1289.18階の魔物討伐(11)
午前中は走り込みが終わった後は出来るだけ普通の歩行速度を心掛けながらも用心しながらちょっとゆっくり気味に歩き回ったせいか、ちゃんとポイズンスライムもしっかり事前に探知できた。
その後にぶつかったのがオーガだったので、結局アーミーアントにはまだ行き当たっていない。
ギルドのテストで殲滅されている群れも居るせいで数が少し少ないのかも知れない。
で。
ランチの後に今度は早歩き〜ジョギング程度の速度で只管動き回っているのだが、結果はあまり思わしくない。
「うわっちゃぁ~!」
最初のポイズンスライムはちゃんと探知できたのだが、どうもオーガやアーミーアントに追いかけられながら走っていると慌てるのか、ポイズンスライムに不意を突かれて攻撃をされたのがこれで二度目だ。
「どうもリュウイチは後ろに注意を払いすぎだな。
王都迷宮内だったら接敵したアーミーアント以外はテリトリーを超えたら追ってこないんだから、少なくとも現時点での鍛錬ではある程度距離が離れたら後ろよりも前方や左右に集中するべきだぞ?」
デヴリンが指摘する。
「とは言え、外だったり25階だったら振り切ったと思った魔物に追われている可能性は十分にあるから、後方にも注意を払う癖は無くさない方が良いだろうが」
ダルディールが口を挟んだ。
「あ~。
確かにそうだな。
頑張って360度全部に注意を払え!」
苦笑しながらデヴリンが助言を修正した。
「デヴリン達はどうやって360度全部に注意を払って動き回っているんだ?」
ゆっくり歩くならばレーダーっぽい感じに360度全部を感知しながら動き回れば後ろから来る魔物も感知できるのだが、急いで動いているとレーダーもどきの動きが遅くなるせいで接敵する距離に近づいた魔物にうっかり気付かなかったしているのだ。
もっと鍛錬を積めばレーダーもどきの動きを早く出来るだろうが、何かいいコツがあるならそっちを知っておきたい。
「なんかこう、敵がいるとヒリヒリする感覚があるだろう?」
「攻撃に反応できる範囲をしっかり意識して、それに入りつつある存在を見つけようと意識を尖らせる感じかなぁ」
デヴリンのあまり役に立たない肌感覚的な探知についてのコメントの後に、もう少し実現可能そうなダルディールのコメントが続いた。
どちらもあまり参考にはならなかったが、隆一の様に昔の戦争映画に出ていたようなレーダーっぽく周囲に魔力感知の線をぐるっと回すような警戒の仕方はしていないようだ。
常時周囲を警戒して魔力を感じ取れるように、線を回すのではなく周囲全体へ警戒範囲を広げられるよう努力した方が良いのかも知れない。
「う~ん、ちょっと魔力探知のやり方を少し変えられないか頑張ってみるから、歩く速度を落とすぞ」
取り敢えずまずは毒を吐いて動きが鈍くなっているポイズンスライムのテリトリーから出て、次の魔物に行き当たるまでに何とかうまく探知できるようになりたい。
自分の周囲に魔力探知の円を薄く広げていくようなイメージで探知範囲を広げながらゆっくり隆一は歩き始めた。
無理やり探知範囲を広げていると時々ぶちっと探知範囲が切れて後ろからゆっくり追ってきているポイズンスライムの方だけに探知を集中しそうになるのだが、何とかそれを繋ぎなおす感じで自分の周囲全部を感じるよう努力しながら隆一は足を進めた。
左前方から魔力が近づいてくるのが感じられた。
ポイズンスライムより大きいが、オーガほどではない。
どうやらアーミーアントのテリトリーに入ったようだ。
「アーミーアントだ」
運搬具に近づき、低圧洗浄機モドキを取りだしながらアーミーアント達が寄って来るのと反対方向へ動き始める。
うっかりそのまま別の魔物の所へ突っ込まないように魔力探知の範囲をキープしようと努力しながら動くが、後ろからどんどんアーミーアント達が近づいてくる。
これはどうやら諦めて走り始めるべきか?
いや、一度炭酸水入り酢をぶっ掛けてから逃げる方が敵が混乱してくれて良いのだろうか?
……どうせ隆一の脚力で走っていても逃げ切れない可能性が高い。
取り敢えず追いつかれるまで只管走り、追いつかれたら酢をぶっ掛けるか。
かなり行き当たりばったりな鍛錬になりつつある?




