1288.18階の魔物討伐(10)
「氷槍!」
16階で1時間程走り回り(息切れしたので30分ぐらい走ってからは、早歩きと小走りを交互にやっている感じだったが)、暫く休憩を兼ねてデヴリンが残しておいたイチゴを採取した隆一は18階に降りてきた。
そして今、毎度おなじみ真正面のオーガと対峙していた。
テリトリーが階段から比較的すぐそばで、しかも近寄って来ると魔力で露骨に分かる上に真っすぐ向かってくるオーガは慣れてくると意外と倒しやすい。
今回も、一撃で首の付け根に氷槍を叩き込めた。
まあ、それでも体力があるので喉に氷の槍が刺さっていても直ぐには死なないのだが。
足止め用魔道具で両足を捉えて転ばせた後、隆一は暫し考えながらオーガを見ていた。
「これってこのまま放置したら氷槍の効果が広がって心臓や頸動脈が止まって死ぬかな?」
氷系の攻撃魔術は当たると体を冷やす効果があり、敵の動きを鈍くするが、どの程度まで実際に氷結効果が広がるのかは微妙に不明だ。
「頸動脈に関しては攻撃が当たった正確な場所次第だが、首に当たった程度では心臓は止まらないんじゃないかな?」
ダルディールが答える。
「ふむ。
このまま待っていた場合、頸動脈の血流が阻害されて死ぬか、術の効果が切れて元気に暴れ出すか、どちらになるかな」
首を切り飛ばすと死ぬのだ。
多分首の血流を止めればそれでも魔物は死ぬはず。
「微妙に不明だが、生きている間は魔物の魔力が攻撃魔術の効果を打ち消す方向に働くから、オーガだったら術が解除される可能性の方が高いんじゃないかな」
ダルディールが応じた。
「そっか。
じゃあさっさと止めを放った方がいいな」
魔物の魔力が攻撃魔術に抗う効果があるというのは過去に誰かから聞いた気がする。なるほど、生きたまま氷系の術でどうなるかと観察している場合、通常の術の残滓が消えるのよりも早く術が解ける可能性があるのか。
「氷矢!」
目を打ち抜く形で氷矢を叩き込み、鑑定で死んだのを確認してからオーガに近づいて魔石を抉りだす。
「真っすぐ突き進んでくる魔物って、左右に動きながら襲ってくる狼系や、ちょっとフェイントを入れるホブゴブリンとかに比べると簡単に殺せる気がするんだが、長生きしたらオーガでももう少しずる賢くなるのか?」
魔石を取りだし、少し離れた場所で目隠しを目に撒いてぐるぐると回りながら護衛役の二人に尋ねる。
ちょっとふらふらしたところでデヴリンが隆一の腕を取って適当な方向へ歩き始めた。
「あの迫力と体力で襲われるとちゃんと反撃出来る前に殺される可能性が高いからな。
魔術師がいないパーティだったら来るのが分かっていてもうっかりすると腕の一本や二本は折られかねないし、慌てている時にあの迫力はこちらの反応を鈍くする効果があるぞ。
ずる賢くなるかどうかはあまり何とも言えないが」
デヴリンが応じた。
「ちょっとフェイントが入るだけでも致命的だが、大抵のパーティは向こうの攻撃が届く前に魔術なり斬撃なりの遠距離攻撃で倒すからね。
私でもオーガに腕を殴られたら腕の骨が折れかねない」
ダルディールが付け加えた。
なるほど。
オーガは力技で押し切るタイプなのだろう。
隆一は攻撃魔術と足止め用魔道具があるからそれなりに楽に対処できているが、普通のパーティだったら中々厳しいのだろう。
足止め用の魔道具の値段は安くないし。
と言うか、隆一のクロスボウ型の足止め用魔道具を市販するべきかもしれない。
中々使い勝手が良いので、中堅どころな探索者が魔物を倒す際に非常に役に立つと思う。
「このクロスボウ型の足止め用魔道具って商業ギルドとか探索者ギルドに売りに出しても大丈夫かな?
まあ、実際に売るのは設計図を売りつけた工房になると思うが」
二人に尋ねる。
「このボーラ部分のスライムジェルと粘着糸を合わせた縄はどのくらい長持ちするんだ?
もしもの時用に持っていたのに、いざ魔物に出会ったときに劣化していたら困るんだが」
ダルディールが尋ねる。
「そっちはまだ耐久テストをしていないからなぁ。
今度ちょっとどういうテストをしたらいいかを考えながら、試してみるよ」
迷宮内で使うために毎日持ち歩いているならそれなりに迷宮の魔素にさらされるお陰で今龍一が持っている試作品は魔力が抜けなくて劣化も遅い気がするが、外での護衛業務なんかの時の為に買って宿に置きっぱなしにしていて依頼を受けた際にだけ持ち出すとなると、数ヶ月で魔力が抜けて粘着度が激減している可能性はある。
どうやってテストするか自体も、中々悩ましい。
時間経過のテストと言うのは一番面倒だ。
時間経過ってマジでテストし難いですよねぇ。




