1287.18階の魔物討伐(9)
「一番安全な走り込みの場所は8階なんだが、あそこは見通しが良いからリュウイチが走り回っているのが多数の探索者に目撃されることになる。
それを避けたいなら、16階が良いと思う。
イチゴ狩りに来ている連中がいたら見られるかもしれないが、まあぐるっと一周走っている間に特定の場所のイチゴを採りつくして移動している可能性もあるし、16階ともなれば来る探索者もそれなりに限られるから」
王都迷宮の前で合流した隆一に、ダルディールがお勧めな走り込み階層を言ってきた。
「確かに、それが一番かな?
ついでにイチゴも採れたら一石二鳥だし」
隆一も頷く。
実は8階の芋階層は陸上トラックの様に走る用に特化されているのではと思うほど走りやすい環境なので、実際に衛兵とか軍の兵士も走り込みに使っている場合があるようなのだ。
中に紛れ込めば隆一が走っているのも目立たないかもだが、それなりに目を引く可能性はある。
それに、16階のちょっと凸凹した野原っぽいフィールドの方が迷宮内で走り回る際の環境に近いだろう。
「じゃあ、取り敢えず1時間程16階でジョギングと息が切れたらウォーキングで体力をつけて、その後は18階で適当に歩き回りながら昼までは魔物を倒し、ランチを食べた後はまた18階で魔物を倒さずに素早く動きながら探知と逃げ回る練習をしよう」
考えてみたら、昨日あれだけグダグダになったのは魔物を倒さずに逃げると決めたせいで魔物がいるテリトリーに入ったら走って逃げなければならず、そうすると次のテリトリーに入った時にも魔力探知がおざなりで上手く魔物を探知できていなかったせいもあるのではないかと家に帰ってから反省した隆一は気付いたのだ。
現実的な話として、隆一が敗走する羽目になった場合は歩くのではなく走ることになるのだろうから、走っていてもちゃんと魔物を探知できて早い段階で避けられるだけの感知力が必要だ。
取り敢えず午前中の走り込みのあとはもう少し魔物を倒して攻撃魔術や戦闘の腕前を上げ、午後に探知力のアップとついでい体力向上を狙うのが良いだろう。
「無理に頑張らなくても多分大丈夫だし、ある意味頑張ってもダメそうだと俺とダルディールが判断したら25階まで連れて行かないぞ?」
ちょっと心配そうにデヴリンが隆一に告げる。
「まあ、どちらにせよ体力はつけた方が良いだろうし、暫く頑張ってみるよ」
転移門に向かいながら隆一が応じる。
何といっても本当に誘拐されるリスクがそれなりにある第二の人生なのだ。
うっかり護衛役からはぐれた際に走って逃げられるよう、体力をつけた方が良いだろう。
まあ、はぐれた場合は迷子の子供と同じで走り回らずにその場で立ち止まる方が良いのかも知れないが。
誰かに追われていたらそういう訳にもいかないし、そこら辺は一度、どういう状況だったら動かない方が良いのかとか、ちょっと確認した方が良さそうな気もする。
まあ、スラムや下町で逸れて周囲から獲物のごとく注視されている状況だった場合、そのままじっとしているのが良いのかどうかは微妙だが。
山の中とか野原で逸れるなんてことはほぼありえないと思うが、飛行具が墜落でもした場合は……飛行具の傍から離れない方が良いのだろう。
そこで襲われたら逃げる一択な気もするが、考えてみたら逃げるよりも飛行具の外装がなんとか攻撃に耐えられることを期待して中で待っている方が良い可能性も高い。
人間以外が襲ってきたならば飛行具に立てこもり、人間だったら逃げるというところだろうか。
一人で逸れられるほど自由に王都の外に出れるのはまだまだ先だろうが。
「ここでの走り込みでもその運搬具を引っ張って走るのか?」
15階の転移門から出て、16階へ階段を下りた隆一にデヴリンが声を掛ける。
「……流石にここでの走り込みの間は任せていいか?
午後に18階で急いで動き回る際は自分で引っ張るから」
そこまで無理に現実路線で行かなくてもいいだろう。
変に片手で引っ張って走る癖をつけると筋肉のつきかたが歪むかもだし。
「任せておけ。
じゃあ、頑張れ!」
にっかりと運搬具を引っ張って食肉イチゴの方へ向かいながらデヴリンが言った。
どちらか一人が隆一に付き添って走り、もう片方はイチゴ狩りをするので運搬具を確保しておきたかったようだ。
イチゴ狩り〜w




