1286.18階の魔物討伐(8)
「ポイズンスライムだぞ」
シュッとした音とともに毒液が飛ばされてきたのを、ダルディールが盾で防いだ。
「うわ、ダメかぁ。
さっきのは気が付いたのに」
思わず隆一ががっくり気落ちしてしゃがみこんだ。
「俺が倒してしまっていいのか?」
デヴリンが横から声を掛ける。
「いやまあ、練習がてらやるけど」
溜め息を吐きながら立ち上がり、隆一は氷矢を斜め前の岩の上にいるポイズンスライムへ叩き込んだ。
毒を吐いて直ぐは暫く動かないし毒のお代わりもないので、最初の一撃を防げれば倒すのは比較的簡単だ。
最初の一撃を先に気付いて先制出来るように18階を敢えてテリトリーを意識せずに歩き回っているのだが。
先ほど探知に成功したのに気が緩んだのか、今回はダメだった。
「う~ん、一々接敵している魔物を倒していたらちゃんと魔力探知がポイズンスライムでも確実に探知できるレベルになる前に魔物が居なくなってしまいそうだな。
取り敢えずランチの後は、見つけたら氷矢で足止めして、暫くは只管逃げ回ることにしよう」
隆一が提案した。
18階の魔物は危険度が高いだけあって、テリトリーもそれなりに大きい。
解体も魔石を取りだす程度しかしないでガンガン動き回って接敵した魔物を片っ端から倒していたら、この階層の魔物を全部倒してしまいかねない。
「アーミーアントの群れに接敵しても逃げるのに専念するのか?」
デヴリンが確認してきた。
「取り敢えずは?
逃げられるかの確認にもなるし、フェロモンを掛けられるぐらい近づいたらあの低圧洗浄機モドキで洗浄しまくるが、ポイズンスライムを確実に探知できると自信を持てるぐらいになるまで、只管歩いて接敵したら逃げることにしよう」
体力を使いそうだし、収支が著しくマイナスになりそうだが。
どうせ隆一は金儲けのために迷宮探索をしているのではない。
コボルトの群れを全部殺して歯形を取りまくるよりはまだ早く結果が出るだろう。
と、思ったのだが。
「はあ、はあ、はあ……」
荷物は持って動き回る方が現実的だし、どうせ妖精の手を使えば然程重くないということでそのまま運搬具を引きながら動き回り、魔物に接敵したら適当に走って逃げていたのだが。
「思ったよりも耐久力がないな?」
午前中に倒した魔物のテリトリーに入ったのか、特にどこの方向からも魔物が近づいてこない場所で立ち止まって息を整えている隆一にデヴリンが声を掛けた。
「戦闘は、それなりに、やってきたが、走り込みは、していなかった、から。
戦う時って、そこまで、ずっと連続じゃ、なかったようだ」
コボルトの群れなんかと戦う時もそれなりに連続で動いていたと思っていたのだが、あの時も足止め用魔道具やダルディールによって魔物を止められた状態で自分の都合がいいタイミングで戦っていた為、実はあまり体は酷使していなかったらしい。
まあ、元々戦闘スタイルが攻撃魔術なのだ。
魔力をガンガン使うことはあっても、体は適当に歩き回る程度で然程動かしていなかったことが判明した。
基礎能力値が上がれば体力も上がるのだから、当然スタミナも増えていると思っていたのだが、増えてはいても思っていたよりは上がっていなかったらしい。
地球にいた頃は高校卒業してからほぼずっとジョギングすらしていなかったので体力は駄々下がり状態だった。それに比べれば今は随分と体力が上がっていると思っていたのだが、魔物を避けて走り回るには足りなかったらしい。
「俺とダルディールが居たら走り回って逃げるなんて事にはならないと思って走り込みをしろと言っていなかったが、ちょっとやった方が良いかもだな」
ちょっと困った顔をしてデヴリンが言った。
どうやら隆一の持久力のなさはデヴリンの想定以上だったらしい。
「ちなみに、走り込みは外でやるよりも迷宮でやる方が効果が高いとか、あるのか?」
なんかこう、迷宮の方が楽だとか、より多く魔素を取りこめて効果が高いとか、何か違いがありそうな気もするが。
「大して違いはないが、リュウイチに王都の道を適当に走り回られるのはちょっと困るから、騎士団の拠点で走り込み練習をするか、迷宮内で走るかどちらかにして欲しいな」
デヴリンが応じる。
なるほど。
地球でだったら普通に朝か夕方にでも近所でジョギングするのだが、隆一がそんなことをしたら守りについている暗部の人間にとっていい迷惑だろう。
とは言え、一々ジョギングの為に騎士団まで行くのは面倒だ。
「じゃあ、これからは毎回迷宮に来た際に最初の1時間ぐらいはジョギングをするか。
どこでだったら走っても目立たないか、ギルドの方で確認しておいてくれるか?」
ダルディールに頼む。
ゴーレムの階層だったら走っていて接敵しても逃げ切れるだろうが、それなりに探索者に遭遇しそうだからちょっとみっともない気がしないでもない。
出来るだけ人目につかずに、迷惑にならない階層を勧めてもらいたい隆一だった。
ある程度走ったら体力がつき、それがずっと維持されると期待したいところである。
基礎能力値が上がっても必ずしも走り回る持久力は付かないことが判明w




