐらいで動けるようになりたい。
特定の方向に注意を固定しないように広く浅くを意識しながら動いていたら、隆一は微かな魔力の動きを感じた。
「お、ポイズンスライム発見」
スライムを避ける方向に進行方向を変え、少し歩く速度を速める。
さっさとポイズンスライムのテリトリーを出なければ追いつかれてしまう。
だが、足を速めても探知を弱めぬように。
そう言い聞かせながら動いていたら、今度は複数の魔力の塊を感じ取った。
「お。
アーミーアントの群れだ。
よし、ダルディールとデヴリンのどちらが俺を背負う?」
足を止めて背負子型キャリーケースから低圧洗浄機モドキを取りだし、予備の酢をポケットに入れながら背負子に座ってベルトを締めながら隆一は二人に尋ねた。
「私が背負って走りつつ、問題があったらデヴリンが殲滅って流れが一番無難かな?」
ダルディールがデヴリンを見ながら提案する。
「ああ。
取り敢えず、追いつかれる程度の速度で走りつつ、中堅探索者程度の攻撃力でちょっと追い払うぐらな感じで動けばいいんだよな?」
デヴリンが確認した。
「ああ。
俺は酢をまき散らしながら余裕があったら攻撃魔術も使ってアーミーアントの群れから逃げ切れるかの確認だ。
俺は本気で頑張るが、デヴリンは俺たちがヤバくならない程度に手を抜いていざという時に備える感じにしておいてくれ」
「持ち上げるぞ~」
隆一が半重力魔法陣をオンにする前にあっさりダルディールがキャリーケースを背負って立ち上がった。
流石一流探索者。
成人男性を載せても苦も無く立ち上がれるらしい。
一流探索者の肉体能力は一体どこまで凄いのか、一度測定してみたいと思う隆一だった。
「一応半重力魔法陣をオンにするぞ?
走るのも、中堅どころの探索者が必死に走っている程度な感じで、無理に滑らかに揺れないように走らなくていいから」
ダルディールが滑らかに走る様努力するつもりだったのかは不明だが、取り敢えず中堅探索者の利用を考えたら揺れとかもガンガンあると想定した方が現実的だろう。
着々と成長中?




