1292.18階の魔物討伐(14)
「今日の荷物はそれだけなのか?」
隆一が引っ張て来た背負子用のベルトがついたキャリーカートっぽい代物を見てデヴリンが尋ねた。
「悪いが今日はイチゴと魔石はデヴリンがこの重力軽減バックパックに入れて持ち運んでくれないか?
こっちのキャリーカートは低圧洗浄機モドキと酢だけ入っている状態で持ち歩いて、アーミーアントに遭遇したらデヴリンかダルディールにこれを俺ごと背負って貰いたい。低圧力洗浄機もどきで酢をぶっかけながら中堅な探索者程度の速度で走った場合に、それと攻撃魔術とでアーミーアントの群れから逃げ切れるか確認したいんだ」
隆一が説明する。
キャリーカートとして物を持ち運べるがいざという時に背負子になるというコンセプトなので、背負子になった状態の時に中に入っていたものは出す必要があるのだ。
現実でアーミーアントの群れに遭遇したら荷物を捨てて逃げるぐらいはするだろうから、それでいいだろうとこの形にした。
幾ら重さをほぼゼロにしているとはいえ、子供ならまだしも成人男性がバックパックに詰め込んだ荷物の上に座っていたら重心がずれて走りにくいだろう。
多分。
なので中身はひっくり返して捨てると言う想定で試す。
隆一に渡された重力軽減バックパックを背負いながらデヴリンがキャリーカートもどきを観察した。
「中身がなければこれに座った人間を背負って走れるってことか。
普段は荷物を入れて背負うなり、さっき隆一がやっているように地面を引っ張って動いても良いとなると、魔力の消費量を節約できていいかも知れないな。
アーミーアントの群れに遭遇する想定がないなら低圧洗浄機モドキを入れなくていいんだし、魔術師と戦士のペアで動く場合にいざという時に魔術師が戦いながら逃げられる選択肢にもなるか」
探索者がゴロゴロとキャリーケースを引っ張って歩くというのは微妙にイメージと合わないが、背負うよりは車輪で引っ張る方が楽だし、採取している時なんかにも邪魔にならない。
「まあ、折角魔術師が居るのに戦士一人とだけ組むかどうかは微妙な気がするがな。
取り敢えず、運搬具を持っていくのが厳しい地形なんかで逃げる際に使うというかなり限定的な利用になるかも知れんが、思いついたから作ってみた」
どうせ隆一は迷宮内でしか大掛かりな探索は出来ないのだ。
そう考えると、隆一がこんな背負子型キャリーケースに担がれて逃げなければならない状況はほぼ起きないだろう。
「いや、貴族や子供を連れて迷宮にいかなきゃいけない時なんかに、これはいいかも知れない。
意識がないとか暴れている相手を背負って逃げるのは難しいからな。
これがあったら意識を刈り取った後にベルトで固定して背負って逃げられる」
後ろから来たダルディールがちょっと物騒な使い道を提案した。
「だよな!
煩い野郎を殴って飛行型運搬具に突っ込んでも良いんだが、人数が少なくなった場合なんかには背負う方が素早く動ける」
デヴリンがダルディールの言葉に相槌を打った。
どうやらアホな依頼人を連れて危険度が好ましくないぐらい高い迷宮の探索に行く羽目になるのは探索者としてそれなりにある経験らしい。
学者とかもアホのような行動をとることが多いらしいし、うっかり逸れないように背負子に縛り付けて逃げるのは良いのかも知れない。
まあ、飛行型運搬具に投げ込んで逃げるのでもありだろうが。
ただまあ、飛行型運搬具を引っ張って逃げるよりは重さのほぼない状態にした背負子型キャリーケースを背負って走る方が早く動けるだろう。
「取り敢えず今日は16階で走り回る時は俺がこれを背負って走ってみる。
18階に着いたらダルディールかデヴリンがこれを持っておいて、アーミーアントの群れに遭遇したら中身を出して俺を載せて逃げる実験をしてみてくれ」
まだまだポイズンスライムの探知は100%とは言えないので暫く18階を動き回る必要があるが、取り敢えずこの背負子でアーミーアントの群れから逃げるのが現実的であるか、試してみたい。
実用性が確認出来たら普通に飛行型運搬具に戻ってもいいし。
どうせ18階でダルディールが引いて走るならば飛行型運搬具で十分逃げられるのだ。
実証実験が終わったら探索者ギルドの方に売りつけてみよう。
中身を捨てる時間が惜しいかも……?




